11話 女王

 私の目の前、十メートルくらい離れた空中に、その人は現れたッス。


 身長は百七十センチくらい。


 見たかんじ、三十歳前後の女性ッスね。


 白い肌でモデルさんみたいなナイスバディーなんッスが、それを上に二枚、下に一枚の羽衣みたいな白い布だけで必要な部分を覆っているッス。


 はっきり言って路上には出られない格好ッスね。


 銀髪を肩にかからないくらいのミディアムボブにして、水色の瞳が私を見下ろしているッス。


 なんか偉そうで、その表情はまさに傲慢といったかんじ。


 気をつけるッス。


「俺様の名はメオウ。お前の名は何という?」


 楽しそうにその人、メオウさんは話しかけてきたッス。


「恐れ多くて答えられないッスよ」


 私は素っ気なく答えたッス。


 こういうときは変にのっからない方がいいッス。


「そうかそうか、ならば仕方がない」


 おや、真に受けたんッスかね。


 うなずいて言ったッス。


「本来であれば俺様の大事な子を消した罪によって葬り去るとこだが、お前は実に愉快だ。特別に許してやろう」


「そりゃどうも」


「それだけではない。お前の戦闘力、能力、気に入った。俺様の子に迎えよう」


「子に迎える?」


「そうだ。偉大なる翼の母である俺様の子になれるのだ。感激するがいい!」


 そう言って大笑いするメオウさん。


 どうやら空間の管理者とかではなく黒幕。


 大ボスが現れたようッス。


 そんで、凄いぞ選ばれたんだぞ、みたいなかんじになっているんッスが、ちょっと何を言っているのか分からないッスね。


 しかも話し方が男の人っぽい。


 身体は間違いなく女の人ッスが、そういう性格なのか、あるいは心と身体の性が一致していないのか、ちょっと考えてしまうッス。


「それ、私にとって何かメリットがあるんッスか?」


 流れをさえぎるように私は言ってみたッス。


「私はここにいる翼魔よくまさんをたおして人間を解放しに来たんッスよ。それ以外のことなんて、ぜーんぜん、興味ないッス」


 さて、軽く挑発してみたッスが、どう反応するッスかね。


「ふははははは。なるほど、お前の言い分もわかる。だが、現状よりも楽しく暮らせるとしたらどうだ? 社会や経済などあらゆる束縛から離れ、自由にできるとしたらどうだ。好きな時に寝て好きな時に好きなもの食う。最高だと思うが?」


 気にしないってことッスか。


 そんでお誘いのようッスが──。


「いいかどうかを決めるの私ッス」


「そうか。だが体験してみれば、それが素晴らしいものだとわかるぞ」


 そう言ってニヤつくメオウさん。


 ……。


 ……。


 ……。


 この雰囲気は……!


 ズパ─────────────────!!!!


 私はハローの引き金を引きながら一回転。


 前後左右の空中から現れた、四組の翼魔さんをぶった斬ったッス。


 横一直線に斬られた翼魔さんはその上下から金聖魔法きんせいまほうの炎を噴いて燃えていったッス。


 ハローはハンドガンタイプなんで、本当は撃つものなんッスが、線射にしてレーザーみたいな撃ち方で振れば剣になるってわけッス。


 十六枚になった翼は、金色の炎で音もなく焼き尽くされ、私は再びメオウさんと一対一になったッス。


「はーははは! さすがだな、あの距離で全ての翼を払いのけるとは」


「……」


 笑うメオウさんをじっと見つめる私。


 なんか遊ばれている気がして、正直、面白くないッスけど。


「いったい、あなたの目的は何なんッスか?」


「うむ?」


「人に翼魔さんをとり憑かせてその心を支配しようなんて、世界征服でも考えているんッスか?」


 私は苛立ちをにじませながら言ったんッスが、メオウさん、よくぞ聞いてくれたみたいな顔になったッス。


「俺様はな、国をつくろうと考えている」


「国?」


「そうだ。俺様が頂点に立ち、翼魔で精神を制御した善人だけの国。娯楽だけを追求すればいい国。そんな国をつくろうとしているのだ。素晴らしいだろう!」


「……」


 すんごい自慢気に言ってるッスが、分かってるんッスかね。


「それってつまり、支配じゃないッスか」


「なに?」


「だってそうでしょう? 翼魔さんで精神を制御ってことは、その人の意思や感情を力ずくで制御するってこと。従順あればいいって、単なる王様気取りじゃないッスか」


「確かにな。だが、それのどこが悪い? 俺様を慕う国民が笑顔で毎日を暮らすのに外部が何を言おうと関係なかろう。生きていいればいつか死ぬ。ならば、短くとも楽しく生きた方がいいに決まっている。いちいち聞くまでもない」


「価値観の押しつけッスね」


「構わんだろう? 例えば、人を殴るなと言われても正論だから文句が出ないのと一緒だ」」


「なるほど。あなたには何を行ってもダメなんッスね」


「もとより俺様は正しいことしか言っていないがな。まあいい。とにかく、俺様はこのまま国づくりをするし、お前のことは気に入った。日をあらためて迎えることにしよう。俺様もこれで忙しいからな。ここは廃棄するゆえ、お前も早々に立ち去るがいい。さらばだ」


 そう言うとメオウさん、さっさと姿を消したッスね。


 おびき出したのは私ッスが、言いたい放題にやりたい放題して帰っていったかんじッス。


あや


 おっと。


 華彩カーヤに声をかけられ、私は鍵神かぎしんの力を使って元の世界へ移動したッス。


 楽園ここを廃棄するって言ってたッスからね。


 巻き込まれたらやばいッス。


 ──と。


 夜の女子校ッスね。


 当然、学校の皆さんは帰宅して誰もいないし、暗くはなっているんッスが、月あかりがいい感じに照らしてくれているッス。


 いちおうミッション終了なんッスが、その敵ボスであるメオウさんが出てきたッスね。


 自分の正義に酔いしれ、信じて疑わない、そんな人だったッス。


 おそらく私と同じ覚醒者ッスが、能力ではなく覚醒したんだと思うッス。


 その力を使って自分が理想と思う国づくりをするってことのようッスが、それはあくまでメオウさん個人の考えであって、賛同されているものではないッス。


 相手のことを全く考慮していない強制。


 逆の立場なら断固反対して抵抗するでしょうに。


 いずれ、このまま活動を続けるのであれば『敵』として戦うことになるッス。


 そのときはきっちり決着をつけるッスよ。

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