今年もこの日がやって来た ~赤いきつねを愛するわたし~

Teran

第1話

「うどんだね。」

「いいや、蕎麦だね。」


 僕と真理のいつもの言い合いだ。別に本気で喧嘩している訳じゃない。じゃれあっている様なものだ。


 僕と真理は今年の春に揃って上京してきた。東京の大学に入学するためだ。あ、僕と真理は双子の姉妹なので、念のため。


 うちの家は両親とも働いているが、子供を二人同時に大学に通わせるとなると家計が厳しい。家族会議の結果、二人とも同じ大学で二人で一緒に住むのなら、と言う条件で進学を認めてもらった。


 それから二人で勉強を頑張り、念願かなって大学生になれた。そして今、二人で一緒に暮らしている。


 双子の姉妹なのだが、似ている所もあるけれど違う所も結構ある。さっきのうどんと蕎麦もそうだ。僕はうどん派、真理は蕎麦派だ。母親はその辺を良く分っているので、赤いきつねと緑のたぬきを1箱ずつ送ってくれる。


「赤いきつねはね、なんたってこのお揚げが良いのよ。見なさいよ、このおつゆを吸ってふっかふかになったお揚げを。この美しくべっ甲色に輝くお揚げを。」


「馬鹿言ってるわね。緑のたぬきの天ぷらこそ至高よ。お湯を注いでふわふわになった天ぷらも良し。後から載せてカリカリを楽しむも良し。なんだったら半分に割って両方の食感を楽しむ事も出来るのよ。お揚げじゃ出来ない芸当でしょ。」


「何言ってるのよ。赤いきつねはあの名作、カリオストロの城にも出てくるのよ。」


 言い合いをしながらも二人して麺をすする。服や靴の貸し借りはするのに麺については意見が合わない。いつもの光景だった。


 僕たちの両親は一生懸命働いて仕送りをしてくれる。けれどもこのご時世、贅沢出来る程の仕送りは難しい。何せ二人同時なのだから。だからこそ希望に合って学費の安い大学を探したり、二人で暮らしたりしているのだ。


「あーあ、偶には外でご飯たべたいな。」

「そんな余裕、うちにはないからね。」


 実を言うと、僕も真理も料理はあまり得意じゃない。と言うか苦手だ。こんなところばかり似なくても良いのにと思う。そういう意味でもレトルトとかカップ麺は重宝している。


「ねえ、明日はバイトのシフト入ってるよね。」

真理に聞かれて、僕もスマホを確認する。

「シフト入ってるね。」

「じゃあ、明日は賄い食べられるんだ。やった。」


 そう。仕送りの不足を補うために、僕たちはレストランでウエイトレスのバイトをしているんだ。双子で珍しいのか、一緒のシフトが組まれている。これでも人気があるんだぞ、僕たちは。


 そんな日々を送っているうちに、今年も年末が近づいて来た。両親は帰っておいでと言ってくれるけれど、僕は真理と相談して今年は帰らない事にした。


「バイトもあるし、後期試験の勉強もしなくちゃいけないし。何より交通費も馬鹿にならないから今年は帰らない事にするね。ごめんなさい。」

僕と真理は電話で両親に謝った。


 そして慌ただしく日にちが過ぎ、とうとう大晦日になった。


「もう少しで年が明けるね。」

にやつきながら真理が話しかけて来た。


「そうだねぇ。もう30分切ってるね。」

「ふっふっふっ、じゃじゃーん。」


 その手にはなんと緑のタヌキがあった。しまった、年越し蕎麦か。僕の赤いきつねは先日食べきってしまった。いや、蕎麦じゃないけど年越しうどんだって良いじゃないか。


「実はね、もう一個あるんだ。」

真理はわざわざ2個取っておいたらしい。


「ねえ、お蕎麦食べる?お蕎麦。」

こいつめ。僕の負けだ。

「た、食べるわよ。」


「どうかしら。緑のたぬきのお味は。」

「この柔らかくなった天ぷらも美味しいな。」

「えー、私はカリカリ派なんだけどな。」


 二人して笑顔で麺を啜った。この後近くの神社に初詣に行こう。二人で。

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