第十三話【一日を終えて】

 メルビンのせいでサーミリアのところに連れていかれてたせいで、午後の授業は全て欠席することになってしまった。

 しかし、魔法の基礎など俺にとってあまり有用じゃない座学の講義を受けるよりも、素晴らしい知識を得たのでよしとするか。

 魔力痕。これを見ることができれば、魔力量を調べるだけでは得られない様々な情報が得られるに違いない。

 しかし、今の俺にはどうやって見るのかすら皆目見当もつかない。

 そもそもサーミリアが俺の魔力痕を見たのはいつだろうか?

 魔力量を測っている時か、それともそれより前か……そんなことを考えながら門の方へ歩いていると、後ろから勢いよく背中を叩かれた。

 俺は衝撃で少し前のめりになりながら、叩いた人物の方へと顔を向けた。

 叩かれた時にかけられた言葉と声で、誰かなのかは振り向くまでもなくわかっていたが。


「やっと見つけた! もう、今までどこ行ってたの? いきなり壁は壊れるし、メルビン先生はフィリオ君を連れてどっかへ行っちゃうし」

「もう放課後だっていうのに随分元気だな。アムレット。まぁ、色々あったんだ。そっちは?」

「その顔を見る限り、何か大変な目にあったってわけじゃなさそうね。良かった! これでも心配してたんだよ? 私はあの後は競技場から退避させられて、次の講義は普通に出たよ」

「そうか。明日にでもどんなことを習ったのか教えてくれ。休学の件もあるし、少しでも巻き返さないとな」

「いいよ。ところでフィリオ君はどこの寮なの? 私はユニコニア寮だって。もし同じ方向なら、一緒に帰ろうよ」


 アムレットは白い歯をむき出して笑っている。

 何がそんなに楽しいのだろうか。


「ユニコニア寮ってのはどこにあるんだ?」

「え? あ、そっか。記憶を失くしてるんだったね。えっと、ユニコニア寮はこの学園の西の方角にある女子寮だって。近くには男子寮のドラゴニール寮ってのがあるらしいよ。フィリオ君はそこじゃない?」

「いや、残念ながら違うな。そもそも、俺はしばらくは家から毎日通うんだ」

「えぇ⁉ そうなの⁉ ここの生徒たちは特別な事情がない限り、みんな寮に住むって説明を受けたけど……」

「まぁ、俺がその特別な事情持ち、ってことだ。それ以上は悪いが今は言えん」


 俺が寮住まいではないと知りびっくりして目を皿のように丸くしていたアムレットは、俺の次の言葉を聞いて、何やら神妙な顔つきに変わった。

 そして、声を潜めて話を続ける。


「なるほど……わかったよ。フィリオ君は特別だってこと、私とフィリオ君の間だけの秘密にするから。ふふふ……任せておいて。こう見えて、口はかなり堅いんだから」

「何か勘違いしていないか?」

「大丈夫! 心配無用! フィリオ君が、特別だってことは私はすでに知っているけれど。きっとクラスのみんなはまだ気づいていないと思うよ! あ! もしかして、記憶喪失だっていうのも、そういう振りなんだね? あんな凄い魔法を使えるフィリオ君が昔の記憶ないなんておかしいと思ったんだ!」


 どうやら、俺の言った特別の意味を全く違った意味で理解してしまったらしい。

 しかし、訂正するのも面倒になってしまった俺は、自分の妄想で興奮しているアムレットをそのままにして帰ることを決めた。


「まぁ、何でもいいが、そういうわけで帰る方向は同じじゃないから。じゃあな」

「あ! むー。仕方ないね。物分かりがいいのも私の長所なんだ! じゃ、また明日! 明日も一緒に講義受けようね!」


 アムレットはそう言うと俺の返事も待たずに手を振りながら南にある門とは別の方角へと走っていく。

 俺の方に上半身を大きく向けながら走っているが、前を向けよ……あ、こけた。

 アムレットは痛そうに身体を擦りながら、しかし元気よく起き上がると、俺に再度手を振る。

 さすがに学習したのか、今度は振っていた腕を下ろし、きちんと自分の進む方向を向いて、まっすぐと駆けていった。

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