2、勇者の証



「魔王様、勇者が攻めて参りました」


 物々しい翼の生えたガーゴイルが、魔王の座る玉座の前で跪きながら報告した。


「‥‥今度の勇者はどんな奴だ?」


 気だるそうに玉座で頬杖をついている魔王。


「Lv8の勇者マルチナです」


「‥‥‥レベルがそのままではないか。何故だ、宿屋は繁盛してないのか?」


「カークス村はダンジョンのお陰で賑わっております」


「では何故だ!?」


「‥‥‥わかりませぬ」


 扉の前に人の気配、勇者マルチナであろう。


「入れてやれ」


 魔王の言葉にガーゴイルは扉を開けた。

 勇者マルチナは颯爽と現れた。


「魔王、覚悟!」


「‥‥勇者マルチナよ、何故だ。何故レベルが上がらんのだ?」


「宿屋が忙しすぎて、外にも出られん!何であんなところにダンジョンが出来たんだ!」


 勇者マルチナは宿屋の看板娘として、宿屋には欠かせない存在になっていた。

 勇者マルチナ目当ての冒険者も多い。


「‥‥儲かってるんだ人を雇え」


「‥‥そうか、その手があったか」


 勇者マルチナは絶望的な程、経営に向いていない。


「後、いい加減パーティーメンバーも雇え」


「うるさい!わかっている!」


「次に期待しておるぞ‥‥‥今日も戦うのか?」


「当たり前だ!」


「よく来たな勇者マルチナ、二度と歯向かえぬよう、其方にこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


「魔王、覚悟!」


 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。





「捨てて」


「はっ!」


 ガーゴイルは慣れた手つきで勇者マルチナの亡骸を抱え上げた。







「魔王様!勇者が攻めて参りました」


 物々しい翼の生えたガーゴイルが、魔王の座る玉座の前で嬉々として報告した。


「‥‥どうした?今日の勇者は誰だ」


 玉座から身を乗り出す魔王。


「Lv25の勇者マルチナ率いる3人パーティです!」


「おお、成長したではないか。遂にパーティーメンバーも見つけたようだな。‥‥して残り二人の職業は何だ?」


「資料によりますと‥‥‥あれ?‥‥え?‥村娘Lv5と村娘Lv3です」


「‥‥何それ?」


 ギギギギギッ!


 魔王の間の扉が開く。


「やだ、あれが魔王?」


「‥‥怖い」


「レナ、メリル行くよ!」


 勇者マルチナのパーティーが颯爽と現れた。


「魔王、覚悟!」


「‥‥‥まあ、待て。勇者マルチナよパーティーは揃えたようだが、職業が村娘は不味いであろう‥‥」


「うるさい!知らない人を入れるより、幼馴染の彼女達と私は魔王を倒したい!」


 勇者マルチナは剣を構えた。

 レナとメリルも竹槍を構えこちらを睨む。


「‥‥‥神殿に行けば転職出来るであろう」


「‥‥そうなのか?」

 

 キョトンと勇者マルチナ。


「やった、私達も村娘じゃなくなるのね!」


「これで竹槍じゃなくて剣が装備出来るわ」


 はしゃぐ娘達。


「‥‥転職するなら、僧侶と戦士がお勧めだ」


「魔王の言葉など信じるものか!」


「僧侶がいないと、4ターン目の余のブレス攻撃を弱体できぬぞ。後は戦士と勇者で攻撃して、僧侶がサポートするのが一番安定する」


「‥‥‥なるほど」


「次の対戦楽しみにしておるぞ‥‥‥今日もやるのか?」


「無論だ!」


 剣と竹槍が此方を向いた。


「よく来たな勇者マルチナと仲間達よ。二度と歯向かえぬよう、其方らにこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


「魔王、覚悟!」


 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。





「3人に増えたな、捨てて来て」


「‥‥私だけでは無理ですな」


 ガーゴイルは嬉しそうに数名の部下を呼び、勇者達の亡骸を抱えて部屋の外へ出て行った。






「魔王様!勇者が攻めて参りました」


 ガーゴイルは魔王の座る玉座の前で、ニヤニヤしながら報告した。


「‥‥勇者マルチナであろう」


 玉座で頬杖をついている魔王。


「Lv36の勇者マルチナ率いる4人パーティです!」


「レベルもカッコがついて来たな、加入したメンバーはどんな奴だ」


「えっと‥‥Lv7の吟遊詩人です」


「吟遊詩人か‥‥また使いにくいキャラを」


 ギギギギギッ!


「え、あれが魔王?俺やだよ、魔王と戦うなんて。マルチナちゃん勇者じゃん、サクッと俺の為にやっつけて来ちゃってよ」


「任せて!私ダリル君の為に頑張るね!」


 勇者マルチナのパーティーが颯爽と現れた。


「魔王、覚悟!」


「‥‥‥大丈夫なのか、そいつは?」


 魔王は吟遊詩人ダリルを指差し呟いた。


「ダリル君の良さを貴方はわかって無い!」


「‥‥‥わからん、何故レベル7の吟遊詩人なのだ」


「ダリル君は凄く優しい!私を大事にしてくれるんだ!」


「いや、そういうのじゃなくてだな」


「魔王を倒して無事に帰れたら、結婚をする約束もした!」


 勇者マルチナの綺麗な死亡フラグ。


「‥‥そんな約束したっけ?なんかマルチナちゃん重いわぁ。魔王とかも面倒くさいし、俺もう帰るわ」


 颯爽と立ち去る吟遊詩人ダリル。


「待って、ダリル君!」


 追いかけて部屋を去る勇者マルチナ。

 残されたレナとメリルは礼儀正しくお辞儀して出て行った。


「‥‥‥なんだ‥‥‥今日は戦わんのか」


 ポツンと玉座に座る魔王。






「魔王様‥‥勇者が攻めて参ったのですが‥‥」


 ガーゴイルが、魔王の玉座の前で言いにくそうに視線をそらした。


「勇者マルチナが久方ぶりに来たのか?」


 頬杖をやめる魔王。


「Lv36の勇者マルチナ率いる3人パーティです」


「‥‥レベルはそのままでメンバーが一人減ったな」


「‥‥そうですな」


 トントン!


「‥‥入れ」


 勇者マルチナのパーティーが現れた。


「あの吟遊詩人はどうした?」


「‥‥パーティーを辞めた」


「それが良い、パーティーはバランスが大事だ。あのような他力本願な奴はパーティーにはいらぬ」


 魔王は大きく頷いた。


「貴方に何がわかるって言うの!ダリル君は私にとって大切な‥‥‥」


 勇者マルチナは目に涙を溜めて逃げ出した。


「マルチナはダリルが初めての人だった。あんな言い方は酷い、もっと優しい言葉をかけれないの?」


 戦士レナは後を追った。


「見損ないました、私も失礼します」


 後に続く頬を膨らませた僧侶メリル。


「‥‥‥奴らは何しに来たのだ?」


「魔王様、人間には色々あるのでございます」


 




「魔王様‥‥戦士レナと僧侶メリルが攻めて参りました」


 ガーゴイルはバツが悪そうに玉座の前で跪いた。


「勇者マルチナはどうしたのだ?」


 魔王は驚いた顔。


「‥‥‥‥わかりませぬ」


 トントン!


「入れ」


 戦士レナと僧侶メリルがお辞儀しながら現れた。


「勇者マルチナはどうした?」


 玉座で頬杖をつきながら魔王。


「マルチナはあれから、宿屋の一室に篭って出てこないわ‥‥」


 戦士レナは辛そうに答えた。


「‥‥何故だ?余がどんなに絶望を与えても諦めなかったあやつがか?」


 田舎の生娘が都会のイケメンに騙される、典型的なパターン。


「‥‥‥マルチナはダリルの事が忘れられないのです。‥‥もう貴方しか頼れる人がいません、助けてください‥‥」


 僧侶メリルは今にも泣きそうな顔。


「‥‥‥‥これを持って行け」


『勇者の証』勇者専用指輪。どんな状況に追い込まれても、勇気を失う事はない。装備する者は全ステータスが2倍。


「ありがとうございます‥‥」


 僧侶レナは泣きながら深くお辞儀をする。


「待ってて、必ず連れ戻すわ」


 戦士レナと僧侶メリルは走り去った。


「‥‥‥魔王様‥‥『勇者の証』は魔王様が倒された時にドロップする、討伐特典のチートアイテムですが‥‥」


 走り去る2人を見つめながら呆然とガーゴイル。


「最近他の勇者も来ないし、良いではないか」


 微笑みながら頬杖の魔王と沈黙のガーゴイル。






「魔王様、勇者が攻めて参りました!」


 物々しい翼の生えたガーゴイルが、魔王の座る玉座の前で跪きながら報告した。


「‥‥来たか」


 玉座で頬杖をついている魔王。


「Lv52の勇者マルチナ率いる3人パーティです」


「パーティーは1人足りぬが、レベルはかなり上がったようだな」


 魔王は嬉しそうに笑みを作る。

 今度の勇者は手応えがありそうだ。


ギギギギギッ!


「よく来たな勇者マルチナと仲間達よ。二度と歯向かえぬよう、其方らにこの世の物とは思えぬ絶望を味合わせてくれるわ」


「魔王、覚悟!」


 2人の顔には笑みが溢れていた。




 勇者と魔王の壮絶な戦いが今始まる。

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