第4話ファイヤー!

俺はフカフカのベッドの上でぼーっと天井を見上げていた

…シャンデリアついてる…

なるべく脳以外にエネルギーを使わないように体の動きを止め、「シャンデリアついてる」以外の情報を入れないよう努めていた


なぜなら俺がこの高級感たっぷりのキングサイズベッドで目を覚ましてから、タイミングよくこの部屋を訪れたあの緑頭から『今の俺の状況』について説明を受けたが

その説明全てが俺のキャパシティをオーバーしていて、知恵熱が出た俺は説明後1時間は軽くうなされたからだ

…巷でよく聞くキャパいって言葉はこういう時に使うんだろうな

間違いなく今俺はキャパっている


ここからあの緑頭から伝えられた内容をおさらいしよう…


あの緑頭はフォティアという名前らしく、「ティアって呼んで」と爽やかな笑顔で言ってきた(…がさすがに会ったばかりの人をあだ名で呼ぶのはまだ憚られるのでフォティアさんと呼ぶことにした)


どうやらフォティアさんはこの街の王様で年齢は120歳だという。この世界に存在する人は全員耳の尖ったネライダという種族で魔法が使えるらしい

…この時点では?ちょっと待って?状態なのだが詳しくは後にして続ける

ちょうど25年前この国は別の奴が民権を握っていて長いこと荒れ果てていたらしく、前王様の独裁政治は相当ひどいものだったそうだ

国の統治だけでは飽き足りず前王様は禁書と呼ばれる書物に手をだし『異世界に渡る魔法』を行使したが、高難易のしかも初めて使う魔法は成功しにくいらしく

なぜか前王様が異世界に渡るのではなく、異世界から人間が1人この国に召還される失敗に終わったという


…ここで察しのいい人は気づくだろう


そう『この国に召還された1人の人間』こそ俺の父

桜井 勇志だったのだ


運良く父さんは前王様のいる城じゃなくそこから数キロ離れた街中で飢えに苦しんでいた子供たちの前に召還され、ご飯中だったのか持っていた白飯を分け与えているところをフォティアさんが発見したという


そこからは俺もよく知るあの超絶王道物語がフォティアさんの口から語られ


『創作おとぎ話』から『本当にあったあり得ない話』にグレードアップした


父さんとフォティアさんは2人で前王様を捕らえた後国の再建に尽力して、『国に1人の王様』という政治から、『街にそれぞれの統率者』を決めて定期的に交流し発展させていく方針に変えたそうで

フォティアさんはこの街の統率者として街の人たちから王様と呼ばれ信頼されている


そして父さんはこの街の人と子供をつくり、俺が産まれ、禁書の力で元の世界に帰ったと…


それから、フォティアさんはたまたまこの城の地下にある書庫に用事があり立ちよったところ俺を見つけたらしい

俺が魔法でこの世界に召還されたのは間違いないだろうが、誰が何のために召還したのかはわからず

それもこれから調べると言っていた


父さんの話の途中でフォティアさんは使用人のような人に呼ばれざっくりとした説明でいなくなってしまったが、禁書とかいうワードがでてきたあたりから知恵熱状態だったから逆に良かったかもしれない


「…わけわからなすぎる」


最初から状況が理解できる異世界転生のほうがどれだけ良かったか…

この世界は魔法が使える世界で、ここで暮らす人たちはみんな耳が尖ったネライダという種族で、俺は人間とネライダのハーフで


考えるより慣れたほうが早いんだろうな

きっとポジティブなやつは「俺にも魔法が使えるかも!」って喜ぶんだろう


「…ファイヤー!」


俺は両手を天井のシャンデリアに向けてそれっぽい呪文を唱えてみせた

当たり前だが火はでない


「…何やってんのお前」


「うわぁぁぁぁぁぁ!?」


さっきまで俺以外誰もいなかった室内にいつの間にかあの黒髪がドン引きした顔で立っている

移動系の魔法かなんかで来たのか!?


俺は驚きよりも幼稚な呪文を唱えてポーズを決めている場面を見られたことが恥ずかしすぎて布団にズボッ!!!と潜り込んだ

今なら顔から火がだせそう


「王さまがまだ時間かかるからって俺を来させたけど…なに、自分にも魔法使えるかもって思ったわけ?」


布団かぶってて顔は見れないが、声音から黒髪がニヤニヤ笑っているのがわかる

30秒前の俺死んでくれ……


「お前絶対性格悪いだろ…」


「ユウジにも同じこと言われた」


少し空気が固くなった気がして俺はゆっくり布団から顔をだす

そういえばこいつも父さんの知り合いなんだな…

黒髪は機嫌悪そうに腕をくんで俺を睨み付けていた

改めて見るとやっぱり幼い顔で俺より年下に見える


「…黒髪は何歳なの?」


「黒髪って言うな。俺はエクダスだ。95歳だからお前より年上なんだよガキ」


吐き捨てるように自己紹介され、この種族の年齢と人間の年齢を同じ物差しではかっちゃいけないな…と見た目で推測するのをやめた

…しかし初対面時から俺めちゃくちゃ嫌われてる?


「いつまで寝てんだよ。行くぞ」


ずかずかと俺に近づいたエクダスは腰までかかった布団をひっぺがし俺の腕を掴んで引っ張る

こいつに掴まれて立ちくらみやら吐き気やらが起こった記憶がフラッシュバックし俺は慌ててエクダスの腕をはらって後ずさった


「すぐ隣の部屋に行くのにわざわざ魔法使わねーし」


俺の考えてることを察してかエクダスはそう言うと

くるっと踵をかえして足早に部屋の扉に向かっていく


俺は慌ててベッドから降りその小さい背中を追いかけた

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