第7話 多彩な

「いたな……」


足場の悪い湿地帯。

周囲に溶け込む様に水場に潜む大型のトカゲ型の魔物――グレートモニターを狩人の能力で発見する。


「先制攻撃させて貰うぜ」


相手の居る付近は足場がかなり悪い。

だから遠距離攻撃で相手を誘き出し、比較的動きやすいこの場所で仕留める事にする。


そのために、俺はサブクラスを狩人から魔法使いへと変更。


「フリーズアロー!」


詠唱を素早く終わらせ、氷の攻撃魔法を発動させる。

今俺が扱え得る魔法は、炎と冷気のそれぞれの下位魔法だけだ。

炎ではなく氷の魔法を選択したのは、ここが湿地だからである。


周囲は水だらけのこの状況では、炎の魔法で攻撃しても効果は薄い。


相手の弱点や状況次第で魔法の効果は大きく変わるので、魔法はある程度考えて使わなければならないのだ。


「ぐえぇぇぇぇぇ!!」


魔法がヒットし、奴の体の一部が凍り付く。

大抵の魔物は、攻撃を仕掛けられると怒り狂って突っ込んで来る物だ。

ビッグモニターもその例に漏れず、態々自分が有利になる位置から此方へと突っ込んくる。


「助かるよ」


相手の体長は約5メートル程。

かなり大きい図体をしている。


……まあCランクの魔物だからな。


その見た目通り、こいつはかなり強い魔物に分類されている。

俺はサブクラスを戦士に切り替え、剣を構えて迎え撃つ。


「ぶしゅうううう!!」


雄叫びと共に、奴が地を這って突っ込んで来る。

流石にこれを正面から受ける気はない。

横に割けつつ、奴の右前足を切り裂く。


「ぎゃあああおう!」


足を一本失った奴は苦しみの雄叫びを上げつつも、その長く太い尻尾を振り回して此方に攻撃して来る。

俺はそれをジャンプで躱しつつ奴の体を飛び越え、着地と同時にその腹部を切り裂いた。


「ぐるあああああああ!!」


痛みからグレートモニターが暴れまわる。

俺はそれを巧みに躱し、奴の首筋に剣を突き立て止めを刺した。


「ふぅ……流石にこの剣は買い替えないと駄目だな」


冒険者として活動を始めて2か月、ここまで色々な魔物を狩って来た。

一応手入れはしているが、俺の剣はもうボロボロだ。

本格的な修理を依頼する手もあるが、折角なのでもうワングレード高い武器を買い替える事にする。


「ま、取り敢えず解体だな」


俺は解体用の鉈や鋸を腰のベルトから取り外す。

このサイズになると、剣で解体という訳にもいかない。

ある程度専門のアイテムを使わないと。


俺は一心不乱に解体作業を進めていく。


今の俺の戦士としてのレベルは7だ。

先程使った魔法使いと狩人は3になっている。


通常、転職するとクラスのレベルは1にリセットされる。

だが俺のサブクラスの場合は転職ではなく、変更だ。

あくまでも【サブクラス付与】に内蔵されているサブクラスを変更しているだけなので、今回の様に入れ替えてもレベルがリセットされる事はない。


なんでスキルに内蔵されてるクラスのレベルが上がるんだって疑問はあるが……

まあそういう仕様なんだからとしか言いようがない。


「全部いっぺんに上がってくれれば最高なんだが……ま、そりゃ我儘か」


クラスのレベルは個別に存在している。

だから戦士は7で、魔法使いと狩人が3なのだ。


サブクラスの経験値の取得方法は、メインのクラスと同じ。


クラスに沿った行動やスキルによって手に入る行動経験値――『転職屋」のレベル50はこれで上げている。


もう一つは魔物を倒すと手に入る経験値だ――魔物を倒した際のクラスだけが取得。

基本戦士でトドメを刺す為、これはほぼ戦士に入っている。

戦士のレベルが高いのはこのためだ。


「思ったより嵩張かさばるな」


何匹か狩って帰ろうかと思ったが、素材の量が思っていたより多い。

複数匹分を一人で持ち運ぶには厳しい――主に荷物を収納するスペース的に。

かといって、金になる素材を捨てるのも癪だ。


……やはり単独行動だと、この辺りがネックになって来るな。


出来れば自分一人の力でどこまでやれるのか試したいんだが、まさか荷物がネックになるとは夢にも思わなかった。


「まあパーティーを組まなくても、荷物運びを雇うって手もあるが……」


その他にも小型の魔物だけを狙うという選択肢もあるが、けど、出来ればいろんな魔物を狩ってみたいと俺は考えている。

そう考えると、荷物持ちを雇うのが無難か。


「よっこらせっと」


嵩張ってはいるが、戦士状態の今の俺の筋力ならたいして重い荷物ではない。

にも拘らず思わず変な掛け声が出たのは、俺がおっさんだからだろう。

おっさんとはそう言う物なのだ。


「気持ちはまだまだ若いつもりなんだが、こういう節々で歳がでちまう」


俺は苦笑いし、湿地を後にする。


その後を付けている人間がいる事に気付きもしないで――

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