Second Season

Start

時期は夏、中学二年生のリリィはスケートのカテゴリもノービスからジュニアに上がった。


そして七月になってすぐに


『今年関東選手権で10位以内に入ることが出来なければ、スケートをやめる』


と紙に書いて部屋に貼った。


最大の目標は全日本ジュニア選手権だが、今年から関東選手権を通過したら東日本選手権がある。

今年東日本まで行くことが出来れば、まだ来年に望みをかけることが出来る。


しかしそこにすら行けないならこの一年で成長していなかった、もしくは成長したかもしれないがさらに上に行く選手と言うには及ばないという事になり、自分にスケートは向いていないと言うことが確定する。


やっぱりダメかもしれないと言う思いが出ることもあるが、東日本選手権ならギリギリ行けるんじゃないかと心のどこかで自分に期待もしている。


今年のプログラムは昨年言った通り、持ち越しでショートプログラムは「リベルタンゴ」フリーは「ダッタン人の踊り」で決まっている。

今年からは毎試合ショートプログラムを滑り、昨年より30秒伸びたフリーを滑る。


そして今年は黄昏フィギュアスケートクラブ全体が変化の多い年となる。


まず昨年世界ジュニア選手権でメダルを獲得した高村柚樹と宮城聖子はシニアへと上がる。

もう既に出場するグランプリシリーズの試合は決定されており、アサインが出た翌日は二人とも嬉しそうだった。


そして昨年までノービスだったリリィこと島田りりさ、リリィと同い年の坂木銀河、そして小野まちがジュニアの年齢に上がった。


まちは日本基準の学年だとリリィや銀河の一つ下だが、国際スケート連盟では7月から翌年の6月までが同い年の扱いであり、まちは6月生まれなのでギリギリで今年からジュニアとなった。


シニアに行くのは15歳以上と決められているが、大抵16歳になる年...つまり高校1年生からがほとんどだ。

しかし聖子は5月生まれのため中学三年生のピッタリ15歳で今年からシニアに行けることとなる。


聖子と同い年の飛田冷生は11月生まれのため、今年もジュニアとなる。

彼にカテゴリーの変化はなかったが、今年は少し違っていた。


「僕もJGP選考会に招待されたんだ」


昨年は残念ながらジュニアグランプリシリーズに出ることは出来なかったが、今年は昨年の功績が認められてジュニアグランプリシリーズに派遣されるための選考会へと招待された。


そしてそこには当然、全日本ノービスで結果を残しジュニアでも結果を残した銀河とまちも招待されている。


またしてもリリィは今年も合宿の多い夏に留守番だ。


しかも今年は安村コーチの娘である安村優香も新人発掘合宿に行く。


「本当に寂しい夏だよ」


実力が無いのは元々分かってはいたが、流石にこうも目に見えて自分に実力がないことを見せつけられると流石にへこんだ。

そんなリリィに両親も哀れに思ったのか


「名古屋に行こう、途中スケートリンク行ってもいいよ。黄昏以外のリンク滑りに行こう」


と旅行を計画したのだった。


行こうと提案された名古屋からは、多くのフィギュアスケート選手が出ている。


特に有名なのは「星願せいがんFSC」


今でこそ色んな地域から選手が出ているが、ほんの数年前は日本の選手は皆このクラブから出ていると言われていたくらいだ。


現役なら三浦紀之や中村初音が特に有名だ。

星願でメインコーチを行っている人物も既に老齢なものの、まだまだ教え子は多いと言われていて今後も出てくるだろうと言われている。


というわけなのだが、星願が有名すぎて逆に行きたくなかった。

ミーハーとは真逆のことを言い出す娘に両親は頭を抱えつつ


「名勝スポーツセンターにスケートリンクあるみたいだよ」

「じゃあそこにしよう」

「築年数も星願よりは新しいみたい、まだ20年も無いんだね。他に行きたいところは?」

「名古屋よく分かんない」

「行きたいとこ勝手に決めるよ?」

「いいよ」


関東圏からまともに出た経験が無いので、名古屋に何があるのかよく分からない。思いつくものと言えばシャチホコだが、名古屋城の頂上にあるものは遠くからしか見えないだろうと思った。

試合にたくさん出るようになれば多くの地域を知るのかもしれないが、今はどこにも行きようがない。


こうして、夏休みの旅行としてフィギュアスケートの聖地、名古屋行きが決定した。

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