第4話 学生自治会 2

「では、次の議題ですが、小原緋あかねさん、お願いします」

「はい。新役員の募集についてですが、庶務担当を一人か二人募集するので、今月の新入生の部活動紹介の時に、学生自治会も壇上でPRする予定です。今のところ、私と会長が出る予定です。他の方々も興味のありそうな人に声をかけておいてください。以上です」


「今年は入ってくれるかなあ」と六車むぐるまたまき

「どうだろうね。こればっかりは読めないね」と、桜。


学生自治会の運営も学生の自主性にゆだねられるので、やりたい人だけでやっている。そのため、学年の構成比がいびつになりがちで、事実、去年の新入生は誰も手を上げなかった。なので、現状として新二年生が一人もいない。


「さすがに今年は誰か入ってくれた方が私も安心です。では最後の議題は私から。駅と高専キャンパスの通学用のシャトルバスの新設について、高専機構に掛け合ってもらった件ですが……」

会長は一拍を置いて続ける。

「やはり、現状では予算化は難しいとのことでした」


はぁ、とため息が一同から漏れる。駅から高専キャンパスへのアクセスの悪さは、誰もが知るところで、ほとんどの学生は自転車を二台持たざるを得ない上に、自転車に乗る時間も結構長いので、駅からシャトルバスの実現を望む学生は相当数いる。その実現のために予算を獲得すべく、以前から高専機構と掛け合ってくれているのだが、今回もだめだったようだ。


桜はちょっとだけ手を挙げて、「現状では難しい、というのはどういう意味ですか?」と尋ねる。

「将来的には、可能性はあるかもしれないということだと思います。しかし、讃岐高専は、五十以上ある高専の一つにすぎません。讃岐高専の東讃キャンパスは、特に目立つ高専でもありませんし、他に優先すべき事項があるということなのでしょう」


「ということは、何かめざましい実績を上げるとシャトルバス予算が出るってことですか?」と香西こうざいれい

メカトロ研は夜遅くまでロボットを作っている。時には終電まで活動するので自宅から通っている学生の安全な帰宅の足は死活問題になるが、さすがに深夜運行はしないだろう。

「そうかもしれませんね」


「何かめざましい実績というと、たとえば?」

「例えば甲子園で優勝するとかですかね?」と、あかねが冗談半分に言った。


「高専で甲子園に出場したチームは聞きませんから、それはそれで快挙ですが、現実的ではないですし、難しいでしょうね。それに、陸上部の楓さんが棒高跳びで国体二連覇を達成して部活の予算は増えましたが、高専の予算全体の増加につながらなかったので、スポーツは重要視されていないのかも知れません。おそらくは、高専ならではの『何か』が必要なのだと思います。そうですね、例えば――」

「例えば、ロボコンの全国大会優勝ですか」

香西礼が、いつになく真剣な表情で会長の言葉を引き取る。


「そうですね。あるいは、西讃キャンパスのようにAIソリューションで好成績を残すとか、高専ならではの存在感を示すことができれば、世間の評価も変わって要望が通ることもあるかもしれませんね。断言はできませんが」


「だったら、また西讃キャンパスの学生に頑張ってもらえばいいんじゃないの? 同じ讃岐高専なんだし」

そう言って環は礼をチラリと見た。事実、讃岐高専は全国的にも珍しく東讃キャンパスと、西讃キャンパスという二つのキャンパスに分かれていて、西讃キャンパスは元々は電波高専だったので、情報通信系の成績がいい。いつだったかAIのコンテストで優勝していた記憶がある。西讃キャンパスがこのまま有名になれば、その恩恵を受けられるかもしれない。


しかし、礼はムスっとして、「メカトロ研じゃ優勝は無理って言いたいの?」と環に突っかかった。

「そこまでにしてください。ここで争っても何にもなりませんよ。こういう問題は粘り強く交渉を続けることですね。その上で讃岐高専の地位を向上する手土産になるような実績ができれば、それが有利に働くかもしれません。六車さんも、人のことばかり言っていないで何か案があれば、自分で行動することも大事ですよ」

「はい。すみません」

内山会長にたしなめられた環は素直に謝る。


「では、明日は入学式なので、みなさんも部活の勧誘等で忙しいでしょうから、今日はこれで解散にします」

会議は解散になり、香西礼と小原緋は部活があるのか、すぐに出て行った。

残った三人で少し世間話をしたあと、六車環と真鍋桜は二人揃って退室し、校舎の出入り口に向かった。


「高専ならではの実績と言われても、何も思いつかないなあ。桜は何かアイデアある?」

環は歩きながら手を頭の後ろで組み、桜にそう尋ねる。

「ノーアイディア。あったら会議の時に言ってるよ」

「それもそうか」


「ねえ、どうしてタマちゃんは香西さんに、あんなに突っかかってたの?」と、疑問に思ったことを口にした。

「突っかかってねえよ」と、なぜか環は顔を赤くしながら「向こうが変なこと言ってくるからだろ。それに、メカトロ研はあれだけ予算もらってるっていうのに、それに見合う実績を出せてないってのが気に入らない」


ふと窓の外を見ると、陸上部が練習しているのが見えた。棒高跳び二連覇中の学生が棒を握って走る。

「国体二連覇ってすごいよな。前田楓さんだっけ、オリンピック出られるんじゃない? なんで高専に来たんだろう?」

「タマちゃん知らないの? 楓ちゃんの家って、高専の隣なんだよ」


二階よりも高いバーを軽々と飛び越えていく。時々、高いところから落下する夢を見て、ビクッとなるけれど、あんなに高く跳んで怖くないんだろうか。

「いるんだな、天才って。あぁ、私も高く飛びたい。才能がほしい」

「飛べるよ、パスポートを取ればね」

「その高飛びじゃねえよ」

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