第7話 送り狼さん


「早く青になれ〜」


 母さんに買い物を頼まれて現在俺は車の中。助手席には財布と買った弁当。

 ここに女の子が座る日は来るのだろうか? 出来れば先輩を乗せたい。


 そんな事を考えながら買い物を終えた帰り道。

 いつまで待っても車が進まない事に参りながらふと歩道の方を見ると、どこかで見たことある人が笑いながら電信柱を叩いている。


「……烏丸さん、なにしてんだよ……」


 我が担当、烏丸さんだった。

 俺は車を車道の脇に止めると、謎行動をしている烏丸さんの元へと近づく。


「烏丸さん、なにしてんすか」

「……あ、裏切りの薄情者陽キャ作家だ」

「誰がじゃ」

「だってだって! この私を! 担当である私をさし置いてイラストレーターさんと二人きりでお祝いしたんれすよね!? これが裏切りじゃなくてなんと言うんれすか! だから私は一人で飲んでたんれす。……いつも一人ですけろ。常にロンリーですけろ」


 うーわ、めっちゃ酔ってる。まだ七時だぞ。めんどくせぇ……。

 よし、こういう時は下手なこと言わないでおこう。そしてさっさと送っていこう。さすがに声をかけた以上、ここにこのまま置いておく訳にもいかないしな。


「はいはい。わかりましたから帰りましょう。送っていきますから」

「狼ですか? 送り狼になるんれすか? ダメれすよ。私と貴方は担当と作家。それを超えちゃダメなんれす。それに私には彼氏がいます。嘘れす。先週フラれました。私にはもう仕事しかないんれす」

「どこをツッコんでいいのかわっかんないなぁもう!」


 支離滅裂な事を言う烏丸さんをスカートの中を見ない様に後部座席に転がし、彼女の住んでるアパートへと向かう。以前も酔って歩けなくなったのを送っていったから場所は知ってるしな。

 で、アパートの下に付いてからが大変だった。半分寝そうになっている烏丸さんに肩を貸してなんとかエレベーターに乗り、部屋の前まで来る。


「烏丸さん、部屋の鍵は?」

「んぇ? 鍵 ……鍵は……ドアノブに手をかざして呪文を唱えてくだしゃい」

「それ、アンタの担当してる別作品のだから! あーもう! 確か前は鞄のこの辺に……あった。烏丸さん、鍵あったから開けますよ。いいですね?」

「私の担当作家がまじゅちゅしだった件。つまり童貞」

「酔ってもタイトル考えれるのは凄いですけど、今じゃないしそんなタイトル絶対買わない。そして童貞でもないわコノヤロウ」


 俺は鍵を開けるとすぐに電気を付けて玄関に烏丸さんを座らせる。


「じゃあ俺はもう帰りますからね。ちゃんと鍵閉めてくださいよ」

「ん〜……帰っちゃうのぉ〜? 送り狼は〜?」

「しないっての」

「私は空園先生となら……」

「はいはい。そういうのはいいから」

「嫌だけど」

「嫌なんかいっ!」


 つ、疲れる……。


 それから結局、俺は烏丸さんを部屋の中まで運んでベッドに座らせるとすぐに部屋を出た。あのままだと恐らく鍵は締めれそうに無いため、外に出てから鍵をかけ、それをポストから部屋の中に投げ入れた。これなら後で気付くだろう。


 そしてこんな大変な目にあったのに、家に帰った俺を待っていたのは母さんからの文句。解せぬ。


 だけどそれが一瞬で吹き飛ぶ事が起きる。


 なんと……先輩からのデートの日取りの連絡が来たのだ!

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