第6話 相互理解(ヌイトゥーラ視点)
「なんであんなもの作ったんだ……?」
珍しく考え込んでいる様子のバルセロンダに、ヌイトゥーラは内心では首を傾げた。
朝早くからやってきた幼馴染みの兄貴分は、傍若無人ではあるものの、ラナウィが言うほど常識がないわけではない。
人様のお宅にやってくるのに、しかも高位貴族の家にやってくるというのに、さすがに時間を選ぶほどには。けれど実際にはヌイトゥーラは朝からたたき起こされた形になったので、まだ目がしょぼくれている。
そのうえ、頭もすっきりしない。
ハウテンスとは違い超がつくほど優秀ではないので、彼が何を言いたいのかもどこかぼんやりとした思考で受け止める。
あんなもの作った……?
昨日の今日ではあるので、ヌイトゥーラが作ったもので心当たりがあることは一つだけだ。
昨日の結婚式前にラナウィに渡した魔法薬のことだろう。
誰にも秘密だと彼女は話していたから、本人に打ち明けているとは思わなかったけれど。いや、そういう作用があるものだから、仕方ないのかもしれないと考えなおした。
「ああ、そうだね。頼まれたから……?」
「頼まれた?」
「ラーナがどうしても作ってほしいって」
「お前はそれで本当によかったのか……?」
「え、どういうこと。だってラーナの幸せを考えたら仕方ないかなって……まあ、あんまり褒められたことじゃないとは思うけど」
「幸せ……お前たちの覚悟は異常だ……」
なぜか死刑宣告を受けたような顔をして、バルセロンダは黙り込んだ。
覚悟だなんて大層なことをしたわけではないというのに、そのうえ異常とまで言われるなんて尚更にわからない。
そもそも幸せの絶頂にいるべき男の顔ではないことに気が付いて、思わず問いかけていた。
「ねえ、どうしたのさ。うまくいったんじゃないの? ラーナは薬を使ったんでしょう」
瞬きを繰り返してヌイトゥーラは十ほど年上の青年を見つめた。そんな時、ソファに項垂れるように座っていたバルセロンダは勢いよく立ち上がった。そして、テーブルをはさんで、ヌイトゥーラの薄い肩を両の手のひらでがしりと掴んだ。
「よし、わかった。一発なぐらせろ」
「え、なんで!?」
何をバルセロンダがわかったのか全く理解できない。
相互理解なんて得られていないのに、彼は勝手に納得している。
説明って重要じゃないかなとヌイトゥーラは思う。
大人はとにかく説明を省きたがるけれど、だから人間関係がこじれるんだ!
とにかく彼の馬鹿力で殴られたら、いくらヌイトゥーラといえどもひとたまりもない。
魔法障壁をいくら張ったところで、彼の物理的攻撃力のほうが高い。防御力を最高度にあげたところで、痛いのは変わらないだろう。骨が折れるかもしれない。
昔、単純な攻撃力で言えば魔法と剣のどちらが強いかみたいな話をしたことがある。確かそれはハウテンスとだったと思うけれど、バルセロンダほどの剣舞の才があれば魔法よりも攻撃力を上回るかもしれないと推測していた。
そんな彼の拳はよく切れる剣よりも危険だ。
というか、好きな女の子の願いを涙を呑んで叶えてあげたというのに、そのうえ痛いを想いをしなければならないのは理不尽ではないだろうか。
ヌイトゥーラは憮然とした。
「絶対やだよ!」
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