走馬灯編

第28話 ~喧~

僕は野良だ


好きに生きた

好きに眺めた


僕は今、トボトボと

意味もなく歩いている


淋しくて淋しくて

噴水の所へ向かった

少しだけ顔を洗って

お水を飲みたくて


商店街の隣にある

いつもの公園


いつもは落ちそうで

あまり近づかない

噴水のへりに

よじ登ったよ


チョロチョロと

薄くしか流れない

タイルみたいな所に

顔を近づけて水を飲んでいた


そうしたら

突然、うしろから

僕のヒゲがピンとなるくらい

大きい怒鳴り声がしたんだ


「このお砂場にあった富士山は」

「僕が作ったんだよ!」

「なんで壊したの!?」


「そんなの知らない!」

「誰もいなかったもん!」

「私もお城作りたいもん!」


「昨日からがんばってたのに!」

「ずっと積み上げたんだぞ!」


「なんにも書いてなかったもん!」

「そんなの、わかんないもん!」


どうやら、こどもたちが

砂場で作ったもので

喧嘩をしているみたいだ


僕は心配になった

人間が怒鳴り合うのは

好きじゃないから


「わからなくたって!」

「崩さなくてもいいじゃないか!」


「私だって大きいお城!」

「大きく作りたいんだもん!」


「空いてるところで」

「やったらいいだろ!」


「ずっと置いておく方が悪い!」

「みんなだって遊びたいもん!」


僕は少しだけ

二人が可哀想になった

だって、どっちも

悪いことをしてないから


ただ、真剣に

作ってたんだよね


だから、僕はすこしだけ

2人に向かって鳴いた


喧嘩しないでよー!

仲良く作りなよー!


こどもたちは、鳴き声で

僕の方を振り向いた


「猫だ!」


「わあ、濡れてる」


「エサあげてみようかな」


「拭いてあげようかなぁ」


ランドセルの中をゴソゴソと

給食の残りのパンを出されて


ポケットから

ハンカチを出された


えと、ちょっとまって

僕、今、お水飲んでて・・・

顔も洗いたいし・・・


ニャーニャー鳴きながら

逃げ回った僕は

草むらの中に逃げた


「なーんだ、行っちゃった」


「黒猫だもん、不吉だよ!」


「そうなの?」


「不幸をもってくるんだよ!」


それを聞いた僕は

また悲しくなった


僕が持ってこれるのは

不幸だけじゃないのに


「それより!富士山!」

「また作るから、そこどいて!」


「私も使うんだってば!」

「あきらめてよー!」


僕は黒猫だ


不幸を持ってくる

幸運だって持ってこれる


どっちも持ってるよ


なのに、どうして

人は喧嘩を

やめないんだろう


僕は、僕は

影にいるしかないの

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