First season
新しい一歩
4月
リリィは中学生になった。
そしてスケートの面では7月になれば最後のノービスクラス。既に遅いが、ここで全国に行っているくらいでないと一生世界になど出られない。
選手になるような子は小学校の中学年頃から全日本ノービスに出ているものだが、リリィは関東ブロック大会にすら出られていない。
そればかりか、今日本でトップに立っている全ての選手が行ったとされる「新人発掘合宿」にすら行ったことがない。
自分以外のクラブ員は毎年のように行っていたが。
学年が上がった時の恒例の自己紹介では毎年、得意なことはスケートですと言ってきたが、つい先月たった二歳年上の五十嵐誠也が世界選手権で優勝したばかりだし、同じ大会に出ていた柚樹に至っては同じリンクで練習をしている。
そんなレベルの人が最近話題になっているのもあって皆知っているだろうから、もうドヤ顔でスケートが得意です!なんて言えない。
なら一体何を言えば良いんだろうとリリィは頭を抱える。スケート以外に特技も趣味もなにもない。
練習は楽ではなかったけれど、大きくなったらテレビに出ているような選手になれると本気で信じていた低学年頃までの自分。
小三の頃から周りの子がやめていくか、有望視されるかが少しずつ分かってきた。
自分は限りなく脱落に近い状態。むしろ何故しがみついているのかと言った状態。
ついこの前はお母さんに「大会にも出られないのによくモチベーション持つわね」と言われたばかりだ。
特技や趣味はない。しかし、新しい担任は自己紹介として今年の目標を言うようにと言った。
ここで言われる目標はもちろん学校での話だ。
それとは別にリリィは今、明確な目標ができた。
「今年の目標…絶対、絶対七級取る!!」
それを聞いた安村コーチは特に驚いた様子はなかった。
「あら、なんとか受けられるって自信持った?」
「私ね、今年がノービス最後の年だよ。取れないとジュニアに行けない」
「まあそう....ジュニアには行けるけど...まあノービスでトップの子はみんなもう7級取ってるわね」
そう言われて凹みかける。
その通り、リリィとスケート年齢が同じ銀河やまちは既に7級を保持した選手だ。
来年以降結果を残せば全日本選手権、そして世界へ出ることが出来る。
「というか銀ちゃんって7級の課題ジャンプ、ルッツとフリップでやったんだっけ…」
「うん。どうせやるならすげぇって思われたいじゃん」
「そもそも銀ちゃんはバッジテストで不合格になったことがないでしょう…」
「そりゃ何回もやるのめんどくせぇし……それに、お金かかるじゃん!」
とニッとした笑顔で銀河は言う。
その笑顔と言葉が本当にグサリと刺さる。
リリィは5級で引っ掛かり、その度に親に頭を下げたのをおもいだした。
これではいけない。
そう思ってここしばらくずっと練習してきたトリプルフリップを跳ぼうとする。
「リリィちゃん、エッジが逆よ!!」
先生に大声で言われてびっくりして助走が止まった
「エッジが…逆…」
もう一度飛ぶために助走しようとした時、リンクが騒然とした。
と同時に
「やっったーーー!!」
と柚樹がガッツポーズで叫んだ。
見ていなかったが、柚樹が四回転を降りたらしい。
ジュニアの世界選手権が終わってからずっと練習していて、やっと回りきって降りれるようになったのだ。
リリィは大会に出る人が当たり前に跳べるジャンプまともに飛べないのに、柚樹はそれに加えどんどん新しい技も覚えていく。
素直におめでとうと言えない自分が嫌いだった。
皆新しい一歩を踏み出すこの時期だが、自分の一歩の歩幅がひどく狭い気がした。
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