死滅の刃~経験者の告白~

青キング(Aoking)

死滅の刃~経験者の告白

 二〇二一年十一月二十四日。

 午前八時ごろ。弥富市の中学校で十四歳の男子生徒が同学年の男子生徒を包丁で刺し、刺された生徒は病院に搬送されるも後に死亡が確認された。


 皆さんはこの事件をどう捉えるであろうか?


 刺された生徒が可哀そう。刺さなくてもよかったじゃないか。俺には関係ない話だ。などなど各個人思うことは違うだろう。


 しかし自分と同じ事を思った人間は、この世にいないはずだ。



 奇妙な縁だ。と自分は本事件に興味をそそられた。

 

 奇しくも、自分の誕生日であった。

 とはいえ、事件の発生したのが誕生日という人物は少なくないだろう。

 縁を感じたのはけっして「誕生日だから」だけではない。


 自分自身が刺した生徒と同様に、刃物で同じ学年の男子生徒を殺そうと企図したことがあるからだ。

 自分は高校生の時であるが、同じ学年の男子生徒の首筋にハサミを突き立てようと計画し、ハサミの先端が首筋に触れる寸前まで遂行した。

 

 ハサミが触れる間際に相手の息をのんだような顔を見た途端、自分の中で怒りが冷めて、ハサミを持つ手が止まってしまったのを今でも覚えている。


 その後、殺そうとした相手の腰巾着(言い方考えろ!)に胸倉を掴まれ「ハサミはねえだろ」と怒鳴られた。

 この時にはすでに殺意は眠っていましたが。

 


 どうして殺そうと思ったの、疑問に感じる方もおられるでしょう。

 答えは単純です。散々嫌がらせを受けたからです。はい、模範解答。

 けれども、嫌がらせを受けたからという理由は表向きに過ぎず、自分の心の中では様々な経緯があって殺意へと昇華されたのです。(昇華って言うな)


 

 嫌がらせくらいで殺意に至るものなのか? と疑問に感じる人は多いでしょう。

 否、とは言いません。

 ですが厳しい事を述べますと、嫌がらせくらい、という他人事の捉え方をしているから理解できないのです。

 塵も積もればヤマトナ――ではなく、塵も積もれば山となる、という諺のごとくに憎悪が積もれば殺意に変わるのは当然のことです。

 


 実体験を持つ人なんて中々いないので、ここで刺した側の心理を少し推測してみましょう。

 

 「どうして刺したのか」という問いに対しては、おそらく「憎かった」や「恨んでいた」という感情面が表立って出てくるでしょう。

 注意して欲しい点は、この問答が事後に行われるであろうこと。

 実体験をもとに考察すると、刺した時点で本来の動機である殺意と憤怒は雲散してしまっているであろう。

 憎しみや恨みだけでは、殺意あるいは殺人行為にまでは至らないのが普通だ。憎しみと恨みがすぐに殺意に転換するなら、世界は殺人事件が仰山起きることになる。

 

「理性はなかったのか」という問いに対しては、「あった」と答えることが出来る。

「理性があるのになぜ殺した?」と訊かれたら、少し複雑な答えにはなるが「理性を押し殺していた」が妥当であろう。

 理性が働いていないわけじゃない、損得勘定した時に天秤を殺意に傾けた方が得するから実行に至っただけに違いない。

 

「誰かに相談すればよかったのでは」という問いには「相談では解決にならないから」と答えられる。

 心理状態はもはや愚痴とか不満の範疇を超えていて、消したい、抹殺したいなどの排斥の感情が強くなっており、相談では目的を達成できないのだ。


 読んでいる方のうちで、もしかしたら「なぜ凶器が包丁だったのか」と気になっている人もいるかもしれない。

 答えとしては「一手で殺傷でき、かつ安易に所持できるから」である。

 包丁ならば軽くて平たいためにリュックなどの日常的な荷物の中に隠し持てるし、加えてほとんどの家庭に常備されており持ち出しやすい。

 刺した男性生徒の家庭にもきって包丁があっただろうし、親の目を盗めば持ち出すことができる。量販店で購入してもよい。

 つまり包丁は、家庭の中で最も安価で手に入れやすい凶器なのだ。

 


 さらには凶器の恐さは殺傷できること、だけではない。

 殺意を抱いた者が凶器を持つと、殺人実行への心理的壁がまとめて崩壊する。

 凶器を所持していると不思議と気持ちが落ち着き、余裕と優越感が生まれて、殺意が固まると今まで嫌悪していた被殺人者を待ち望むようになる。

 かかってこいや喧嘩上等、のような心持ちで殺人を実行に移すのだ。

 人殺しの件数を減らすには、凶器を入手できる環境をなくすのが有効かもしれない。




 突発的に書き始めたせいか話題が尽きてきたので、自分がハサミで脅した事後について書き記しておきたい。


 腰巾着に怒鳴られてすぐ、周りにいた教師が事態を察知して自分と相手を羽交い絞めにした。

 その時の教師はおそらく喧嘩だと思ったのだろうが、後々に自分がハサミを突き付けたことが発覚して、当事者と学年担当教員の間で問題になった。

 自分と相手と腰巾着に事情聴取が行われ、数日後には当事者間での相互謝罪の場が設けられた。

 この場に臨んだ自分の心理は、もはや殺人行為を面倒に感じており殺意はなくなっていた。


 だが再び殺意は復興する。人生最大の呆れとともに。

 腰巾着は申し訳なさを全面に出して教師陣の受け答えをしていたが、自分が殺そうとした相手は、とんでもない台詞を口走ったのである。



 さて、ここでクイズ。


 相手が口走ったとんでもない台詞とは?

 

 ここから先を読み進めずに鍵かっこの中の〇に言葉を当てはめ、コメント欄にてお答えください。〇のうち漢字は二文字です。

 

 「どうせ。〇〇〇〇〇〇ねぇくせに」


  今すぐ答えを知りたい方は、スクロールしてください。









 クイズの答えは「どうせ殺す気なんてねぇくせに」でした。

 自分は呆れて物が言えなくなりました。減らず口を利けなくし、死人に口なしの状態にしてやろう、とも思いました。

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