another time 19

side ナルシ


帰宅すると、ショウがいなかった。

事務所は七時までには終わっている。彼は残業がなければ五時くらいで終わらせている。



ショウの事を極端に痩せた体型から貧しい引きこもりだと思っていたが、実際引きこもりであっても、両親の保険金がかなり残されており、普通に生活する分には全く問題なかった。


太ると女性ホルモンが活発になって胸が出てくるのを嫌がって極端な食制限をしていた事が分かった。

それはそれで身体に良くないのでちゃんと食べさすよう仕向けた。

胸は出てきたが違和感は無く、物珍しさもあって触りまくっていたら変態と言われた。


女性ぽくなってもショウはショウだ。 

相変わらず恋愛感情は分からないようだが、僕の束縛に呆れながらも従って、身体も許してくれ、それなりに僕との生活を楽しんでいる様子は付き合っているのと変わらないと満足していた。


「ショウ、帰ったよ」

部屋の中は静まり返っていた。もう畳部屋で寝てるのか?でもまだ八時だ。

まさか、また熱が出てるのか?部屋を見ると引き戸が開いてる。行ってみたがショウの姿はない。

台所を見ると、夕飯の支度もした様子もない。煮炊きの匂いがしない。


一応風呂場も見たが使われた形跡はない。


コンビニか?取り敢えずショウに電話してみる。

呼び出し音が家の中で響いた。ショウのスマホはソファーの上に置かれていた。

しばらく待ったが我慢できず家の外に出てエレベーターを見つめた。どこの会社ももう閉めているので動いていない。上がってくるのはショウしかいない。

上がってこない。一階下の事務所へ階段で降りた。

中に入ったが電気も消えているし、もちろん誰もいない。


下まで降りてコンビニに向かう。五分もかからないし、一本道だ。道を歩く人々を確認しながら胸騒ぎが止まらない。


コンビニに入ったが、やはりいなかった。2回見回った後、外へ出た。蒼海、颯人、と順番に電話する。


二人とも一緒にいなかった。蒼海はショウが五時に仕事を終えてそのまま上に帰った、と言う。


一旦家の中に入ると、内鍵もかかって暗証番号を知らないショウは外へ出られない筈だ。教えようとするのだが心のどこかで彼を信じきれてない。狭量だ。


一度家に帰ってみるが、やはり居ない。

ベッドに腰掛けようとしてショウのボディーバッグをみつけた。いつもはソファーか和室に置いてある。

中を見てみると財布が入っていた。財布の中には少ない現金の他キャッシュカードや免許証、保険証、クレジットカードまでも入っている。


つまり、ショウは事務所から帰って家にスマホとバッグを置いたまま、何も持たずに開くはずのないドアから出ていった事になる。


最初に考えたのは「逃げた?」思わず声に出した。

何も持たずにどこへ?

書き置きもなく誰にも黙って行くような、そんな子じゃない。


家の中に入った瞬間誘拐された?無理がある。


エレベーターの防犯カメラだ!明日まで待って問い合わせてみよう。


そして判明したのはショウが一人で上に登った後、誰も家のある六階から降りてきてないという事実だった。


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