another time 16

ナルシと住むようになって生活は激変した。


ナルシのショウに対する執着はますます進んだ。

スマホチェックに、位置把握。暗証番号はまだ教えてもらえないので家にいる時は監禁状態。

荷物も受け取れない。最近は置き配にできるから一々再配達を頼まなくてすむようになった。


服の脱ぎ着や入浴はナルシがいる時は彼まかせ。毎日のアイスはあーんと食べさせられる。

休みの時はほぼ一日中ショウにべったりくっついている。

外出は基本二人で、一人の時は頼めば近所のコンビニなら渋々出してくれるが、直ぐLINEか電話がかかってくる。ひどい時は5分置きだ。


昼間は基本蒼海と一緒なのに、それでも何回か確認してくる。

「社長って最初見た時は爽やかな軽い陽気な感じに見えたのに、あんなに粘着気質でヤンデレとは思わなかった」

蒼海に思わず愚痴ることもしょっちゅうだ。

「ショウ君限定だと思うよ」


さっきもナルシはわざわざ出先からご飯食べたか聞いてきた。

お陰で少し太ってきて、案の定胸が出てきた。太ると女性ホルモンが優勢になるからと言ったら、更にナルシに僅かにしか出てない胸なのに揉まれまくっている。僕の身体を一体なんだと思ってるんだ!本気で怒っても聞かない。ほんと、男女気にしない人だ。いや、なんか違う!


何回断っても服や靴やなんなら下着(時々変なの押し付けられるが絶対履かない)までどんどん買ってくるので僕専用のワードローブをもう一つ追加した。和室の押し入れ収納も一杯になっている。すぐ脱がされるので寝巻き7枚も絶対いらんと思う。


その上時々颯人も持ってくる。当然サイズが合わないのでお直しに出したらそんなのに限って、また着るのにと怒られる。ロッカー代わりだなんて酷すぎる。

スウェット上下3セットを順番に着てただけだったのに、今では何を着ようか迷うようになった。どうせナルシが選ぶんだけど!


髪の毛は鬱陶しくなったら自分でその辺のハサミで適当に切ってたが、すぐナルシと颯人の行ってる美容院を紹介され、担当まで指名された。

せめて毎月行けと言われてるが、人見知りが発動してナルシに連れて行ってもらった一回しか行ってない。


仕事だけはさせてくれて、時々は颯人の付き人もやっている。

僕もモデルとして撮影を頼まれた事があったが頑として断っている。プライドを持って真剣にモデルに精進する颯人を側で見ているので、彼とモデルで対等になるのは物凄く失礼だと思ってる。

それでもくる依頼はナルシに断ってもらっているが、彼は単に僕を不特定多数に見せたく無いとの謎の裏理由で断っていた。


ナルシの希望でホテルで一泊するような少し遠い観光地も行ったが、さらっと周辺を見て回ったら、その後は結局ホテルに缶詰で明け方近くまで抱かれてヘトヘトになって帰ってくる羽目になった。


あまりに腹が立ったので、帰ってきたら和室に閉じこもって一切喋らなかった。

それは結局ナルシに引き戸の前で半泣きで謝られたから半日で終わってしまった。


その後のお出かけも似たような展開になってしまう。

全く面白くないのでいかに観光地で外で多く過ごすかが毎回ショウの課題になってしまった。


家にいると毎晩のように身体を求められるので体力が持たず、休日とその前の日、週二回に限定した。

他の日にナルシが後で帰ってくる時は、一人で先に和室で寝起きしている。

ナルシは遅くなると一人寝になるので、今では部屋を作るんじゃ無かったと後悔している。


鍵はかかってないが、最初に和室にはショウの許可が無いと入らないと決めてくれたのを律儀に守ってくれてる。


ショウは相変わらずナルシに好きだと言わないし思わない。彼の言う事に従って行動し、身体も許してるが、彼の好意を返すのに仕方ないと思うだけだ。


ショウのそんな態度に常に不安を抱いている故、過度な束縛行動へナルシを駆り立てるのだ。そんな重い愛を向けられてるが、戸惑いしかないし、何故自分に執着する感情がナルシに沸くのか分からない。


ナルシを久音と比べる事はしなくなったが、相変わらず久音は探している。何かあるならショウの周囲で起こるはず、と近所や前に住んでいたマンションを見回ったりする。ショウの久音への執着こそが僕の愛なんだろうかと、ナルシを見て思う。


でも、あんなに焦がれていた前の世界の記憶が薄まっていく。何かが足りなくて穴が空いたところから記憶がサラサラと落ちていくようだ。

忘れないようにパソコンに入力して、メモも残している。

でもこれらは次に持っていけない。自分と一緒に消えてしまうだけだ。この次は覚えていられるのだろうか?


この前は久音の名字が中々思い出せなくて落ち込んだ。会ってからすぐ久音と呼ぶようになったから、馴染みがあまり無かったとはいえ、恋人の苗字を忘れたとはあんまりだと思った。


メモをナルシに見つかったので、やむを得ず趣味で小説を書いてることをバラして、小話を出し、久音の事を書いているのは秘密にできている。


『狭間の世界にて君を待つ』を読ませたら印刷してみんなに配ると言い出したのでやっぱりな、と思いつつ絶対に許可しなかった。


蒼海さんと颯人にも内緒と言ったのに、小説サイトに載せてたのを見つかっていつの間にか読まれてた。まさか普通に検索で出てくるとは思わなかった。

ショウは仕方なく二人が感想を言いそうな時は毎回逃げてた。



ある休日の昼下がり、なのにナルシに求められて肌を合わせてしまった。昼間でも夜でも関係無くやはり濃厚で執拗だ。このままだと何もできなくなる、と誘惑を振り切って断固として二回目を断った。


アイスを食べようと冷凍室を開けたら珍しく一個も無かった。

ナルシに後で買ってくるからと言われたが、そうするともっと食べたくなり、ショウは新作のバニラアイスが欲しいので自分で行くと言い張った。

ナルシはできるだけショウを出したくないので

「じゃあ、気晴らしに僕が行ってくる」と言った。

ショウが憤慨して「気晴らし今したやん」と返したら

「もう一回したかったから欲求不満の気晴らしさ」と出て行った。

ショウは『えー帰ってきたら、もう一回せなあかんのかなあ』とがっくりして少しでも休んでおこうとベッドに戻った。


待っているつもりで少しうとうとしてたら、寝ている片方だけが沈んだような気がした。


そっちを見て、驚いた。


半透明の裸の久音が座っていたのだ。


ショウが固まっていると屈み込んできてキスしてきた。

突然の事に普通に受け入れてしまい、どんどん深くなるキスに夢中で合わせた。

「ようやく、ようやくショウに触れた」

「久音やよね?」

久音に手を伸ばすと半透明ながら感触がある。

「僕や。久音や、ショウ!会いたかった!」

抱きしめられて今度は首筋を何回も舐められた。

「僕も会いたかった。でも待って、久音?どうやって来たん?久音の身体透けてんで。大丈夫なん?」


「ショウ!また抱かれたんか」

久音らしからぬ低い声で言うと恨めしそうにショウを睨んだ。

その目が赤く光っている。

心の奥底まで覗き込まれた様で何も言い返せない。

黙っていると手が伸ばされて肩から下腹部まで撫でられた。


「仕方ないなあ、僕が上書きしてあげるよ」

「久音、いきなり何言ってんねん」


いきなりショウの局部を握られた。

「ひゃん!」変な声が出た。

「相変わらず可愛いね、ここ。懐かしいわ」

触られ方もやっぱり久音だ。


久音は喋ってるが一方的だ。抵抗できずにいると今度はもう一方の手の指を尻穴に入れられて壁を擦る。

「久音、待って、それ、駄目だって」

「こっち、ドロドロやん、ちゃんと後始末しぃやあ」

恥ずかしくていたたまれなくなった。

「ねえ、話聞いて」

「ま、入れるのに丁度いいね。アイツの後、嫌やけど」

ショウの言葉に何も反応しない。まるで独り言を言ってるようだ。

久音は指をふちに引っ掛けて回した後引き抜くと、動けないショウの足の間に入り、なんの躊躇もなくそこへ自身を一気に入れてきた。

ショウが衝撃で「ああっ」と叫んだ。

久音は口をパクパクさせるショウを見て「急すぎたかな。久しぶりにショウの中気持ちいいや」

と嬉しそうに腰を動かしだす。


確かに中に入っている感触があって、ナルシと違う感触に一瞬戸惑った。

彼特有の滑らかな抽送に懐かしくて、快感を覚えて涙が出てくる。

「僕のいいやろ?覚えとった?」

ショウはうんうん、と頷くのが精一杯だ。


「早くしないと帰って来よるって?」久音は入り口を見て楽しげに言った。

そうだった、コンビニだとすぐ帰ってくる。我に返った。


「ね、久音?また後で来れるやろ?話しよ?」揺らされながら焦って肩を叩いた。返事はやっぱりない。


「これ見られたら、どうなるやろな?」久音はニヤッとしてショウの奥をぐりぐり突いたので思わずうめいた。

全く止める感じではない。

「え?やだ、早くヤメテ」


「僕もショウ達の見せられたし、仕返しや」

久音は強引にショウの身体をひっくり返して後ろから両膝を抱えて持ち上げて股を開かせた。そのまま背中から抱え込んで後ろから攻め立てた。


「やだ、やめてや、こんな格好恥ずかしいって」こんな体位で久音とした事ない。

「ほーら、入り口からショウの丸見えや。いい角度やね。早く帰ってこーへんかなあ」

ショウは真っ青になった。離れようとしてもガッチリと食い込むように抱かれて責められるだけだ。

「やめて、久音、そんな事しんどいて」


「見せつけてやろ?僕達の愛し合ってるとこ!」高笑いしながらも久音の腰の動きが早くなる。先に出されていたナルシの精液が降りてきたのかジュポズポと卑猥な水音がしてきた。

「やめてーや、お願いやから」ショウは襲ってくる絶望と快感と焦燥で泣き出した。


「あれ、泣いてる。この体勢嫌なんかな?仕方ないなあ」ふふん、と笑って動きを止めた。

久音はショウの拘束を解いたが、今度はうつ伏せにして自分は立ち上がり、少しかがむくらいの高さまでショウの腰を高く掴んで再び攻め立てた。

「じゃあ、これでもえーや!ほらほら、帰って来たで!ナルシ見たってー、ショウがやられてるとこー!もう中出すで」

ドアが開く音がした。

「嫌あ!」グッと押し込まれて中に出される感覚があった。


「ショウ、抹茶しかなかったけどいい?」ドアの前からナルシの呑気な声がした。


終わった。この状況でどう説明すればいいか分からず腰を離されて泣き伏した。


「ショウ、どうした?なんで泣いてる?」上から声がした。

「え?」

ガバッと起き上がると背中の気配がなくなっているのに気付いた。

あれだけショウを攻め立てていた久音は跡形もなく消えていた。


訳がわからなかったが取り敢えず大きな安堵感で気を失いそうだった。


「ショウ?」

掴まれていた腰が痛いし、穴が熱い。本当に入れられて最後は中で出された感覚が残っている。

「ちょっとだけやよ、寝てて夢で泣いたん。」

「そうか?疲れた?ごめんよ。アイスどうする?」

「ん、今食べる、けどトイレ先行ってから」

ショウは用心深く立ち上がってトイレへ急いだ。


便座に座ったが、あれだけ出された感覚があったのに殆ど出てこない。ナルシの分だけっぽい。

どういうことや??また夢? 


長くいるとまた心配されるので一応尻に温水シャワーをして出た。

「早く服着なさい。風邪引くよ」上は着てたはずなのに肌着代わりのTシャツだけになっていた。


ベッドの上にあった寝巻きの上をナルシに羽織らされてボタンを留められていく。もうこの位の世話は止めさすのを諦めている。裾がちょっと長いので局部は隠れる。そのまま待ってるのに下は履かせてくれない。


ナルシは甘えてショウの内腿に手を入れる。「後でもう一回させて?」

「気晴らししてきたんでしょ?もうヤダ」手を払って下に落ちていたトランクスを履いた。身体に直接久音の痕跡が残っていたら言い訳できない。


平静を装ってアイスを食べ始めた。

久音のも受け入れたので二回もしたはずなのだ。さっぱりわからない。アイスを食べなやってられない。抹茶も美味しい。


さっきのは絶対夢じゃない。身体こそ半透明だったが掴めた。でも、だから夢なのか?久音があんな事ショウにする筈がない。

普段は元気だけど穏やかな人で、雅詣にはちょっと気が短くて感情を直ぐ顔に出していたが、ショウを貶め、嫌がることを平気で、喜んでやるような人では決してなかった。


『浮気したから怒ってんのかなあ…』

「浮気?」低い声がした。

「誰と?」「え?」

声に出してた⁈

ナルシが無表情になってショウの持ってたアイスを静かに取り上げた。

「浮気してるから泣いてたの?」

じっと見つめるナルシの目が暗くて怖い。


どうしよう、ナルシがまた見当違いな方向へ行こうとしてる。仕方ない。これを言うと怒るけど。

「うたた寝して、その時の夢で、ナルシに、久音が怒ってて」

「ショウが泣いて謝っていたと?」

「ええ?うん、そうやな」

「久音か、また久音、いつもあいつだ。そうだな、彼から見たらそうなるかな」


アイスが戻ってきた。

ナルシは溜息をついて怒りを抑えているようだった。

ショウは自己嫌悪で折角戻ってきたが手をつけることができず、溶けてきた抹茶アイスを眺めていた。


「あいつ、まだ夢に出てくるのか。厄介だな。お祓い行くか?」と半ば真剣に言うとナルシはベッドのショウの横に座り頭を抱き寄せた。

「夢の中じゃ何にもできないな。まあ、君の夢に僕が出てくるだけいいとしよう」


お祓いって久音、怨霊か何かと思われてる…


ナルシがアイスのまだ固まっていたところをスプーン出掬ってショウの口に入れた後スプーンをそのままにした。

「おいしい?」

「うん、ん?」

ショウは顎を取られて口に入れたスプーンを落とした。

ナルシが口付けてショウの口の中を舐る。

「抹茶もうまいな」にっこりと笑ってアイスのカップは再び取り上げられた。

「溶けるて」不満気に言った。

「まだ冷凍庫に入ってる。欲しかったら、後でな」

後って。やっぱりこうなる。

「それやったら、もう要らな」再び口の中に舌が入ってきた。


抵抗したがそのままゆっくりと押し倒される。

キスしながらナルシが鬱陶しげに自身の服を脱ぎ捨てていく。ショウは仕方なく手探りでナルシのシャツのボタンを外してやる。


前にナルシがショウを早く抱きたくて、ボタンを全部引きちぎってしまったことがあるからだ。高校の家庭科の授業でやっただけのショウは、ボタンを縫い付けるのに指に何回も針を刺しながら長い時間かかった。


ナルシのキスがショウの首へ下がってきた。久音がさっき舐め上げたところだ。思わずナルシの頭を抱え込んだ。

「ショウ?」

「ナルシはキス好きやね、普段から」

「そうだ。ショウとするのは何でも好きだ」

手を離すとまた口に戻ってきた。

彼の執拗な愛撫が始まる。それを期待して進んで身体を開いている自分もいる。


僕の身体は一体誰の物なんだろう。

あんた達は僕に構い過ぎだ。

僕はどうしたらいいんや。

先延ばしにしていた選択が近付いてきた気がする。


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