故郷と旅(12月18日分)

今日は手帳を取り出すなり、フランにあれこれ質問された。

いつも何を、どうして書いているのか、旅の目的は何なのか、と。


手帳にその日の出来事を書くようになったのは、単に手帳をもらったからだ。

今となってはそれが、1日の終わりの楽しみになっている。

旅先は珍しいものが多いし、最近は人間との付き合いも面白くて、つい書かずにはいられない。


そもそも俺が字を書けるのは、住んでいた村が人間と交易こうえきをしていたからだ。

商人のいないオークの村では、あらかじめ商品の一覧を交換し、指定の場所で取引する。

俺の親父がその仕事をしていたので、いずれ引き継ぐために字を覚えた。


だが旅の発端ほったんもそこにある。


親父は人間に慣れ過ぎて、村にとって危険な肩入れをしてしまった。

その結果、家族もろとも村を追われる事になった。

しばらく食うにも困る生活をした。

だが半年後、その「肩入れ」がこうそうしたと、今度は戻って来いと言われた。


親父は喜んだが、俺はどうしても納得できなかった。

だから家族と離れて、1人で旅に出ると決めた。

要するに意地の問題だ。笑ってくれと言うと、フランは首を横に振った。


「誰でも大事なことはそれぞれ違う。僕だって馬鹿にされる事があるけれど、君は尊敬してくれる。だから僕も君を尊敬するし、君の意志をつまらない問題だとも思わないよ」

真剣にそう言われて涙が出そうになった。

旅立って初めて、腹の底から息ができた気がした。

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