第4話:妖精ボガート

「小川で拾って『見たこと無い綺麗な石だから持ち帰った』と自慢してたよ」


「そのボガートってのはどこに居るんだ?」


 妖精たちはボガートの住む小屋を教えてくれました。


「よし、じゃあ会いに行こう!」


 ワタクシ達は彼らに礼を述べて、ボガートの住む小屋へと向かったのでした。


「ボガートの伝承は本で読んだことがあります。いたずら好きの妖精だそうですね」


 ワタクシの言葉に対し、クー・フーリンは不安そうな声で同意しました。


「そうだな。それだけに欠片を素直に返してくれるといいのだが……」


「神話の英雄である貴方が命令すれば、従うのではありませんか?」


「それは、あくまで人間から見た話だ。彼らにとってはそこまでの影響力は無い」


「ならばいっそ力づくで取返してはいかがですか?」


「そんな弱い者いじめのようなことをしたと師匠に知れたら……あぁ恐ろしい。それはできぬことだ」


 ――神話の英雄も師匠に叱られるのは怖いのですねぇ。

 そうこう話すうちにボガートの住む小屋に到着したのですが、彼の心配は見事に的中しました。


 赤色のずきんを被ったゴブリンに似た姿のボガートは、確かに槍の破片を持っています。

 しかし「これは自分の物だから返さない」と言うのです。

 クー・フーリンが金貨の詰まった袋と交換すると申し出たのですが、それでもボガートは承知しません。


「困りましたねぇ……」


 困惑する我々を見て、ボガートは意地悪く笑います。


「イヒッ、どうしても返して欲しいなら……俺の質問にすべて正解すれば返してやらんこともないぞ?」


「すべて、ということは複数あるのですね?」


「質問は三つだ。もし正解できなければその金貨を全部もらう」


「……よかろう。他に方法は無いようだしな」


 クー・フーリンが承知したので、ボガートはニヤニヤしています。


「まず一問目だ。……女神スカアハの好物はなんだ?」


「簡単なことだ」


 クー・フーリンは不敵な笑みを浮かべました。

 ケルト神話の女神の好物とは、いったい何なのでしょう。


「豆大福だ……! いつも師匠の代わりに人間の世界にわざわざ買いに行っているからな」


「ふん、正解だ」


 ボガートはつまらない、と言いたげな顔をしています。


「豆大福とは意外なチョイスですね」


「うむ、小さな和菓子屋なのだが、いつも行列ができている人気の店だ」


 ――その和菓子屋も、まさか女神が食べているとは知らないでしょうねぇ。


「イヒヒ……さて二問目だ。猫の好物はなんだ? 七つほどあげてもらおうか」


「ネズミだけでは無いのか?」


「そういえば、日本のキャットフードは魚が多いですが、フランスだとウサギ肉やチーズを食べたりしますねぇ」


 ワタクシとクー・フーリンが考え込んでいると、アレクが口を開きました。


「なぁ、それって別にどこの国の猫でもいいんだよな?」


「……いいぞ」


「なら簡単だな。ネズミ・魚・ウサギ肉・チーズだろ。あとはイタリアの猫はパスタが好きだし、アメリカはピザ。インドの猫はカレーを食ってたぞ。メキシコの猫はトウモロコシを喜んで食ってたなぁ」


 彼は世界中を旅行しているので、こういったことに詳しいのです。


「くっ……正解だ。じゃ、じゃあ最後の問題だ! これは難しいぞ!」


「よーし、なんでもこい!」


「森からリンゴが盗まれた。妖精Aは「犯人はBだ」と発言した。妖精BとCもある発言をした。その結果『犯人はABCのうち誰か1人』『犯人だけが本当のことを発言した』ということが判明している。犯人は誰だ?」


「えっ。Aの発言の内容しかわかんねぇのか? そんなの無理だろ⁉」


「こういうのは苦手だ」


 二人は頭を抱えています。

 ならばこれはワタクシの出番でしょう。


「その話の重要なルールは『犯人だけが本当のことを発言した』という部分です。最初に妖精Aが言った『犯人はBだ』が仮に真実だとしたら、そのルールを適用した際に矛盾が生じます」


「あぁそうか。嘘をついてない人が犯人だから、もし本当にAが犯人なら『犯人は私です』って言わないとおかしいのか」


「そうですね。つまり妖精Aは嘘をついています。嘘つきの人は無実なのでAは除外されます」


「じゃあ犯人はBかCだな……」


「今度は妖精Aの『犯人はBだ』という発言に注目しましょう。その発言は先ほどの考察で、嘘と確定しています。つまり『犯人はBではない』というのが真実です。そして既にAは無実ですから、残ったのはCしか居ません」


 ワタクシは軽く一呼吸して、きっぱり言いました。


「つまり犯人は妖精Cです!」


「……イヒッ。完璧だ。いいだろう、こいつは返してやるよ」


 こうして見事、ワタクシ達は欠片を手に入れたのです。


「店主よ、最後の推理まことに見事であった」


「いえ、たまたま似たような問題を本で読んだことがあるだけですよ。少なくとも他の二つの問題はワタクシにはわかりませんでしたから」


 ワタクシはクー・フーリンから今回の報酬としてたくさんの金貨をもらいました。

 ――自分の知識が誰かの役に立つのはうれしいものですねぇ。

 そう思いながら妖精の国を後にしたのでした。

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