ノスタルジックメモリーズ

リョウ

【たぬきと麺と天ぷらと】

『ただいまー。』って誰もいないか。


ボクの家は片親で、学校から帰っても母さんが働きに出ていたら家には誰もいない。


晩御飯を作ってもらったのはいつが最後で何を食べたのか記憶の隅っこから引き出そうにも引き出せない。


ボクの中学校の昼食は弁当だが母さんに作ってもらった事はほとんどなく、いつも机の上に1000円札1枚が置かれていた。

昼食は近くの席で班を組んで机を寄せ合いながら食べる。

この時が惨めで本当に学校でご飯を食べるのが嫌だった

皆は温かみのある手作り弁当なのに、自分だけ毎日学校で注文するパン食だった。


「あいつのところ弁当作ってもらえねぇんじゃねぇの。」


「片親はかわいそうだね。」とか思われていそうで、弁当の時間になるとお腹が痛いふりをしてトイレで食べたこともあった。


晩御飯も残りのお金で賄わなくてはいけなかった。


余ったお金で学校の帰りに緑のたぬきの天そばを買って帰る。

そして帰宅してすぐに白米を炊く。炊ける間に洗濯機を回して風呂に入る。

そうしている間に米が炊ける。ジャーを開けると湯気が顔を包み込む。しゃもじで米を切るときのツヤツヤな米を見ると口の中に唾がたまる。

7~8分蒸らしている間に薬缶でお湯を沸かし、その間に洗濯を干す。

蒸らし終わればおにぎりを作る。ゴマ塩で1つとゆかりで1つ。

そのおにぎりを熱湯を注いだ緑のたぬきのフチの上に「ポンッポンッ」とのせて蓋をする。これで準備は万端。


キッチンタイマーを2分30秒に合わせて、蓋を開ける。そのあと麺をほぐして、1口麺をすすっていく。少し硬めから柔らかくなっていくのがこれまた良い。

1口食べれば大好きな天ぷらを入れる。この「サクッサクッ」がたまらない。そしておにぎりを頬張り口の中の水分が奪われたところにスープを流し込む。これがまた美味。五臓六腑に染みわたる。


あれから20年。

僕も親になり、母がどれだけ大変な思いをしていたか本当に身に染みて感じている。

あの時惨めに思っていた気持ちは母への感謝へ変わった。


―今年も実家に帰ったら緑のたぬきで年越しだろうな。―完

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