2章 交差するモノたち

1話 空間交差都市

「こういうのを終末世界って言うんッスかね」


「たぶんね」


「ジュマ」


 目の前に広がる光景。


 それはまさに文明が崩壊した街ってかんじだったッス。


 十階建てくらいのビルが建ち並んでいるッスが、人がいなくなって何十年も経っているみたいに荒れ放題。


 だいたいの窓ガラスは割れているし、コンクリートも劣化がすすんでいるみたいッスね。


 道路なんて、あちこち土で覆われて草が伸びたいだけ伸びて、私の膝くらいまであるッス。


 ただ、これらから私の五感にが伝わってこないッス。


 それもそのはず。


 これらはできたものッスから。


 ──おっと。


 つい見とれてしまうッスが、きちんと隠れないといけないッス。


 いちおう、見られる能力を消して私という存在を視覚的にぼやかしているとはいえ、油断できないッスからね。


 ビルとビルの間に入ってそっと様子を伺う私。


 現在時刻、午前の十時十分。


 天気は晴れで、青空が見えるッス。


「見て彩、翼魔よくまが飛んでる」


「そうッスね。しかもあれ、翼が六枚あるじゃないッスか」


 華彩カーヤが指摘するとおり、空には翼魔さんが飛んでいたッス。


 学生さんたちに憑いていたのは一組二枚の翼をもった翼魔さんだったッスが、空を飛んでいるのは六枚。


 人に憑いているわけでなく、翼だけの単体ッスね。


 ゆっくり飛んでる様子から察するに、上から探しているみたいッス。


 そんで、今回も敵ってわけッス。


「彩、向こうで歩いているの、あれが団体のじゃない?」


 ビルのかどからツインテの先を出して見た華彩の映像を脳内で確認すると、五十メートルほど先に一体、人型のものがあったッス。


「ぽいッスね」


「拡大するわ」


 詳しく見ると、頭に髪はないッスが、鼻や唇はあるッスね。


 裸で、水色をした筋肉質の男の人みたい。


 男の人というのはあくまで筋肉のつきかたからッス。


 テレビの説明なんかで見かけるような、人間のCGモデルをそのまま実体化したかんじ。


 だから産まれたものではなく、造られた感しかないッス。


機製人きせいじんね」


 華彩の言葉に、私はうなずいて答えたッス。


 機械で製造された人、機製人。


 字のとおりなんッスが、金属を組み合わせてできたものではなく、あちらは肉体ベース。


 まあ、映画にあるような液体金属で動くものも考えられるッスけど、こっから見える範囲ではそう思うッス。


 その機製人さん。


 兵器製造団体が造ったもので、今回の依頼におけるもう一方の敵。


「ねえ彩。わたしと鎖彩サーヤであの機製人から情報を入手すればいいんじゃない?」


「そうッスね。そんじゃ、機製人さんの進行方向へ近づくんで、よろしく頼むッス」


「オッケー」


 すると私は角を出て、物陰ものかげに隠れながら少しずつ近づいていくッス。


 そもそも今回の依頼も女子高生さんの救出で、それ自体は分かりやすいッスが、経緯が複雑になっているッス。


 まず一人の女子高生さんに、兵器製造団体さんが目をつけ、いつでも引き入れられるよう、見えない入れ墨みたいな呪紋じゅもんほどこしたッス。


 そのあとメオウさんが現れ、同じ女子高生さんを気に入って翼魔さんを憑かせたッス。


 その異変に気づいた団体さんが女子高生さんに強制転移を実行。


 すると今度は翼魔さんがそれを阻止すべく、自分たちの異空間くにに入った結果、女子高生さんを狙う両者の空間が交差してできたのが、ここッス。


 早い物勝ちみたいな状況ッスが、女子高生さんは新興宗教の巫女で、その本尊たる神様の力で隠れているんで、まだどちらにも見つかっていないかんじ。


 自力脱出できないことから本尊さんは都市神とししんに救出を要請して、それを受けて私が来たってわけッス。


 そんなわけで、早く助けた方がいいのは間違いないッスが、情報は断片的だし、敵の能力も分かっていないんで、ある程度は把握しておいた方がいいッス。


 ──さて、着いたッスよ。


 ビルの一階がコンビニになっていた店内へ入り、商品棚の陰にしゃがみ込んで隠れる私。


「じゃあ、行くわね」


「の、のびる……」


 鎖彩が呟くように言うと、垂れた私の金髪ツインテから一本が床を這って伸びていったッス。


 向かう先は道路の反対側にある時計屋さんの出入り口。


 いま機製人さんはその中に入っているッスからね。


 出入口の足元に設置して、髪を踏んづけて接触した瞬間に華彩のサイコメトリーでその機製人さんの能力や知っている情報を得るッスよ。


「出てきた……」


 緊張する華彩。


 機製人さん、何も持たないまま胸を張って堂々と出てきたッス。


 そんで。


 ピィ────────────────────────!


 期待どおり接触。


 情報が流れ込んできたッス。


 流れ込んできたッスが、機製人さん、こっちを見てるッスね。


 いや、目がないんで何で見てるんだってかんじッスが、顔を向けているのは間違いないッス。


「鎖彩、切って」


「わ、別れる……」


 華彩の指示で伸びていた一本の髪が切れ、私とのつながりがなくなったッス。


 それでも気になる様子で、こっちへ歩いてきたッスね。


 いま左側のツインテ先で見てるッスが、ギリギリまで隠れて、あとは出たとこ勝負ッス。


 五メートル……。


 四メートル……。


 三メートル……。


 二メートル……。


 一メートル……。


 ……。


 入った……。


 私は姿勢を低くして奥へ向かい、別の商品棚に移り隠れる。


 私が足音を出さずに動くのは当然ッスが、機製人さんも足音なしで歩いているッスからね。


 わずかな気配を感じつつ、行動を予測して対処するしかないッス。

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