第12話
……あり得ない。
私の異能力、【ダートゥム・ノン・グラータ】は対象の相手に傷をつけ、その場所に黒い模様を発生させることで、相手から食らった攻撃を一度だけ使える能力。
能力の一つの技である【冤染】は、過去に受けた攻撃を体に蓄え、その攻撃を相手に与えることができる能力。
……のはずだった。
なのに、私の能力が無効化された! しかも己の肉体に〝呪い〟としてかけたものを解いて完全体となったの私の拳を悉く崩壊させたッ!
「…………」
一歩、人間が足を上げて地面につけた途端に地面に亀裂が走り、轟音とともに建物も崩れ始める。
『ど、どうなっているのですッ!? 一体これは――なっ!?』
人間がぐっと足に力を込める動作をしたと同時に目の前に来ていた。
ひび割れた顔に腕。その隙間から漏れ出る光と靄で更に恐ろしさが強調されている。
――〝悪鬼羅刹〟。
こいつは……人間じゃない!!
『グッ……はっ、速いッ!!』
目にも見えないスピードで拳を叩き込んでくる。
腹にポッカリと穴が空き、後ろに吹き飛ばされた。あたりは暴風に包まれ、瓦礫が舞い上がる。
『嘉神零紫……貴様ァァ!!』
崩壊させられていない方の手から、ドス黒い影のようなものを伸ばす。これは即死の技だ。使うのはもったいないが、致し方ない。
「……もっとだ。もっと〝溢れろ〟!」
『ッ……な、なんだと!?』
隙間から漏れ出る紫色の靄の量が増え、私の攻撃はそれに触れた途端バラバラと崩れ落ちる。
そして、私を嘲笑うように見上げる嘉神零紫の姿が目の前にあった。
『貴様などにィィィ!!』
瞬時に腕を三本生やし、四本の腕で高速のラッシュを放つ。コイツは身動き一つ取らなかったので手応えしかなかった。
だが、途中でラッシュができなくなった。
腕が消えていたのだ。
「おいおい……腕なかったら、ラッシュなんかできないだろ?」
ニタァっと狂気の笑みを浮かべていた。
(くっ……これはプライド云々、私の命が危ない! 逃げなければ確実に殺される!!)
後ろへぴょんとと飛距離をとる。そして、黒い風が集まりだした。
これは悪魔の中でも上位の悪魔しか使えない転移技だ。これは空間に干渉していており、並大抵のことじゃ突破できない。
「【
『――…………は?』
どういう事だ……。風がなくなり、距離を話していたはずの人間が目の前にいる! 瞬間移動? いや、私の位置が変わっている!?
こいつ……本当に何なんだ!? とにかく逃げなければ!
焦燥に駆られてまともな判断ができない中、翼を広げて空へと飛翔する。
「馬鹿だな」
(私の飛翔速度は新幹線をも上回る! このスピードには流石についてこれな――)
『ついてこれないだろう』と思った矢先、目の前に紫の雷を帯びた人間の姿があった。いいや、もう化け物だ。こんなの人間と呼ぶ方がおかしい。
「フッ!!」
何も見えなかった。何も見えず、私は元の地面へと叩きつけられていた。紫の雷が私の体にまとわりつき、身動きが取れなくなっている。
そんな私を、空中から見下ろす化け物がいた。
『きっ……貴様なぜ急に空が飛べるようになっているのですッ! 貴様は……貴様は何者なんですッ!!』
「そんなのどうでもいいだろうが……。 今から消えて無くなるお前に答えても無駄だろうが」
ガリッと自分の人差し指を噛み切り、そこから魔法陣を展開する化け物。膨大な何かが人差し指に集まりだしていることに気がついた。
わからない。わからないけれどあれはヤバい。本能がそう言っているのだ。
「終わりにしてやるよ」
人差し指から滴り落ちる血は紫色に輝いていた。それが落ちると、地面に同じ紫色の魔法陣が周囲一帯に広がる。
『ま、待ってくれ! 私はまだ死ねないのです! 頼む! どうか――』
「お前に対する慈悲なんか微塵も無い。塵すら残さず消えて無くなれ。
塵芥を見るようにな眼で見下しながら、指をパチンっと鳴らすと、光に包まれる。
轟音すら聞こえなかった。意識も一瞬で無くなる。
ああ……私は、死んだ――。
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俺が指をパチンっと鳴らすと、一瞬、辺りが紫の閃光に包まれる。そして耳を穿つような爆音で、倉庫なんか跡形もなく真っ平らになった地面だけが残った。
悪魔は消滅した。
地面に降りると、俺は地面に手をつき、口から血を吐いた。もう抑えが効かない。限界だったんだ。
「ぐっ……ヴヴゥゥ!!」
内側で膨大な力がの外へ出ようとのたうちまわっている。俺の隙間からは靄や光、紫電が洪水のように溢れ出している。
(引っ込め引っ込め引っ込め! こんなところで暴れてたまるか! 悪魔を倒したから呪いは無くなって、伊集院さんを助けられるんだ。だからこんなとこで終われない! こんなところで――)
ヒビが更に増え、もうダメかと思ったその時、首にかけてあったあのクリスタルが眼に入る。
「あ……ぁ……」
瞬間、クリスタルが輝き出し、俺から漏れ出る物全てを吸い尽くし、ヒビも一つ残さずなくなった。その代わり、クリスタルは紫色に変色した後粉々になった。
俺は安堵し、そのまま深い眠りについた。
###
――秘密組織
その場は騒然としていた。
「今、何と言った……!?」
「で、出たんです! あの
「何ィ――ッ!? ひ、被害はどの程度だ、県一つ潰れてしまったか!?」
「まだ大丈夫です! 被害はすでに使われなくなった湾岸倉庫のみだそうです! 名は嘉神零紫だそうです!」
「よ、よし……わかっているだろうが、そこへ向かう全軍にこう伝えるのだ」
椅子に座るヒゲを蓄えた男が真剣な眼差しでこう言う。
「その男は、『直ぐに殺せ』と……!」
「了解致しました。直ぐに連絡を――」
『その必要は無いよ。いつもご苦労様』
騒然としていた室内は、その声を聞くや否や、刹那の内に静寂に包まれる。
声の主は何処にもおらず、脳内に響き渡っていた。
「す、すみません……この声は一体なんなのでしょうか……」
ボソッとヒゲを蓄えた男にそう質問する人がいる。
「バッッカ者! このお方は我ら秘密組織
それを聞いた途端、質問をした人はガタガタと震えだす。
『突然ですまない。姿や声を聞かせたことがないから、知らなくても仕方がないね。大丈夫だよ。私も急いでいるからこれで失礼するよ。今度ゆっくり話しの場でも設けようかな』
その声はそこから聞こえなくなった。
声だけだったのだが、圧倒的な威厳さやカリスマ性などが感じられた一瞬だった。
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「……零紫、会うのは久しいね」
一面白と青の世界。地に広がる青い湖の上に空が反射し、幻想的な世界にある一つのベンチに座る者。真っ白なローブを着てフードを被り、その隙間から見える黄金に煌めく瞳。
そう、これこそがイデアだ。
「今からここに来てもらうけど、私のことは……そうか、記憶を消してしまったから覚えていない、か……」
落胆した声を漏らす。
「さて、私は君を認めているけど、あの四人は認めてくれるかな……。うっかり死刑になったら大変だ」
彼――嘉神零紫の命運は、イデアと、とある四人に託された。
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