第四話 日常の終わり

「速やかに武装を解除して、両手を上げろ!」


 僕を取り囲んだ人たちのうちの一人がそう言った。


——あの服…、クロカワたちと同じだな。


 どうやら、D.M.Sという組織の隊員のようだ。


「早くしろ!」


 そんなことを考えていると、催促の声が飛んできた。銃口を向けられていることだし、従うことにしよう。


 首輪のスイッチをもとの位置へと戻し、変身を解く。


 それと同時に、忘れていた痛みと疲れがどっと押し寄せてきた。


「うぅ…」


 僕は、思わずふらふらとよろめいてしまう。


「おとなしくしろ!そのまましゃがむんだ!」


 言われた通りにする。


「お前は何者だ⁉」

「た、ただの通りすがりの高校生です…」

「嘘を言え!ならどうしてチョーカーを使えるんだ⁉」

「チョ、?そんなもの学校じゃみんな使えますよ…?」

「とぼけるな!」

「し、知りませんよぅ…」


 チョークだとか、使えるとか何の話なんだ。もしかして、下ネタか何か?こういう一方的な人、苦手だな。


「副隊長、それくらいにしておいてやれ」


 質問攻めを喰らっていると、後ろから近付いてきた人間がそれを制す。


「隊長!こいつは危険です!」

「どう見たって、ただのガキだろう。そこまで過敏になることはない」


 どうやら、さっきまでのうるさい人は副隊長のようだ。そして、この男は隊長。少しは、話の分かりそうな人が出てきて安心だ。顔は怖いけど。


「大丈夫か?うちのが迷惑かけたな」

「いえ…、怪しいのは当然なので…」

「それもそうだな。お前、名前は?」

「はい…?」

「名前」


 突然さっきまでと毛色の違う質問をされるものだから、少し反応が遅れてしまったが、答える。


赤根あかねまもるです」

「そうか、マモルというのか」

「なんですか?まさか、これからデートにでも誘おうってわけじゃありませんよね?」


 しまった。いつもの調子で思ったことが口に出てしまった。これは、怒るかな…、顔怖いし。


「…⁉隊長に向かってなんて口を!」

「まあ待て」


 怒ったのは副隊長だったが、彼はそれを再び制す。やはり、落ち着いている人のようだ。顔は怖いけど。


「相手は俺じゃないが、これからの予定があってな、君を是非にと言われたんだ」

「お見合い…?」

「うちののが、呼んでいる」


 ——ああ、そういうことか。


 どうやら、僕はこれからどこかへ連れていかれるらしい。おそらく、この人たちの所属している組織だろう。


「…わかりました」

「話が早くて助かるよ」


 僕は、隊長やその他隊員につれられる形で、輸送車に乗り込んだ。


 ——今日は、学校休まないといけないなあ…。





 10分?20分?どれくらいだろうか?しばらく揺られていると、停車した。どうやら、到着したようだ。


「降りろ」

「はい」


 一体どんなところだろうと、緊張していたが、それを見たときには思わず驚いた。


「なんだこれ…」


 デカい。


 とてつもなく大きな建物が目の前にある。日本じゃあ、地震で一発でやられそうなくらい大きい。大きいのだが―


「思ってたより普通だなあ」

「監視カメラの代わりに、機銃でもついていたほうがよかったか?」

「それはそれで物騒なのでやめてほしいですね」


 この隊長、冗談とかいうんだな。思ったより親しみやすい人なのかもしれないな。顔は怖いけど。


「中も普通ですね」

「こういうのが一番機能的なんだ」

「そういうものですか」

「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺は【柔楽やわら 笑太しょうた】」


 そう言いながら、どんな字を書くかも教えてくれた。意外と細かい気づかいをするタイプのようだ。そして、かわいい名前をしている。顔は怖いけど。

 

 そんなことを話しながら、しばらく歩いていると、ある部屋の前に着いた。


 隊長が、扉をノックすると、中から声が聴こえる。


「入れ」

「失礼します」


 入室する。ここも思っていたより普通だ。そして、その部屋に二人の男。一人は、いかにもトップという感じの男、他の人たちより、制服も心なしか豪華だ。もう一人は、なんだか科学者という雰囲気がする男。


「言われた通り、少年を連れてまいりました」

「よくやった。隊長以外は退出してもいいぞ、各自持ち場に戻れ」

「「「はっっ!」」」


 ぞろぞろと隊員たちが退出していき、部屋には僕と隊長を含めた四人だけになった。


「さて、本題に入ろうか。私は【恐田おそれだ 強平きょうへい】。ここの総司令官だ」

「ボクは、【機動きどう ただし】。ここで、装備の開発をしているよ」


 司令は【オソレダ】、科学者は【キドウ】というらしい。どんな字を書くかは、あとで隊長に聞こう。多分教えてくれる。


「あ、赤根あかねまもるです」


 僕も、とりあえず自己紹介をしてみた。ついでに、どんな字を書くかも教えておいた。


「そうか、執というのか」


 なんだか同じセリフをさっき聞いた気がするけど、気のせいだろう。


「それで、本題って何ですか?」

「ああ、この映像を観てくれ」


 そう言いながら、オソレダは壁に埋め込まれたモニターにひとつの映像を映し出す。そこには、さっき僕が戦っていた時の様子が映っていた。


「これは、?」

「は、はい。というか、こんな感じの見た目だったんですね」


 変身している時の僕の見た目は大体、クロカワが変身していたロアーに似ている。違うのは色だろうか。


「うーん、観れば観るほど痺れる映像だねえ!」


 映像を観ながら、キドウはなにやら興奮気味に話し始めた。


「なにより、チョーカーはエラーを起こしていたはずだ。そして、おそらくとんでもない量のエネルギーが君の体に流れていたはずだ!どうしてキミは耐えられたんだい⁉」


 キドウは、話しながらますます興奮してくる。そして、なにより——


「ちょ、近いです…!」

「ああ、ごめんね」


 すごく近づいてきた。興奮すると周りが見えなくなるタイプだな。


 そんなことを考えながら、質問に答える。


「あの時は、僕も夢中で…、よくわからないんです。ただ…、自分の中に流れる力をようにも思います」

「んんんなるほどぉ‼痛みと一種の興奮状態で、アドレナリンが大量分泌されていたのかもしれないねぇ‼なるほど興味深い‼‼」


 また、近づいてくる。僕はそれとなく離れながら、さっきから気になっていることを聞く。


「あの‼そろそろ本題に入ってもらえませんか?」

「んおお⁉ああ…、そうだったね」


 キドウは、ようやく落ち着きを取り戻したようで、僕に向き直り——


「キミ!執クンだっけ?」

「はい」

「それじゃあ執クン‼」


 大きく腕を広げて、こう言った。


に入らない?」

「……?」


 僕は、何を言われたか一瞬理解できなかったが、だんだんと言葉の意味を理解していく。


「はいぃぃ⁉」


 とんでもないことになった。

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