第7話/ミニスカポリス♡


掃部かもんさん、寝不足ですか?」

「ストーカーが気になってな」


ピンポンダッシュを受けた翌朝、怖くてなかなか寝付けなかった俺は、絶賛寝不足中だ。

目を閉じたら、たったままでも寝れる勢いだ。


「朝方にも一回チャイム鳴りましたよね」

「多分寝てて気づかなかったわ」

「それより聞いてください! 朝ごはんをちゃんと作れました!」

「なに作ったんだ?」

「焼きそばのカップ麺です!」

「それ俺のだろ!」

「あっ! 三分経ちました! お湯を抜きますよー! ちなみに、掃部かもんさんは抜きました?」

「いや、俺はパンを焼く」

「違いますよ! 夜的な、いや、性的な意味です!」

「朝からなに聞いちゃってんの!?」

「あれ? お湯が茶色いです!」

「最初にソース入れたんだろ。味無くてもちゃんと食えよ」

「排水溝に落ちたものをですか!?」

「それはいい!」

「全部落ちました!!」

「‥‥‥はい、掃除しておきます‥‥‥」

「頑張ってくださいね! 私はコンビニからなにか買っていきます!」

「おう‥‥‥」


朝宮が先に家を出ていき、俺は焼きそばの神様に謝りながらキッチンの掃除を済ませて家を出た。

結局、パン食べる時間も無かったし、ストーカーの件も不安だしで、最悪な一日のスタートだ。





学校に着くと、教室で朝宮が昨日の告白について、新聞部の女子生徒から取材を受けていた。


それを見て俺は一人で、隣のクラスに居る爽真の様子を覗きにきた。

昨日のが本当にストーカーだとしたら、犯人は爽真で間違いない。

だとしたらヤバいんだ。

俺と朝宮が一緒に暮らしているのがバレたかもしれない。

上手く誤魔化して、尚且つストーカーをやめさせる方法はないか‥‥‥。


「あれ? 掃除は?」

「陽大か。今やる」


隣のクラスを覗いていると、陽大に声をかけられ、怪しまれないように掃除をしに自分の教室に戻って掃除を始めた。


「それでは、今は恋愛に興味がないと言うことですか?」


新聞部も頑張ってインタビュー続けてるな。

それに野次馬が多くて、教室の掃除は無理だ。

今日は自分の机だけ綺麗にしよう。


俺はインタビューを聞きながら、自分の机をアルコールティッシュで拭き始めた。


「興味はあります。気になる方ができるか、私の心を惹きつける男性が現れたら、片想いはするでしょうね」


それを聞いた男子生徒達が、夢を見て静かにガッツポーズしてるけど、朝宮なんかに惚れられたら毎日地獄だと思うけどな。


「ズバリ、好きなタイプはどんな男性でしょうか」

「そうですね。精神年齢が高い方とかですかね」

「年上がタイプということですか?」

「そういうことではありません。年上でも全然いいですが、人の痛みを知っていたりする人がいいですね。つまらない回答になりますが、優しい方が好きです」

「なるほど。好きな食べ物を聞いてもいいですか?」

「今回の記事になにか関係あるんですか?」

「朝宮さんは人気者ですから、色んなことを知りたがっている生徒が沢山いるはずです。是非、次回の記事に使わせていただきたく」

「そうですか。プリンとシュークリームですかね」

「あら可愛い。おっと失礼」


クールな朝宮の口から、プリンとシュークリームという以外な言葉を聞いて、男子生徒はもちろん、女子生徒までもがトキメイてしまっている気がする。

それに今更だけどこの新聞部、前髪ちょんまげスタイルってどうなんだよ。アンテナばりに真っ直ぐだし。

笑顔が素敵な人がデコ出ししてたら、雰囲気も明るくていいんだろうけど、この人はなんていうか、目が死んでる。


「そろそろチャイムが鳴りますね。恋愛以外のインタビューはまた今度ご協力お願いします」

「はい」

「それと」


新聞部の生徒は机を拭く俺を見て言った。


「貴方は何故さっきから机を拭いているんですか?」

「き、綺麗好きなんだ」

「そうですか。記事にはなりませんね」


なんかごめんね!?


新聞部の女子生徒は、アンテナヘアーを揺らしてトコトコと教室を出て行ってしまった。





「やっとお昼だー! って、一輝? どこ行くの?」

「コンビニ寄れなかったから、売店行ってくる」

「この高校の売店、ぼったくり価格なのに」

「たまにならいいよ」


財布を持って教室を出ようとすると、次から次へと男子生徒が教室になだれ込んで来て、朝宮の机にプリンやらパンやらを大量に置き始めた。


「よかったら食べて!」

「プリンが好きって聞いたから! 俺、隣のクラスの」

「焼きそばパン好き?」


みんな、朝宮に優しくするのに必死なのか。

これはトイレに逃げ込むのも無理そうだな。


あまり朝宮のことは気にせずに売店へやってくると、すでに完売の看板が立っていた。


「あ、あの」

「ごめんね! 今日はどうしてか、全部売れちゃったよ!」

「そうですか」

「えー、なにもないね」

「爽真!?」

「え? 君は?」


売店でまさかの爽真と鉢合わせしてしまった。

しかもビックリして名前を口にしちゃったし、めんどくさいな。


「と、隣のクラスの」

「あー! 掃除機くん!」


すっげー嫌な覚えられ方してるな。


「僕になにか用かい?」

「いや、話題の男だからついな」 

「ちょっと傷つくな‥‥‥」

「悪いな」

「いいよいいよ! 君もお昼買いそびれたのかい?」

「あぁ、今日は我慢するしかないな」

「それなら新聞部に言うといいよ!」

「なにをだ?」

「新聞部は情報と交換で、欲しいものを可能な範囲で用意してくれるんだ! さぁ! 行こう!」

「お、おい‥‥‥」


流れで、俺が警戒している爽真と行動することになってしまった。

でもあれか?爽真が本当にストーカーだとしても、俺と暮らしていることはバレてないだろうな。

バレてたら俺と一緒にいること自体、爽真からしたら避けたいことだろう。


結局大人しく付いていって、新聞部の部室に来てしまった‥‥‥。


「失礼しまーす!」 


部室にはあのインタビューをしていた生徒一人しか居なく、薄暗い部室で新聞作りの作業中だった。

リボンの色は赤だし、同じ一年生か。


「あらあら、話題の失恋男子じゃないですか。あとつまらない人」


朝のあれだけで、もうつまらない人認定!?

なんか辛い。


「あはは‥‥‥失恋男子、間違いないよね」

「貴方にはインタビューしたいと思っていたんです」

「インタビューを受ける代わりに、今日のお昼ご飯を用意してほしんだ」

「いいでしょう。私の弁当をあげます」

「いいのかい?」

「構いませんよ」

「ありがとう! ほら、掃除機くんも」


俺の名前は掃除機くんじゃない!

でもいいや。今は一か八かストーカーのことを言って、爽真の反応を見るか。


「いい情報がある」

「なにが望みですか?」

「俺の昼飯も用意してほしい。でも、新品のパンとかじゃないと食べれない。手作りはやめてくれ」

「いいでしょう。情報の内容によっては叶えてあげられませんが」

朝宮和夏菜あさみやわかなのことだ」

「いいですね」

「朝宮が、ストーカー被害を受けてるかもしれない」

「なんだって!? それは本当かい!?」


爽真のこの反応、犯人じゃないのか?


「本当だ」

「今すぐパンを手に入れてきます」

「う、うん。ありがとう」


ダッシュで部室を飛び出していき、ビックリする早さで戻ってきた。


「メロンパンとカレーパンとプリンです」

「どこで手に入れたんだ!?」

「朝宮さんが大量に持っていたので、事情を説明したらくれした」

「あぁ、朝宮か」

「なぜか分かりませんが、パンの袋とプリンのカップ、そして私の手にアルコールを吹きかけられました」

「おぉ! 助かる!」

「食べながらで結構なので、お話を。爽真さんは放課後に伺いますので、今は出て行ってください」

「僕もさっきの話が気になるよ!」

「私は新聞部兼、情報屋です。弁当はあげました。情報の漏洩は避けたいのです」

「わ、分かったよ。弁当ありがとう」


爽真は弁当を持って部室を出ていってしまった。

まだ反応が見たかったんだけどな。


「さぁ、詳しく聞かせてください」

「そうだな。こ、これは朝宮から聞いたんだが、昨日の夜からピンポンダッシュをされるようになったらしい。何回かされて、一回だけ黒い服を着た人を見たんだってよ」

「ほう」

「俺的には、昨日からだし爽真が怪しいと思ってる」

「なるほど。私が調べて、情報を共有してほしいってことですね?」

「そうしてくれたら助かる」

「追加料金」

「か、金取るのか!?」

「もしくは、貴方の誰にも言いたくない秘密を教えてください」

「それは‥‥‥」


朝宮と暮らしてることは絶対に言えないし‥‥‥。

でもそれを言えって言ってるんだよな。


「俺は‥‥‥」


やっぱり言っちゃダメだろこんなの!!

芽衣子先生にバレてるのはギリギリセーフっぽいけど、この人にバレるのばやばい気がする。


「いや、朝宮の秘密を教える」

「ほー、そっちの方が興味あります」


俺には興味ないってか!!

あー、そうですか!!


「早く教えてください」

「朝宮はピンクの下着を身につける! 俺は見た!」

「乙女の秘密をバラすなんて最低ですね。取引成立です」

「なんかごめん。マジごめん。あと成立ありがとう」

「許しません。近いうちになにかかしら情報をお伝えいたします」

「あ、ありがとう。あとごめん」


なんか複雑すぎるけど、情報屋もやってるし、情報漏洩をしないようにした辺り、少しは信用できそうだ。





今日も学校が終わり、朝宮より先に帰ってきたが、俺は怪しい人が映らないか、モニターで玄関前を監視し続けた。


「あ、朝宮帰ってきたか」


朝宮は周りをキョロキョロしながら家に入り、真っ直ぐリビングへやってきた。


「今日もずっと見られてる気がしました!」

「帰り道もか?」

「はい! そして分かっちゃいました!」

「犯人がか!?」

「甘いものは飽きます!」

「なんの話してんだよ」

「お昼にプリンを食べ過ぎました!」

「あぁ、あれか」

「余ったパンとかプリンは全部持ち帰ってきたので、しばらく困りませんよ!」

「よかったな」


朝宮と話しているとチャイムが鳴り、またモニターを見ると普通に宅急便の人で、朝宮は嬉しそうに荷物を取りに行き、そのまま二階へ駆け上がっていった。


しばらくして、ミニスカポリスのコスプレをした朝宮がリビングに戻ってきて、反射的に綺麗な生脚をガン見してしまった。


「これでストーカーを逮捕します!」

「たっ、探偵グッズ買ったんじゃなかったのかよ」

「捕まえられなければ意味がありません! 一応、拡大鏡も買いました! 虫眼鏡ってやつですね!」

「それは探偵っぽいな」


てか、絶対コスプレのサイズ合ってないだろ。

パンツ見えそうだし、胸が強調されてる‥‥‥。


「誰かが入った形跡がないか、私が確認します!」


朝宮は四つん這いになり、虫眼鏡を使って床を見始めたが、ミニスカ四つん這いはさすがにヤバい。

モニターの監視に集中しよう。


「大変です掃部かもんさん!」

「どうした!!」

「何者かのチリ毛です!」

「持つな持つな!!」

掃部かもんさんのかもしれませんので、脱いでこの虫眼鏡で確認させてください!」

「バカか! 見せれるわけないだろ!!」

「汚いのでゴミ箱に入れておきますね」

「ゴミは捨てないってことは、それはゴミより汚い認定なんだな」

「さすがにチリ毛の山ができたら嫌じゃないですか!」

「なるわけねーだろ!」


こんな警察は絶対に嫌だ!!

朝宮は頼りにならないし、あの情報屋に期待するしかないな。

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