エピローグⅠ ポードレッタとおじいさん

 ラピス王こくのウェルナリスという村にオルフェオという木こりの男がいました。

 オルフェオは小さなころからあたまがいたいことになやまされており、大人になってもなおりません。

 ですがある日、オルフェオはなかまの木こりにニジェルのくろかみのくすりやさんがつくったというくすりをもらいました。

 それをのむとあらふしぎ。いたみはピタリとやみました。

 なかまの木こりはオルフェオに、そのくすりやさんはおやがおらずたった一人でくらしているということもはなしてくれました。

 オルフェオはじぶんがくすりやさんのかぞくになろうとおもいたち、せっせといえをつくりました。

 なん日もなん日もかけて三かくやねのレンガのいえがかんせいし、オルフェオはくすりやさんをむかえにいきました。ですが、くすりやさんはもういなくなっていました。

 オルフェオにまたつらいできごとがふりかかります。

 子どもふうふが、やまいでなくなってしまったのです。

 そして、くすりやさんのためにつくったおうちに、まごのビアンカがやってきました。

 ビアンカはふしぎな女の子でした。

 ようせいが見えるというのです。

 オルフェオは、さびしいビアンカがつくりだしたゆめのようなそんざいなのだろうとおもっていましたが、なつのあついある日、ビアンカはようせいがたすけをもとめているといいのこしておうちをとびだしたきりかえってきません。

 オルフェオはビアンカのはなしをしんじつのものとしなかったじぶんをくやみました。

 そして、ビアンカをさがしだすべく村の人にはなしをきくと、どうやらたくさんの少女たちがいなくなっているが、りょうしゅさまがさがそうとしないことをしりました。

 オルフェオは王さまのすむみやこ、リンディンへとむかいました。

 にば車におにいさん二人をのせ、リンディンへつくと、王さまにあうそのまえにへいたいにもんぜんばらいされてしまいます。

 オルフェオはかなしみ、もりへむかい、こどもふうふのもとへいこうとしましたが、そんなオルフェオのまえにあらわれたのはいっしょにリンディンにむかった一人のおにいさんでした。

 かれはエスティーといい、おひめさまをまもるへいたいさんだったのです。

 エスティーはオルフェオのはなしをきくと、からだのわるいオルフェオにかわって、ビアンカをさがしてくれました。

 ですが、そのときもつかのま………きぼうはおもわぬかたちでついえてしまうのです。

 エスティーはリンディンにかえらなければいけなくなってしまい、オルフェオはうらぎられたようなきもちになっておちこみました。しかしエスティーはオルフェオに今夜ビアンカをとりかえしてくるというのです。

 オルフェオはそのつよいひとみのひかりにいぬかれ、かれをしんじることにしました。

 ビアンカがもどってくることをいのりつづけて、どれくらいじかんがすぎたのでしょう。とぐちから音がしたようなきがして、ふと、めをさますとよあけまえでした。

 オルフェオがそっとげんかんをあけるとそこには……いなくなった日となにもかわらないビアンカがすやすやとねいきを立ててすわっていて、オルフェオはなみだをながしてよろこびました。

 そのとなりには小さな小づつみがあります。オルフェオはなかみを見てびっくりしてしまいました。ニジェルのくろかみのくすりやさんが作ったくすりが入っていたのです。

 オルフェオはふしぎなきもちでいっぱいになりました。このおうちをつくったけいいをだれにもはなしていません。くすりをかいにいったのはなかまの木こりです。それなのにどうしてすべてしっているとでもいうかのようにくすりをおいていったのでしょうか。

 オルフェオはかんがえました。

 きっとくすりやさんが、ひきとろうとした自分のきもちにはこたえられないけれど、ふしぎなだれかの力でそのことにきがつき、おれいとしておいていってくれたのだろうと。

 ねむっているビアンカをおぶって、オルフェオはげんかんをしめながらこういいました。

 ありがとう。エスティーさん………と。




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「めでたしめでたし」


 孫と祖父が二人で暮らす家の窓には橙の光と笑っている様子の人影が。黒糸鍔の三角帽子をかぶった魔法使いは純白の竜の背から身を乗り出して、川向から眺めていた。


「さようなら。幸せにね」


 光の加減で虹色に輝く竜の鱗をトントンと叩くと、瞬きのうちに一人と一匹は空の高くへ到達している。

 少し冷えた風がウェルナリスに吹き渡る。彼らとこっそり一緒に住んでいる沢山の妖精が、満天の星空の中旅立つ者の姿を見つめた。

 大きな翼をはためかせ悠々と、遠く、遠くへ去ってゆく。









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