好きな幼馴染に日記を誤送信してしまったんだが、次の日彼女がニコニコな件

久野真一

好きな幼馴染に日記を誤送信してしまったんだが、次の日彼女がニコニコな件

 そろそろ肌寒くなってきた晩秋の夜。

 いつものように日記アプリを開いて、文字を淡々と打ち込む。

 もうすっかり習慣と化している。


◇◇◇◇


 11月18日(木)。

 今日もいつものように授業があって、放課後はさやちゃんとお散歩をして過ごした。


 しかし、振り返って思う。最近の放課後は当然のようにさやちゃんと一緒に遊んでいるけど、彼女はどういう気持ちなんだろうか?彼女との付き合いも小3からだから、かれこれ8年。今年になってからやけに接近してくるけど考えすぎだろうか?もし、さやちゃんが俺の事を好きでいてくれたらと思わず考えてしまう。


 これは痛々しい妄想か。友人として好意的なのは間違いないけど自意識過剰って奴だ。でも、さやちゃんは美人だし昔からの付き合いからで性格の良さもわかってるから色々悩んでしまう。一言で言えばさやちゃんの事が大好きだ。それに、クラスメイトで彼女がいる奴を見ると正直羨ましくなるし、恋人になれればさやちゃんともっと色々出来そうだ。一緒に天体観測楽しそうだ。


 一かバチか、俺から距離を縮めるためのアクションを起こしてみようか。明日は皆既月食だ。お互い天文関係の事が好きだし、一緒にお月見のお誘いもありかもしれない。お互いの家に遊びに行ったりもするし、不自然なお誘いでもないだろう。


 でも断られたら凹みそうだ。そもそも「今日は皆既月食だろ。お月見でもしないか?」となにげなく誘うのか。「今日は皆既月食だろ。お月見デートとかどうだ?」とデートを強調して誘うのか。明日、さやちゃんと登校する時の雰囲気しだいだけど……今から色々不安になってきた。


 それに「じゃあ、一緒にお月見しようか」となった時にはどういう雰囲気で一緒に過ごせばいいんだ。自宅のベランダで一緒にお月見をするつもりだけど、夜中に同じ場所で過ごすのは久しぶりだ。色々シミュレーションしておかないと。


 あとは出たとこ勝負。


◇◇◇◇


「日記終わり。寝よう」


 毎日の習慣となった日記を打ち込んで送信。毎日の出来事やその日思ったことを日記アプリに書くのが中1以来の俺の習慣だ。母さんに勧められて始めたものなのだけど、悩みを言葉にして書き留めておくことで少しだけ心のもやもやが晴れることもあって、1日と漏らさずつけている。


「ん……?」


 俺がぼーっとしてるのか?日記アプリに書いた日記が入っていない。

 ていうか。

 ラインに間違って何かを送信してしまったような……。


「しまったー!」


 送信ボタンではなくて共有ボタンを押している。

 しかも送信先がさやちゃんになってる!急いで送信取り消ししないと!


 時既に遅し。

 ラインの画面を見るとさやちゃんの「既読」がついている。

 ああ、終わった。


「明日からどういう顔して会えばいいんだ?」


 思わず頭を掻きむしってしまう。

 さやちゃんは今頃日記を読んでしまっているだろう。

 一体それを見てなんて思うだろうか。


「そういう風に思われてたなんて、キモっ」とか?


 さやちゃんならこれはないか。


「ごめん。かっちゃんの事はそういう風には見られないよ」


 こっちがありそうだ。

 さやちゃんは真面目だ。

 すまなそうな顔をしてごめんなさいされるかもしれない。


 ん?

 そうだ。こうしよう。創作だということにするんだ。


【さやちゃん。さっきの悪い。あれは本物の日記じゃなくて、最近流行ってるネット小説に投稿しようと思ってた小説。別に本気じゃないから】


 慌てて送信してから二重にミスったと気づいた。リンクを開けば日記が見られる。小説のためじゃないのは明らか。付き合いの長さを考えればこういう小細工が通じるわけもない。つまり、今のメッセージで俺の「必死さ」が伝わってしまっている可能性が高い。


 あーもう。一体どうやってさやちゃんに会えばいいんだ?あっちもいきなり距離を取る真似はしないだろうけど、色々気まずいだろう。既読はついたものの返信が来ない辺りがそれを象徴している。俺の立場でも返事に困るだろう。


「明日フォローしよう」


 寝床に入ったものの、なかなか寝られず。

 結局、明け方に入ってからようやく眠れたのだった。


 ピンポーン。ピンポーン。


勝弘かつひろ。なんかさやちゃん来てるわよ?」


 部屋の外からなんだか母さんの声が聞こえる。


「入ってもらっといて?」


 誰だか知らないけど大丈夫だろう。

 適当に眠い頭で返事をする。

 

「はいはい」


 の声とともに母さんが戻っていく。

 しばらくの間ぼーっとする。

 あれ?さっきなんかとんでもない事を言った気がするんだけど。


「さやちゃんが来るのもお久しぶりねー」


 母さんは元気そうな声。


「ええ。半年ぶりくらいですね」


 さやちゃんは朗らかな笑顔で応対している。


「……」


 俺はといえばなんとも言えない表情で2人を観察している。


 俺、母さん、さやちゃんの3人での少し気まずい食卓。

 さやちゃんとは一緒に登下校をすることも多い。

 でも、こうして家まで誘いに来たのはかなり久しぶりだ。

 たぶん、昨夜の事について何か話したいからだろう。

 見なかったことにするという話かもしれない。

 「かっちゃんの想いはわかったけど受け入れられない」

 というお断りの返事かもしれない。

 後者だったら告白してもいないのに断られるわけで最悪だ。


 でも、さやちゃんを見るとやっぱり笑顔だ。

 それとなんていうかいつもより綺麗な気が……?

 化粧でもしてる?


「勝弘。なに、ぼーっとしてるのよ。早く食べなさい」


 いけないいけない。箸が止まっていたらしい。


「悪い。さっさと食べるよ」

「かっちゃんはゆっくりで大丈夫だよ」


 やっぱり彼女は穏やかに微笑んで俺を見つめている。

 母さんは俺たちの空気を見て何か察したらしい。

 何も言わなかった。

 そこに触れないくらいの心遣いはあるようで助かる。


◇◇◇◇


「いいお天気だー。今日は皆既月食だよね」

「……そうだな」


 登校しながらなんとも気まずい話題を振られる。

 なんでいきなり皆既月食の話題?

 昨日、俺の日記見たんだろ。

 さやちゃんは一体何が言いたいんだ?


「良ければかっちゃんの家で皆既月食が見たいな。駄目?」


 上目遣いでいつもと違う蠱惑的なお誘い。

 こんな表情も可愛い。なんでも可愛いかよ。

 俺はやっぱりさやちゃんの事が好きだ。

 でもこれは確かめておかないと。


「さやちゃん。俺の日記は見たよな。単なるからかいじゃないよな?」


 まさかと思うけど確認しておかないと。


「私がそういうことしないのは知ってるでしょ?本気だよ」


 プンプンという擬音語が似合いそうな声がかえってくる。


「永遠に消去したい黒歴史が出来た気分だったし」


 だって当人に渡すつもりのないラブレターが勝手に読まれたわけで。

 でもさやちゃんが悪い気がしてないのならよかった。


「そんなことない。私と同じ事を思っていたんだって安心しちゃった」


 なんて言いながらクスっと笑う彼女。


「同じ事って、つまり……」


 嫌でも昨夜送った日記の事を意識してしまう。

 さやちゃんも俺のことを?


「ふふ。お月見の時に話すから」

「楽しみにしとくよ。いい話、だよな?」

「その……はず」


 言っててさすがに恥ずかしくなって来たのか。

 彼女の方もなんだか頬が少し朱に染まっている。

 少し落ち着かないようで髪をいじいじしている。

 こういう仕草がいちいち様になるから美人はずるい。


 長い髪にほっそりとした体躯。きめ細かい白い肌にすっと伸びた鼻筋。

 少し大きなくりっとした瞳。柔和な顔立ち。

 本当に美人になった。


 しかしこれは……いい感じだよな。

 最初はフラれることしか考えられなかった。

 でも可能性が出てきたらドキドキする。

 

「ん?」


 何やらさやちゃんが手をすすっと寄せて来る。


「手……握って良い?」


 そっと手のひらを握られる。


「ああ。もちろん」


 握り返すと、この世の幸せを集めたような微笑みが返って来る。

 これマジですか。今夜はそのまま告白OKの流れ?


◇◇◇◇


(放課後が待ち遠しいなあ)


 授業に全く身が入らない。しかもさやちゃんは隣のクラス。

 どんなことをしているのかわからない。でも、知りたい。


 だって、さやちゃんだぞ?物静かで人間が出来ていて、俺が昔から片想いをしてきた相手  

 それがついに実るかも……9割9分実りそうなわけでこれはとても嬉しい。


【さやちゃんは今何してる?】


 恋人気分で浮かれてとんでもないメッセージを送ってしまった。


【どういう風に告白しようかなって考えてた】


 さやちゃんからとんでもないメッセージが返ってきた。


【ネタばれしてもいいのか?】


 今晩告白するよという予告メッセージだ。


【あれでお断りだと思ってたら神経疑うよ?(怒)】


 きっと話してたら頬を膨らませてたんだろうな。頬が緩む。


【それはそうだけど。この際聞いてしまうけど、どういう感じで?】


 ラインで聞くのもムードがないけど、先に知っておきたい。


【せっかくだし、小学校の頃の話とか色々】

【それは楽しみだな!色々聞かせてくれ】

【でしょ?今夜の皆既月食はほんっとうに楽しみにしておいてね】


 しかし、友達というより恋人同士の会話のような。

 結果は見えてるから恋人同士としてもいいのかもしれないけど落ち着かない。


(俺は俺で色々考えておかないとな)


 どうせ授業には身が入らないんだ。さやちゃんとの事を色々振り返ってみよう。

 そういえば、小学校の頃にも一緒に皆既月食を見たっけ。


◆◆◆◆


「かっちゃん。今度、皆既月食みよーよ」


 ある日の事。さやちゃんからそんなお誘いがあった。

 さやちゃんからのあだ名であるかっちゃんは最上勝弘もがみかつひろから。

 反対にさやちゃんは中条佐夜子なかじょうさやこいあら。

 当時小3だった僕。さやちゃんとの出会いの経緯ははっきりは覚えていない。

 ただ、お互い天体に興味があって、なんとなく仲良くなった。


「うん。僕も一緒に見たい!」


 せっかくなら誰かと一緒に皆既月食を見られたらなんて思っていた。

 そのお誘いはとても嬉しかった。

 

 その夜のこと。


「お月様がどんどん欠けていくね」


 どこかうっとりしつつ彼女の家のベランダから空を見上げるさやちゃん。


「神秘的だ」


 僕はといえば、今まで見たことがない「月が欠けていく」現象に大興奮。

 一言で言い表せない感動があった。


「お月様は私たちが生まれるずっと前からあるんだよね」


 しみじみとさやちゃんがつぶやく。

 天文に触れると意識しないといけないスケールの大きさ。

 以前に「私たちが生きている時間なんてちっぽけなんだろうね」

 なんてしみじみと言っていたっけ。

 僕も同意見だ。


「うん……僕たちはちっぽけだよ」


 あの頃の僕たちにとって「死」は身近なものではなかった。

 ただ、いずれ地球も月も太陽も全て消える。

 そんな事を知ってとても悲しかった。

 さやちゃんも同じ事で一晩一人で泣き明かしたことがあった。


「私たちはちっぽけだけど……かっちゃんとはずっと友達で居たい」


 どこか感慨深い声だった気がする。


「僕もさやちゃんとはずっと友達で居たい」


 気が付けばなんとなく手を繋いでいた。

 同じ寂しさを共有していたのかもしれない。


◇◇◇◇


(仲良くしてられるきっかけはそれかもしれない)


 自分たちだけじゃなくて地球も月も太陽もいずれ消えてしまうという寂しさ。

 だから、せめて仲間が欲しいという心情。

 あの時から俺は彼女の事を好きになっていたのかも。


(さやちゃんは一体どんな気持ちなんだろうか)


 今夜になればわかるか。

 でもいい返事が来るとわかっているからか不思議と緊張はしない。

 ただ、彼女が抱えていた想いがどんなものか知ってみたい。


◇◇◇◇


「お邪魔しまーす」


 夜になってさやちゃんがやってきた。時間は17時頃。


「さやちゃん。今朝ぶりね。2人でお部屋デート?」


 母さんがからかってくる。趣味が悪いんだから。


「ふふ。そんな感じです」


 悪戯めいた笑みで返事をするさやちゃん。

 あながち間違っていないから困る。


「あんたったら。さやちゃんともうそんな事になっていたの?」

「……ちょっと違うんだけど、そんな感じ」


 さやちゃんが先にネタばらしなんてややこしい事をするから。


「そう?まあ、仲良くやりなさいよね」

「仲良くやるから引っ込んでてよ」

「そうね。お邪魔してもなんだし。ごゆっくりー」


 母さんは自室に退散してしまった。


「早速お月見と行くか」

「うん!」


 手をぎゅっと握ってくる。少し照れくさい。


「わー。もう月が欠けてる」


 空を見上げて感嘆の声をあげるさやちゃん。

 その笑顔で見られただけでもお月見に誘ってよかった。


「月が出る前に欠け始めてるんだってさ」


 2階のベランダから黙って空を見上げる俺たち。

 既に月食が始まった状態で月が昇って来る。


「あのね……かっちゃん」

「ああ」

「日記勝手に読んじゃってごめん……ありがとうかな?」

「黒歴史にしたいんだけど」


 自分にしまい込んでおくつもりだから書けた代物だ。

 恥ずかしいったらありゃしない。


「ううん。私も時々似たようなことを日記に書いてたから」

「え?」


 びっくりして彼女の方を見ると、はにかんだ笑顔。

 思わず心臓がどきどきしてくる。


「かっちゃんはなんで私と一緒に遊んでくれるのかなってよく考えてたの」

「俺もそこは同じだけど」

「私の事好きでいてくれるのかな。でも、どういう好きなんだろうって」

「友情か恋愛かみたいな話?」

「うん。もし女の子として好きでいてくれるななんてよく思ってた」


 まさかそんな事を思ってくれていたとは。


「その割にはさやちゃんはあんまり態度に出てなかったけど」


 俺の方はよくドキドキしていたけど彼女の態度は昔からの延長線上に見えた。


「一緒に仲良く遊べるだけで十分。そこまで望むのも欲張りかなって」


 透き通った声でつぶやくさやちゃん。

 その横顔はとても綺麗で不覚にも見とれてしまった。


「昔からさやちゃんは欲がないよな」


 出会った時からそうだった。

 どこか達観したような見方をする子だった。


「私たちは本当にちっぽけだから。だから、せめて澄んだ気持ちで生きて居たい」


 そんなだからクラスでの彼女は物静か。

 清楚な佇まいがいいのか、告白して来た奴も多かったっけ。


「小学校からあんまり変わっていないよな」


 どこかクラスを一歩引いた視線から見ていた彼女。

 孤立しているわけじゃないけど。

 皆で賑やかに遊ぶのはあんまり好きじゃなかった。


「そうかも……。私はあんまり変わっていないのかも」

「そうだったから付き合いやすかったけどな」


 普通なら思春期で多少なりともぎこちなくなりそうなものだ。

 ただ、俺たちの間ではそんなことはなくて。

 お互い今の歳まで仲良くやってきた。


「でも、私もやっぱり女の子だったみたい」

「……」

「かっちゃんの事を普通の友達と思えなくなっちゃった」

「俺もその辺は同じだな」


 中学以降成長していく彼女を見ていたわけだし。


「今度は私から告白するね。かっちゃん、お付き合いしてください」


 静かな声で微笑みながら。それでもまっすぐ俺を見据えて真剣な響き。


「俺は既に見られてしまったけど。大好きだよ。さやちゃん」


 不思議とお互い緊張はしなかった。


「先にネタばらしされたから全然緊張しないな」


 もっと緊張するかと思っていた。


「せっかくの皆既月食だよ?落ち着いてみられた方が良くない?」


 何がせっかくなんだろう。


「そういわれればそうだけど……」


 会話を交わす内にどんどん月が欠けて行く。

 じきに月がとうとう完全に隠れてしまう。


「月、もう隠れちゃったね」

「小学校3年の頃を思い出すな」

「あの時は本当にいい夜だったね」

「今日もいい夜だ」

「うん」


 少しの間お互い向かい合う。

 部屋から漏れる光が薄っすらと彼女の顔を照らし出す……って、え?

 目を閉じて唇が……これはキスというやつ?

 と思う間もなく、唇に柔らかくて少し冷たい感触。

 負けじと俺も唇に舌を差し入れる。

 十数秒の間、お互いに唇の感触を楽しんだのだった。


「ビックリしたぞ」


 今更、心臓がドキドキしてくる。

 唇を触れ合わせるってこんな感じなんだ。妙な多幸感が湧いてくる。


「せっかくの皆既月食だし。良くない?」


 言って悪戯めいた笑みえ笑いかけて来る。


「一生忘れられそうにないよ」


 きっと何十年経っても覚えている。


「もちろんそのつもりでしたんだからね!?」


 少し頬が赤らんでいる。さすがに恥ずかしかったらしい。


「恋人同士って何するんだろう」


 目を合わせてるのが恥ずかしくなって空を見上げる。

 すっかり欠けた月は元通りになっていた。


「わからないけど色々してみたい」

「プラネタリウムデートとかどうだ?」

「いいね。行こっか」

「ところでさ。さやちゃんも日記書いてたんだよな」

「……うん」

「俺の事どういう風に書いてたんだ?」

「それはさすがに秘密」

「俺のを読んだわけだろ。少しだけ教えてくれてもいいだろ」


 本当に教えてくれるとは思っていない。

 ただ、俺だけ一方的に見られてるのは少し納得が行かない。


「じゃあ、私たちが80歳になったら。その時は時効だから教えてあげる」


 またとんでもないことを。80歳までその約束覚えてるのか?

 しかも、


「お前。80歳になったらって……」


 それまで一緒にいるつもりっていうことだ。


「もちろん生涯付き添うつもりだからね?」


 その声色には茶化しなどは一切なく平気そうだった。


「俺もそのつもりだけど。気の長い話だなあ」

「大丈夫。人の一生なんてきっとあっという間だよ」

 

 ここでその台詞か。


「さやちゃんはスケールがでかいことよな」

「私もそこまで達観出来てはいないよ。でも、そういう約束も大事だと思う」


 目をキラキラさせて懇願してくる。


「いいけどさ……。もうちょっと早く教えてくれたって」

「ダメ」

「じゃあ、少しだけでもいいからさ」

「だから80歳になったら教えてあげる」


 月夜を見上げながら、そんな他愛無い言い合いをしたのだった。

 きっとこの夜を俺たちは一生忘れないだろう。


 さやちゃんは俺にとって一番の親友で生涯の伴侶だ。


◇◇◇◇後日談◇◇◇◇


「かっちゃん……これ、いいの?」


 嵌められた婚約指輪を見て戸惑っているようだ。


「プロポーズはしただろ。次は婚約指輪かなっと……」


 まあ、婚約指輪とかあんまり気にしない奴だけど。


「すっごい嬉しい。なんか、私もお嫁さんになるんだって実感わいてきた」

「ずぼらなところとか金銭管理はフォローしてくれると助かる」

「かっちゃんそういうの苦手だもんね」


 別にあざけっているとかではなくて、本心でそう思っている言い方。

 きっと俺はこれからずっとさっちゃんの尻に敷かれるんだろう。

 でも、彼女が一緒ならやっていける。不思議とそう思えた。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

ちょうど先日、(ほぼ)皆既月食があったので、それをネタにした短編です。

静けさを意識してみたのですが、雰囲気が伝わったら幸いです。


楽しんでいただけたら、応援コメントやレビューいただけると嬉しいです。

☆☆☆☆☆☆☆☆

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