第6話

 授業後の休憩時間になると毎度毎度友人がからかいにやってくる。

 鬱陶しいうえに恥ずかしいのもある。それに凛は朝言われたことを相変わらず教えてくれなかった。


「なぁなぁ、お前さどうやってあの世凪さんと付き合ったんだ?」


「いや、付き合ってないって……」


「あんなの付き合っているとそんなかわらねぇよ」


 友人達はしきりに女子との付き合い方を聞きたがった。

 しかし俺のパターンは参考になるどころかドン引きされかねないので教えるのが嫌だった。

 でも彼らはお構いなし。俺の隠し事を暴こうとしてくる。

 それも授業まで耐えてしまったらなんということはない。とにかく口を閉ざして逃げ回っていた。


「はー終わった終わった……」


 そうこうしているうちに授業は全て終了。ショートホームルームも終わり、あとは帰るだけとなっていた。


「ねぇ! 飴井くん!」


 今度は女子の団体様が俺の方に来た。危険だから速攻で帰ろうと思っていたのに、それ以上の速さで取り囲まれてしまう。


「飴井くんさ、世凪さんとどういう経緯いきさつで付き合ったの?」


「前までそんなに仲良くなかったよね!?」


 男子達以上の質問攻め。寧ろ女子というのが余計にタチが悪い。

 無視して逃げると流石に印象が悪くなりすぎるし、かと言って答えられるものでもなかった。

 男友達の方が、やはり話しやすいうえになんというかあっさりしているので、誤魔化しやすいのを実感した。


「ねぇ、実際どうなの?」


「え?」


「どこまで関係進んでるの……? めっちゃ気になるんだけど」


 その質問を皮切りに、少女達の質問はどんどん過熱していく。


「ねぇキスは!?」


「え、ふつうのキスだけじゃなくてディープなやつもやってるんじゃないの?」


「もしかしてヤった……?」


 これではいやりましたって言うのは流石にまずかろう。というか俺だけではなくて、凛にまで影響が及ぶ。


「いや、まぁ……そこまではちょっと……」


 しどろもどろになりながら彼女達の相手をしていると、凛が近づいてくるのが見えた。


「ごめん、通して」


 下校の準備を終えたようで、カバンを持っている。

 凛の一声で女子達の集まりは静かに道を開ける。

 まるでモーセの十戒のあのシーンのようだ。いや教科書の写真でしか見たことないけど。


「早く帰ろ?」


 彼女は俺の腕を掴むと、女子達から引き離すように俺を引っ張っていく。

 女子達はぼうぜんとその光景を見ていて、俺たちが教室を出る寸前に黄色い歓声をあげる。

 なんというか凛に救われた。


「すまん、ありがとう」


 俺が感謝を述べても凛は振り返らずにどんどん進んでいく。


「別に変な勘違いさせたくなかっただけだから、いいよ。それに……」


 彼女の顔は見えていないが、耳が若干赤くなっている気がする。


「あれ以上この関係が変な言い方されるのも嫌だし」


「え?」


 俺がきょとんとしていると彼女は苛立たしげに、


「朝のさ、のぞみが私に耳打ちしたやつ!」


「あ、ああ……あれか……で、何て言われたんだ?」


 その言葉に彼女は反応したようで、肩を細かく震わせている。


「なんで、言わせようとするの?」


「いや、だって……言ってもらわないと分からないじゃないか……」


 彼女が振り向いて、顔が見える。

 頬はあかに染まっており、耳までその色だ。


「恥ずかしいから言えないってのに……」


 恥ずかしさを隠しているせいで弱い声だった。


「それは……ごめん……でも教えて欲しいんだけど……」


「……ふれって」


 彼女があまりにもボソボソ言うものだから聞き取れない。

 少しの沈黙が場を支配する。


「ご、ごめん。もう一回言って……?」


「なんで聞き取れないかな……」


「ごめん……」


 彼女は一つため息をつくと今度はしっかりとした声。


「セフレじゃない?って言われた」


「え、セフ……レ……?」


「そ、セフレ」


 もうすでに吹っ切れたような様子の彼女。しかし、俺の頭は驚きと反論のできなさで混乱していた。


「たしかに……はたから見たら………そう……なの……か……?」


「みたいね」


「これは……ごめん……」


 彼女は空を見上げる。しかしまだ太陽は登っているので眩しかったのか手をかざす。


「いいよ別に。本当の原因は私だし」


 目が慣れてきたのか、凛は手を下ろした。


「はぁ……あの時死ねば、これもなかったのかな……」


「ごめん……」


 死にたいと言う願望を呟いているのだと思って僕は謝る。

 しかし、彼女は一瞬驚いた表情を見せ、次の瞬間には笑っていた。


「いや、ふふっ……違くてさ。なんかちょっと楽しくて」


「え……?」


「今までこんなことなくて、なんか新鮮。ありがと」


 彼女からの感謝の言葉が身に染みる。


「ま、まぁ責任は果たすから……さ……」


「楽しみにしてる」


 凛はそう言うと俺の方に近づいてきた。


「今週末もどうせ親いないからさ……」


 ゆっくりと抱きつかれる。潮汐さんには負けるものの、大きな胸が俺に押し付けられる。

 前の素肌で抱きつかれるのとは違って、彼女の胸は今回少し硬く、ゴワゴワした。

 

「また、うちに来てよ」


 彼女の言葉と吐息が徐々に俺の理性をダメにしている気がした。


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