第3話気絶とかすんなよ

 正直父さんが勇者装備だったりこのコスプレさんと知り合いだったりしたのは今俺の口が間抜けに開いたままになってる要因じゃない


 この画像の父さんが仮に俺と同じ年齢だったとして、もうそこから20年以上は経ってるんだぞ

 俺の知ってる桜井 勇志は髪も白髪交じりで視力は低下してダッサイ眼鏡かけて、無精ひげだって生えまくりの《おっさん》なんだぞ


 なのに今俺の目の前に立ってるこの人は…


 チラッと画面から視線を上にやる


 ツヤツヤの髪(緑だけど)

 シワ1つない肌(耳尖ってるけど)

 見た目年齢はともかく実年齢にそぐわぬ若々しいファッション(コスプレだけど)


 とても俺の知っている40代おっさんとかけはなれている


 び、美魔女ならぬ美魔男…?

 いや、もしかしたらこの人も父親とそっくりな息子パターン??


「あの、父さんの隣にいるのって…」

「それは僕だよ」


 …IKK○さんもびっくりな美容法があるのかもしれない

『父親とそっくりな息子』繋がりでこのコスプレさんと会話が広がるかもしれないと思った俺の淡い期待は粉々に砕け散った


 俺が美容法について聞こうかそれとも年齢に触れようか迷っていると、思っていた反応と違ったのか黒髪コスプレが明らかにイライラしながら俺を指差した


「こいつ最初のユウジと同じ状態っすよ。一回見せてやんないと」

「ふふ、そうだね。好きなの見せてあげなよ」


 黒髪と対照的にこの状況を楽しんでいるのか微笑ましそうに俺を見つめる緑頭

 なんだ?何を見せられるんだ??

 正直この2、3分の間に火で焼かれたり場所変わったり脳みそがぐちゃぐちゃになりそうなくらいのおったまげ現象が次々起こってるから一回休憩したい…


 そんな俺の気持ちなんて知りもしない黒髪はめんどくさそうに俺に近づくと


「運ぶのダルいから気絶とかすんなよ」


 生意気なセリフを吐き捨てて俺の肩に触れた

 刹那、立ちくらみのような感覚に襲われうっ、とこめかみをおさえる

 頭の使いすぎで疲れたかな

 ついぎゅっと目を瞑ってしまったから何を見せられたのかわからず、黒髪に謝ろうとして頭がズキズキと重だるい状態のまま目を開けると


「…」


 俺の肩に手を置いた黒髪はそのままに、背景

 即ち薄暗い書庫から、どこか知らないレンガ調の家が建ち並ぶ外の景色に変わっていた

眩しいくらい天気のいい青空に、さっきまでの埃っぽい空気とうってかわって澄んだ匂いがする


「…」


 俺が眉間にシワを寄せたまま黒髪を見つめていると

 黒髪は何も説明せず俺の肩をグッと掴みなおした

 するとまたぐわんと立ちくらみが起こり、今度は吐き気まで感じるほど強い頭痛も伴って俺は目を開けていられず咄嗟に口を手で覆う


「ちょ…っと…待…」


 おえ…っとえずきそうになっていると「おかえり」と優しい声が聞こえ、頭痛がおさまるのを待ってゆっくり目を開ける


「どこまで行ってきたの?」

「すぐそこですよ。城の横のとこ」


 黒髪がようやく俺の肩から手を離して緑頭のところに戻っていく

 見渡さなくてもここが『薄暗い書庫』なのはわかった

《戻って》きていた


「お、こいつユウジみたいに気絶しないっすね」

「ユウジから魔法のことは聞いてたのかな?移動は慣れるまで酔うけど大丈夫?」


 少し話そうか。と緑頭は部屋の隅にぶら下がっているランタンに手をかざした

 かざした手がオレンジ色に発光し、小さな光の玉が現れたかと思うとシュッとランタンに吸い込まれ

 ぽわんとガラスの中に暖かな光が灯る

緑頭は遠い昔を懐かしむように話し出した


「どうして勇気がこの世界に来れたのかはわからないけど、元気そうでよかった。本当に大きくなったね」


「…」


「勇気は記憶になくて当然だよ。赤ん坊の頃の話だから」


「…」


「ユウジは…お父さんは元気?」


「…王さま…こいつ…」


緊張を解すかのように優しく語りかける緑頭の話を黒髪が遮ると、返事もせず動かない異質な存在をじっと睨みつけた

その様子から緑頭もようやく察する


こいつ…


「「立ったまま気絶してる…」」

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