another time 13
雨音で目が覚めた。
身体がだるくて、布団を動かすのにモゾモゾしてると「ショウ、起きた?」と隣から声がした。
ドキッとしたが昨夜の様に心配させてはいけない。
そっと声の方へ顔を向けたら、心配そうにこちらを見ているナルシが同じく横たわっている。
「今何時位?」
「7時過ぎ」
すっと手が伸びてきて額に当てられた。
「まだ、熱があるな、気分どうだい?」ナルシの声は少し掠れていて、目の下にクマが出ている。
「ちょっと怠い。ナルシ寝られへんかった?ごめんね、僕が、やかましかった、から」段々小さな声になった。
「そうだな。
額に当てられた手が頬を撫でて、ショウは目を閉じた。
ナルシはざっと近寄るとそっとショウの唇に口付けた。
すぐに離れたが、ふるふるとショウは震えて布団を目の下まで引き上げた。
「どうしてナルシはそんな事ばっかりすんねん」
「僕が誘われたんじゃないのか?顔が赤いぞ、可愛いな」クスッと笑うとベッドから降りてバスルームに行ってしまった。
ガバッと起き上がりたかったが、実際は物凄く億劫で上半身を起こしただけで疲れた気分だ。
布団から足を出して恐る恐る立ち上がった。大丈夫そうなので相変わらず素足で歩いていった。熱のせいか冷たい床が気持ちいい。ベランダに出るガラスの引き戸の前に行くとガラス越しに空を見上げた。
一面の曇り空から普通に雨が降っていて、暫くその様子を見ていた。
曇り空から灰色の雨が落ちてくる
心の中に伝って落ちてくる
灰色になった気分に絡みつく
曇り空から灰色の雨が
心へと永遠に降り注ぐ
時々唐突につたない詩歌の様なフレーズが頭の中で紡がれる。古川祥一郎の中の誰かの記憶なのかな。それとも夕凪?
「雨の中帰るの、怠いな。この祥一郎君は仕事もしたくないみたいやし。でもここにおるのも気不味いんやが」ぶつぶつ独り言を言った。
この祥一郎は真の引きこもりだった。僕が来て入れ替わったはずなのに、考え方が前のに引きずられる時がある。
「ショウ!そんな格好でいたらダメだ。ベッドに戻るんだ。熱測った?」
いくらかスッキリしたナルシが頭をタオルで拭きながらバスルームから出てきた。
ショウは外に向かったまま「僕もシャワー浴びさしてもろて、うちに帰りたいんやけど」と呟いたがナルシに一蹴された。
「駄目だ、夕方熱が下がってたらシャワーはいいけど、今はまだ熱がありそうだし、少しふらついてるじゃないか。ベッドに戻らないなら、また抱っこして連れていくぞ?」
「よくない」と振り返った。
「じゃあ、抱っこな」いつの間にか背後にいたナルシはショウを一瞬で持ち上げた。
「ナルシ!いらんて!自分で歩けるって!」抵抗しようとしたら
「じっとしてなきゃ落ちるぞ」と言われて、仕方なくおとなしく連れて行かれた。
あれだけ嫌だったのに慣れって怖いな。
熱を測ると37度まで下がっていたのでご飯を食べられたらベッドからソファーに移っていいと言われた。
でも、相変わらず食欲は無く、昨日の残りの粥を食べてアイスを貰った。
「アイスクリーム好きなん?」
毎回出てくるバニラアイスを不思議に思った。(しかもちょっと高いブランドのだ)
「ショウが久音と二人でアイスを食べさせあいするのが楽しかったって聞かされた。ショウはバニラと抹茶が好きで一日一個食べるんだろ?」
「ごめん、記憶に無い。そんな事まで言ってたんや」がっくりしたが、このお値段高いアイスは乳脂肪入ってるから美味くて止められない。
「今日僕の仕事は?」アイスを堪能しながら、行く気無かったが雇い主なので一応聞いた。
「休め」即答された。しめしめ。
「家帰るのは送ってくれる?」
「まだここに居ろ。また熱上がったらどうする」
「…」
すぐに尋ねる気力が無くなった。ソファーでゴロゴロしながらスマホをいじっていると、毛布を持ってきてショウに掛けてからナルシが向かいに座った。
「出かけないの?」チラッと見てから言った。
「雨だからジャグラーはお休みだ」
一日中一緒かと思うと幾ら人恋しいと言っても相手がナルシだと少々気が重い。
八時半頃蒼海が様子を見に来た。
「お昼に雑炊かうどん食べれる?」
と聞かれたので
「まだ作る元気無い」と答えた。
「そんなの、社長に作ってもらうに決まってるじゃないですか」当然の様に材料を買った袋を流し台に置いた。
「早く元気になって、また手伝いに来て下さい。できれば明日から」
「鬼の様や」
ナルシは「僕は自炊してるから大丈夫だ」
と言ってから、青海を連れて出ていってしまった。
ドアの向こうで立ち話をしている。
時々「えっ⁈」とか「本気ですか?」とかあせる蒼海の声が聞こえたが細かい話は聞こえなかった。
アイスを食べ終わっても、まだ戻ってこない。
段々眠くなって来てソファーに横になろうとしたが、また姫抱っこで連れて行かれるのは嫌だったので自主的にベッドに戻った。
『このベッド、やたら広いな』
登りながらキングサイズかなと適当に思った。興味はないが二人で寝ても余裕だった。
『誰かと一緒に住んでいたのかも』そう思うと居た堪れないが、形跡はないので大分前だろう。わからへんけど。
ウトウトしてると
「ショウ!何処だ?」と声がした。声を出すのが面倒だったので片手をまっすぐ上げて振ってみた。
その手を優しく掴まれたので目を開けると。
久音だった。
半透明ながら表情まで分かり、困った様な顔で「ごめんな」と言った。
「ホントは大好きやから」
ショウが何か言おうとしたが、久音は後ろを見て顔を顰めて、そのまま消えた。
呆然としてると、今度は少し乱暴に掴まれた。
ナルシが「何処に行ったのか一瞬心配したよ。驚かさないでくれ」と上から覗き込んだ。結んでいない白金の髪がサラサラと下に流れていく。
今、久音が、と言いかけて口をつぐんだ。久音の名を出してこの人をあえて傷付けたくはなかった。
眠くなったからベッドに来たと言って動揺を知られたく無くてぎゅっと目を瞑った。
ナルシは「しんどくなったら言うんだぞ」と頭を撫でてから離れた。
昼過ぎに起こされて二人でうどんを食べた。汁の色が少し濃かったが、味的には気にならなかった。
夕方になって熱が下がったので頼みまくってシャワーを浴びる事ができた。
ナルシが例の如く「手伝おうか?」と言ってきたので当然断った。彼は冗談ぽく言ったが、こっちが冗談でも手伝ってと言ったら絶対来る。
シャワーから上がって、胸からバスタオルを巻いてでてきた。ナルシが待ち構えていて嬉しそうに抱き寄せた。
「ショウが僕と同じ匂いになった」
とショウの髪や首筋がもう少しで触れる様に顔を近づけてクンクンと匂いを嗅いだ。
「当たり前やろ、君んとこの全部借りたんやから」と平常心を保ちつつ言った。
ナルシはフェイスタオルを持っていてショウの髪の毛を拭き出した。
「自分でするって」タオルを奪った。
「ああ、このまま抱きたい」
耳元で囁かれて直ぐその平常心は崩れ、身体がビクッと震えた。
耳を舐められて甘噛みされ、背中をゆっくり撫でられると全身を舐められている様な気分になってしまった。
そのまま首筋から鎖骨までキスされ頭にかかっていたタオルを外された。胸の真ん中にキスマークを付けられる。
身体を包んでいたバスタオルは、まだ掴んでいたものの両腕はダラリと下げられ、そのまま下に落ちた。
両胸の乳首を順番に吸われて軽く噛まれた。
「はぁ」必死で耐えていたが噛まれた時に声が出てしまった。
ナルシのキスは更に下は行き、ヘソを嬲られ、すでに立ち上がったショウの男性器にキスすると咥えられた。
「ナルシ、駄目」ショウは腰を引こうとしたが両尻を掴まれて押さえられた。
ちゃんと立っていられなくて、しゃがんでいるナルシの肩に手を突っ張って身体を支えた。
ピチャピチャとナルシが舌を使う音がした。
「止めて、もう、出てまうから」
ショウが思わず言うと、すっと口を離された。
「あっ」「本当に、止めていいか?」
ナルシはショウを見上げて意地悪そうに微笑んだ。
ショウはもう少しでイきそうなのを止められて、涙目になって挫けそうだったが、
「止めて!帰る!」と大声で言った。
このままだとベッドに逆戻りだ。
ナルシの肩を押すとお互いそのまま離れた。
ショウは置いてあった自分の服を急いで着た。久音の事を思い出すと、これ以上一秒たりとも一緒に過ごすのは無理だった。
「ま、仕方ないか。病み上がりだし」
ナルシもあっさり引き下がり、出口のドアに向かった。
「また元気になったらこっちにもおいで。続きしよう?」
「結構です」とツンとすました。
車を出してくれたのでやむを得ず家のマンションの手前まで送ってもらった。
「部屋まで送ろうか?何号室?」
「秘密」
さすがに部屋の番号は言わなかった。
「有難う。お世話になりました。蒼海さんに、元気だったら事務所行くから、取り敢えずモーニングコールよろしくお願いしますって伝えといて」
「わかった、無理するなよ」
ショウは頭を下げると雑炊にと買ってくれた野菜の入った袋を下げて建物の中に入っていった。
ナルシは浮かべていた微笑みを消し、マンションを食い入るように見ていた。
すると二階の階段から一つ挟んだ横の部屋の電気が付いた。
それを確認すると、再び悪い笑みで車を動かした。
ショウは仕事を終えて帰る時、度々ナルシから誘われるようになった。
ショウの休みの前日には、ご飯を奢ってもらい、バーへ一緒に行って、ナルシに監視されながら何杯か飲んだ後、請われて彼の家に行くパターンだ。
ナルシの希望通り、ショウはナルシと身体を許す関係になった。ショウは相変わらず久音の事を度々言って牽制し、心までは許してないとアピールした。
それでも、最初の時とは全く違って、ひたすら優しく丁寧な前戯を経て、ショウの身体を理解して執拗に攻めるsexにはすっかり虜になってしまった。人肌の恋しさはすっかり解消されていたが、ショウにはもう一つ重要な目的があった。
二度も久音を見たナルシの部屋に微かな希望を持っていたからだ。
久音と最初は夢、次は少しだが半透明な身体ながら実際に接触した、
本当は部屋にいるだけでもよかったのだが、それでナルシとは済まない。
ナルシと寝ている夢の最中に会えたからかもしれない。会えるならどんな時でもいいから会いたかった。抱かれていても時々彼の周りを確認するのを止められなかった。
ナルシはそれを知ってるかの様によく言った。「どこ見てる?僕を見て。今ショウを抱いているのは僕だよ」
誤魔化す為に名前を呼んでキスをする。いつも倍ぐらいキスが返ってくる。
彼はショウの身体にすっかり夢中になって毎回全身がベタベタになるまで舐めて、何回もする様になった。元々複数回したかったそうだ。
ショウがいつものように気絶しそうになっても、噛まれたりつねられたりで強制的に意識を戻される。
体力が無いショウは最後は疲れきって途中でも眠ってしまったりする。それでもナルシがイくまで中に入ったままで、ショウが起きたら再開される。時に朝になってしまっても起きて待っている時もある。
自分が身体を許したのだが、ナルシの激しいsexは次第にショウの心身共に負担になってきた。
もう少し控えて欲しいと頼むと了承するのに、始まると一緒だ。
久音はそんなにしつこく無くて、ショウの体力に気を使って気絶しなくても、せいぜい2回位しかしなかった。それでも充分だった。
ナルシにそれとなく久音との事を言ってみたが、余計濃厚になってしまって、失敗したと悟った。
ナルシの部屋に泊まった時だけ、久音に呼ばれたような気がして目が覚めるが、あれ以来、久音の姿や透明な壁を見かけることはなかった。
やはり、久音のことを考えるあまり、妄想が出てくるようになったのだと思ったら悲しくて涙が出てくる。
ナルシとの関係も止めなければ、ナルシにも久音にも申し訳なさすぎる。どちらも裏切っている。いつも思いながら、ナルシに別れをどうしても言い出せなかった。
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