ヤンデレストーカー♡

第6話/忍び寄る影


「和夏菜さん!」

「はい?」


朝宮が俺より少し遅れて教室に入ってくると、隣のクラスの爽やかイケメンが朝宮に声をかけた。


「今日の放課後、伝えたいことがあるんだ」


イケメンの言葉を聞いた女子生徒達は、一気に二人に注目し、黄色い声を上げた。


「きゃー! なになに!?」

爽真そうまくんと和夏菜ちゃんとかあり!?」

「素敵すぎるー!」


告白か‥‥‥。

さすがの朝宮も、このイケメンに告白されたら付き合い始めるだろうな。

そうなれば俺の家からも出て行くだろう。

ありがとう爽真。話したことないけどありがとう。


「分かりました」

「うん! 校舎裏で待ってるよ!」


これで俺も、やっと解放か。

あとは全部イケメンくんに任せればいい。

平和な毎日が返ってくると考えただけで、自然と笑みが‥‥‥。


思わず口元が緩んだ時、日向と目が合ってしまい、俺は細めた目つきに怯えて、机に顔を伏せてしまった。


付き合いたての頃は甘えん坊で可愛かったのにな。

俺が潔癖症になったのは、全部日向のせいだ。

早く二年生になって、クラス替えで離れたいな。


「朝宮さん朝宮さん」

「はい」

和夏菜わかなちゃん!」

「なんですか?」


爽真が教室を出て行ってからというもの、朝宮は返事をどうするのか気になってしょうがない様子の女子生徒達に囲まれてしまっている。


「どうするの? ねぇ! どうするの!?」

「なにがですか?」

「絶対告白されるよ? 付き合うの?」

「どうでしょうね。その時に決めます」

「まんざらでもないんじゃん! 付き合っちゃいなよ!」

「お付き合いとかよく分からないんですよね」

「私達がサポートするって!」

「美男美女カップルとか絶対素敵だよ!」

「はぁ」


ハッキリ付き合わないとは言わないあたり、やっぱりまんざらでまないのか?





ついに放課後、イケメン爽真の告白ショーの時間だ。

噂は学校全体に広まり、窓という窓から生徒達が校舎裏を見つめている。

俺も二人がどうなるのか気になって、人が居ない三階の家庭科室から校舎裏を見下ろした。


朝宮はまだ来ていなく、爽真が堂々とした立ち姿で朝宮を待っている。


一輝いつきが他人の恋愛事情を気にしてるとか珍しいね!」

「わっ!」


気づかない間に陽大ようだいも家庭科室に来ていて、誰もいないと思っていた俺はシンプルに驚いてしまった。


「あ、あれだよ! 話題になってたしな!」

「てっきり和夏菜さんのことが好きなのかと思っちゃった」

「それは絶対にない」

「ほかの男子達は和夏菜さん狙いの人多いから、みんな殺気立ってたよ! さすがに学年一の爽やかイケメンの告白じゃ、僕達みたいなのには勝ち目ないよ」

「まぁ、クールな朝宮がどう出るか見ものだな」

「あっ! 和夏菜さん来たよ!」


朝宮の登場に、校内中の騒めきが家庭科室まで聞こえてくる。


「来てくれてありがとう!」


爽真の声はギリギリ聞こえるけど、朝宮の声がまったく聞こえない。

三階に来たのが間違いだったか。

いや、爽真も普通のトーンで喋ると聞こえないな。


「好きです! 僕と付き合ってくれませんか!」


やっと聞こえてきた声は、告白そのものだった。


朝宮は何かを言って立ち去り、俺と陽大は顔を見合わせた。


「結局どうなったんだ?」

「付き合ったか、少し考えさせての二択じゃない?」

「そうか!」

「一輝、なんか嬉しそうだね」

「そんなことないない!」


これで今日から朝宮が俺の家に来ることは無くなるな!

おかえり!俺の平凡なハッピーライフ!


「久しぶりにラーメン食って帰らね?」

「いいね! どの店にする? 僕はいつもの、辛味噌が美味しい店がいいな!」

「そこに決まってんだろ!」

「なんか急に元気になったね! なんかいいことあったの?」

「今の俺には、自由な明日が見えているのさ」

「おぉ! 変なの!」

「いいから行くぞ!」

「よし! 部活サボるぞ!」

「サボれサボれ!」





「ふぅー、食った食った」

「さすが一輝。今でもマイ箸持ち歩いてるとかビックリしたよ」

「割り箸の店ならいいんだけどな。ここはラーメン屋では珍しく割り箸じゃないしさ。でも美味くてまた来たくなる」

「それ分かるよ! 大将! 替え玉一つ!」

「あいよ!」


陽大のやつ、もう四回も替え玉してやがる‥‥‥。



「あ、時間大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。一人暮らしはその辺関係ないから」

「なら安心だね!」


それから陽大の大食いを見守り、ラーメン屋を出る頃には外が暗くなり始めていた。


「次なに食べるの?」

「勘弁してくれ。今日は久しぶりに美味いもん食えてよかった」

「また来ようね!」

「おう! それじゃ俺は帰るから、陽大も気をつけろよ」

「うん! バイバイ!」


陽大と解散して、美味しいものを食べた幸福感と、朝宮が居ない家に帰る安心感に満たされながら、自宅へと足を進めた。





「ただいまー! なんてな」

「もう! 遅いですよ!」

「えっ」


普通に居るじゃん!!

勝手な前向きな考えが、俺を絶望の底へと堕とした。


「な、なんでいるんだよ!」

「今更どうしたんですか?」

「爽真と付き合うんだろ!? なら俺の家に居ちゃダメだろ!」

「はい? 振りましたけど」

「はぁ!? 振るなよ!」

「だって、あの方のこと全然知りませんし」

「あんなイケメンを振るとか勿体無いな。明日やっぱり付き合うって言え」

「嫌です! もう話せないほど酷いことを言ってしまいました!」

「なに言ったんだ?」

「貴方みたいにナルシストで気取った態度の男性に興味はありません。そう言ってやりましたよ! 半泣きになってました!」

「バカか‥‥‥酷い振り方して、ストーカーとかにならないといいな」


次の瞬間、家のチャイムが鳴り、恐る恐るモニターを確認すると、そこには誰も映っていなく、とてつもない不気味さを感じた。


「ほらな」

「フラグを立てたのは掃部かもんさんです! 男の子なんだから大人しくアレだけ」

「それ以上言うな」

「それより、一緒に暮らしてるのバレたんじゃないですか?」

「あっ‥‥‥どうすんだよ!!」

「掃部さんが帰ってきたのが悪いです!」

「俺の家なんだが」

「えぇ!?」

「お前、いい加減にしろよ」

「まぁまぁ! まだストーカーだと決まったわけじゃありませんし! そんなことより掃部かもんさん、なにか食べてきましたね」

「あぁ、ラーメン食ってきた」

「私の夜ご飯はどうするんですか!」

「好きなもの食えよ」

「もう!! 私もラーメン食べてきます!!」

「ちょ、ちょっと! 今外に行くのは!」


本当にストーカーが居るかもしれないというのに、朝宮は家を出て行ってしまった。





約一時間半後、リビングでテレビを見ていると、ガチャガチャとドアの鍵穴を激しくいじる音に気付き、恐る恐るモニターで確認しようとした時、顔に汗をかいた朝宮がリビングに入ってきた。


「大変です!!」

「どうした!?」

「家を出てからずっと誰かにつけられている気がして、ラーメン食べてる時も視線を感じました! 帰って来る時もずっと! 怖くて、デザートのシュークリームが一つしか買えなかったです!」

「そんな状況で呑気にコンビニ寄るなよ」

「でもコンビニは安全です!」

「ま、まぁそうか。とりあえず汗拭け」

「そうですね。ラーメンを食べると汗が止まりません」

「逃げてかいた汗じゃないんかーい」

「はい? そんなことより大変です!」

「うんうん、大変だな。もう聞いたぞ」

「シュークリームが一つしか買えないなんて、いつまでこんな生活が続くんですか!」

「大変なのそっちかよ!! つか、俺の家に住み始めてから初めて買ってきただろ」

掃部かもんさんに『俺のは?』って聞かれたらダルいので」

「わぁー、シンプルに酷い理由だー」

「あ、あげませんからね!」

「くれなんて言ってない」

「私の初めては欲しいくせに! 本当なんなんですか!」

「お前がなんなんだよ!!」


いつも通り朝宮の会話に付き合っていると、再び家のチャイムが鳴り、次は急いでモニターのスイッチに手を伸ばした。


「なっ!」

「宅急便ですか?」

「なんで今までの流れでそうなる」

「ドッキリグッズを買いました!」

「そうか。受取拒否しとくわ」

「最低です! お金払ってるんですよ?」

「そうじゃなくて! 黒い服着た奴が逃げていったぞ! やっぱりストーカーだって! どうする? 警察に相談するか!? まずは学校か!? どうする!?」


朝宮は淑やかな笑みを浮かべて俺を見つめた。


「落ち着いてください」

「朝宮に言われるとムカつくな」

「こういう時は探偵グッズを買わないと始まらないですよ!」

「は?」

「ゴムを買わないと始まらないように!」

「は?」

「この時間に注文すれば、明日には届きますね!」

「は?」

「ふっ。『は?』しか言わないなんて、私の犬より知能が低いようですね」

「テーブルの下で死んでるけどな」

「犬ぅ〜!!」

「お前が電源切ったとは思えない反応だな!!」


朝宮は慌ててペットのロボ犬に飛び付き、優しく頭を撫でながらスイッチを入れた。


『ワンッ!』

「あ痛っ」


そしてテーブルに頭をぶつけて、静かに電源を切った。


「結局切るのかよ」

「犬のせいで頭をぶつけたんです! こうなって当然ですよ!」

「一回愛護団体に怒られろ」

「なに言ってるんですか? これはロボットですよ?」

「その淑やかな笑みをやめろ!!」


ストーカーされてるかもしれないのに、なんていう緊張感の無さなんだ。

とにかく今日は、鍵をしっかり確認して寝よう。

それにさっきの黒い服の人、男にしては小柄に見えたような気もするな‥‥‥。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る