4話 味方の証明

「さて、駅に入ったのはいいッスが、問題はどこにいるかッスね」


「救助の要請だけで、具体的なことはわかってないもんね」


「ジュマ」


 いま、駅地下の雑貨屋さんに隠れているッスが、こっから先、どう動くか考えないといけないッス。


 翼魔よくまさんも機製人きせいじんさんも見つけた雰囲気じゃないんで、女子高生さんは大丈夫だと思うッス。


 おそらく、物陰に隠れるだけじゃなく本尊さんの力で、魔力や生体波動、体温なんかも遮断して、見つけられないからじゃないッスかね。


 ただ、そうなると味方であるこちらも見つける手立てがない。


 何かヒントがあるといいんッスが。


「でも、よく考えると救助を頼んだ神様って、神様なのに空間を渡れないのよね」


「そうッスね。元々、新興宗教のものなんでそれほど力はなかったのかもしれないッス。それが、女子高生さんの覚醒によって力が増し、他の神様へ連絡するくらいはできても、直接、力を借りるまでには至らなったんじゃないッスかね」


「そうか。翼魔が寄生すると宿主は能力が目覚めるんだっけ。それで、目覚める前だから兵器団体の呪紋じゅもんをはねのけられなかったし、目覚めたばかりだから大きく力を行使できない。つじつまがあうわ」


 華彩カーヤと話して思い出したッスが、救助目標である女子高生さんの実家は、武術とからめた新興宗教を運営されているッス。


 しかも、設立から二十年と歴史は浅く、商業よりのものらしいんで、本尊が武神であっても、力は弱いと思うッス。


 うん?


 武神?


「もしかして、武術に関係したところに隠れているんじゃないッスかね」


「武術?」


「そうッス。都市神とししんが救助を受けたところで連絡は途絶えてるんで、救助が来るのは分かっているッス。そのあと、翼魔さんや機製人さんに察知されないように応答しないことを考えれば、武神である自分と関連のあるところに隠れているとは考えられないッスかね」


「確かにね。待ち合わせ場所を指定したかったけど、できないとなれば、そうするかもしれない。でも、駅で武術に関係のある場所ってあったっけ?」


「柔道とかもあるんで、スポーツとか、広い意味で考えてみてもいいと思うッス」


「だとしたらスポーツ用品店?」


「まずはそれを目指してみるッス」


「オーケー、彩。行ってみましょう。ダメだったらまた考えればいいし」


「そうするッス」


 行動目標ができたんで早速、移動開始。


 暗いのは魔導具のロックグラスがあるんで問題ないし、あとは機製人さんに出くわさないようにッスね。


 ──物陰に隠れながら地下の商店街を通って階段のところへ来たッス。


「駅ビルの二階に大きめのスポーツ用品店があるわね」


 壁にある案内板をみて華彩が呟くように言ったッス。


 ……。


 あらためて思うと、でっかい街ッスよね。


 たぶん、メオウさんが国をつくるとか言ってたんで翼魔さんサイドの影響による街になっているんでしょうけど、異空間にあるものとしては規模が大きい。


 いまは空間が交差して、敵対勢力と絡んでいるんで人とかはいないッスが、ふつうに地方都市クラスのもんッス。


 そして、その街に草や木が生えたりしているのは、機製人さんサイドの影響ってことになるんッスけど、じゃあなんで草や木なのかは謎ッスね。


 機製人さんは造られているわけッスから、工場や機械、金属じゃないかって思うッス。


 まあ、いまはそれを解明しようとしても、答えは出ないッスね。


 目の前のことに集中するッス。


「何もないわね」


「ジュマ」


 階段をのぼって、洋服のない洋服屋さんを通りぬけ、お目当てのところへ来たッスが、がらんとしてるッス。


 テントや、バーベキューセット。


 サッカーボールや野球のバットとか、道具類は飾ってあるものの、何故か服とか着るものはないッスね。


 隠れられそうなところを探してみるッスが、けっこう限られているッス。


 五列並んだ商品棚。


 レジカウンター。


 試着室。


 テントの中も覗いてみたッスが、やっぱりいないッスね。


「ここじゃないのかな」


「あるいは、神様の力で見えないようになっているのかもしれないッス」


「そうよね。ていうか、そもそも私たちが助けにきた味方って分かるのかしら?」


「その問題もあるッス。機製人さん、翼魔さん、どちらかに通じた仲間と受け取られても仕方がない状況ッスからね。何とか分かってほしいッスが」


「武術家なら型で同門か分かるらしいけど、私たちは武術家じゃないしね」


「……」


「? どうしたの彩」


「ちょっと、思いついたことがあるッス。華彩、周囲に機製人さんとかいないッスか?」


「え、ええ。いないわ」


 華彩がツインテの先で見回してもらったッスが、それなら大丈夫ッスね。


 私は商品棚を動かしてある程度の広さを確保すると、魔導具のロックグラスとエンプレス・エリーを空間倉庫へ送って思いっきり運動ができるようにしたッス。


 ちょっぴり本気の運動をするッスよ……。


「ふううううう──!」


 タッ。


 ババババババババ!!!!!!!!


 バ!


 ──。


「……」


「ジュマ……」


 タタカイノキオクから、女子高生さんとこの武術奥義、昇竜王竜巻連脚しょうりゅうおうたつまきれんきゃくッス。


 簡単に言えば、上昇しながらの連続前回し蹴り後ろ回し蹴りッスね。


 あまり実用性のない、見せ技ッスが、それでもこちらの流派では奥義になっているようッス。


「お見事」


 !?


 声のする方、試着室を見ると、その横にセーラー服姿の女子高生さんがいたッス。

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