第15話
一難去ってまた一難とはまさにこのこと。
仮面を外し、そこから現れた顔はだいたい一週間前から出張に行ったはずの俺の父――嘉神凰心の顔だった。
「なんで……父さんがここに……」
「これが、俺の本当の仕事だからだよ。まあここでの名前……もとい
「実の父がコスプレをしているとは……」
「おい零紫、シリアスな雰囲気をぶち壊すな。そしてお前も前世の記憶あるとか中二病じゃねぇか」
「……父さんは気にしないの? 実の息子に前世の記憶あっても」
「気にしないな。お前が俺の愛する息子であることには変わらないから」
「流石父さん」
このやり取り……本物の父さんだ。驚きすぎて逆に冷静になってきた。
「ああ、どっかで見たことあると思ったらあの時のチンチクリンだったのね」
「人間って成長するの早いねぇ」
「やはり蛙の子は蛙か。家族揃って裁判を受けるとはのう。ガッハッハ!」
父さんも過去に裁判を受けたことがあるのか? って言うかこの人たちと俺ってあったことあるの!?
「……話を戻そう。零紫、お前をこの組織に所属させるわけにはいかない」
「俺は本気だよ。……初めて父さんに反抗させてもらうよ」
「そっちが本気なら、こっちも相応の理由を説明しよう」
父さんはそういうと俺に近づき、黒い木刀を俺に渡してきた。俺が握ると同時に、木刀は黒に紫の模様が入った近未来っぽい剣へと姿を変えた。
なんだかこれ……不思議な感じがする。懐かしいような、暖かいような。
「ははっ……当たり前のようにアイツが使ってた形になったな」
「父さん、これは?」
「それは『
「母さんの……?」
だって俺の母さん――嘉神
「俺はな、
「か、母さんも……!?」
「それでな、零紫と同じ
突然の独白に驚かざるを得なかった。だがその話が本当なら、なんで隊長と呼ばれていた母さんの眼が邪眼と呼ばれているんだ?
母さんが何かやらかしたのか……? まあ、あの母さんならやりかねないな。
俺の疑問を汲み取ったかのように、父さんは理由を説明して行く。
「紫保は
「眼のことはわかったけど、なんでこれが母さんなんだよ……」
「あいつはもう片方の宝珠眼を取られる前に、それの形を剣に変えてもらったんだ。全部の力を込めたから紫保は力尽きたから、実質それは紫保みたいなものだよ」
ちょっと前の俺だったら信じなかっただろう。けど、この剣から伝わるあの懐かしい温もりと、特殊な世界は俺に無理やり理解させた。
『泣くな零紫。泣く暇あったら強くなる努力をしろ!!』
(ああ、懐かしい記憶だな……)
あの尖ったつり眼、後ろで結んだ紫髪にニヤッと笑うあの母親の姿が脳裏に浮かぶ。
「俺は零紫まで失いたくない……。もうあんな光景は二度と見たくないんだ」
「父さん……」
父さんの愛情がよく伝わってくるよ。
確かに、前世の記憶を取り戻したとしても、伊集院さんがどれだけ大切でも、記憶を全部改竄してしまえばのうのうと生きることができるだろう。
やめていい理由なんて山ほど見つかるよ。
だけど違うんだ。
記憶が消せても、心の中から伊集院さんが消えるわけがない!
だから父さんは今、残酷なことをしようとしているんだ。今諦めて、永遠に謎の心の苦しみに耐えながら生きろと言っているようなものだから。
だから俺は――。
「でも、諦めないよ。俺は絶対に曲げない」
父さんを睨みながらそう言う。
「はぁ……。その諦めの悪さも、アイツそっくりだ……」
深いため息をこぼし、手で顔を抑える父さん。すると、黙っていたトップが何かを閃いたかのような表情になり、次のような提案をしてきた。
「それじゃあ、〝試験をする〟なんてどうだろう?」
「「試験?」」
「うん。ゼノくんや他の隊長が零紫くんに試験を与える。それをクリアできて尚且つ、アンケートで『加わってもいい』と言う回答が半数を超えていたら本格的に所属みたいな感じ。……こうでもしないと君たちはどっちも譲らなそうだからね」
呆れ気味にそう言うトップ。俺たちの家族は全員諦めが悪いのだ。
「じゃあ今丁度ある魔術軍と異能軍の合同捜査のやつ渡そうかしら」
「あ、それいいね! そうするよ!!」
「儂は、二つほど任務を渡すことにしよう。ゼノ、お主も任務を渡すのか?」
自称年配小学生が父さんにそう問いかけた。
なるべく簡単な任務にしてくれ、父さん。
「俺からの試験は――〝今ここで俺と戦い、俺から血を出させてみろ〟と言う試験にするよ」
「血を?」
正直……簡単じゃないか? 剣とかを使ってもいいならば、肌をちょっと切れば血は垂れるだろうし。
「零紫、お前は今簡単だと思ったな?」
「まあ……」
「これを見てからも、同じことを思えるか?」
父さんは腰の刀を鞘から抜いたと思うと、自分の腕にゆっくりと突き刺した。
「なっ!?」
その奇行にも驚いたのだが、さらに驚く羽目になった。一滴も血が出てこないのだ。
「俺、実は人間やめてるんだ」
「突然の人間逸脱宣言やめてくれ、父さん」
「だから再生能力とか半端じゃないし、身体能力もやばい。あと異能力とか魔術使えないけど炎とか雷出せて、磁力とか操れる。細胞を変化させて鱗とか羽毛も出せる」
「究極生命体じゃん」
だからこんな化け物みたいな雰囲気がさっきからずっとしているのか。逆になぜ普段の日常生活で俺は気づかなかったのだろうか。
「因みに言うと、組織のトップである私と同じくらい強いから、気をつけてね?」
「えぇ……」
……まあ、どれだけ強敵でも、俺は諦めないつもりだからな。
「ああわかったよ、やってやるよ……!」
「それじゃあ、その手首のを外すよ」
パチンっとトップが指パッチンをすると、俺の手首についている金色のリングは消えて無くなった。
「じゃあ零紫、その剣を鞘から抜いたらスタートとするぞ」
「ああ、わかった」
腰を低くし、剣の柄を握って抜こうとする。
「……ッ!?」
――抜けない。
抜けなかった。剣と鞘がくっついているというわけじゃない。目の前にいる父さんから人間とは思えないほどの殺気がこちらまで伝わってきて、恐怖で抜けなかったのだ。
敵対したら殺される。本能がそう言っていた。体が小刻みに震え始め、冷や汗が止まらなくなる。
「どうした零紫。俺はこのままお前が辞退してくれてもいいんだぜ……?」
――辞退するだと?
するわけないだろそんなこと。俺が恐れているのは父さんなんかじゃない! 伊集院さんを失うことだ!!
「ふー…………」
眼を閉じて息を整える。そして眼を見開くと同時に、鞘から剣を引き抜いて横に振るうと、水飛沫が舞う。
剣身は真っ黒だが、真ん中に紫色の線が入って光っていた。
「父さん、最初の
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