第13話 夜明け

目が痛い、どうやら廊下で玄関を睨んでいる間中ほとんどまばたきをしていなかったようだ。


しめ縄の中に座っている恒樹の肩を叩いた。


「終わったんすか?」


ヘッドフォンとアイマスクを外しながら聞く。


「なんかめっちゃスッキリしましたよ」


「成功やな、玄関から出ていくん見えたわ」


「さっきまで玄関のほうでずっと「破ぁ」って言うてましたもんね」


なん、だと・・・


また鳥肌が立った。


「なんで? なんで聞こえとったん?」


「途中で音楽止まってましたよ」


「マジか!! なんか中二病みたいでいややから聴こえんようにしたのにっ」


「それで耳栓してヘッドフォンまでしてたんすか?」


そうだ、そのためのヘッドフォンと耳栓、アイマスクだった。


考えてもみてくれ、30過ぎたオッサンが本気の顔で「破ぁっ」ってやるんだ。


誰にも見られたくないし、聞かれたくもない。


でも、何年もやった洗心術。


覚えた事は試したくなるのが人間というものだ。


「そーやで」


若干声が裏返った。


さっきまで幽霊と対峙していたのが嘘のような気分だ。


「それより、することやってまおか」


なんでもないような顔で片付けに入る。


新しく2つ盛り塩を作り、玄関の外においた。


「この盛り塩、3日に1回交換するくらいで49日は最低でも置くようにな」


「了解っす」


しめ縄やフーチも外して部屋の前に置いた盛り塩も持ってきたごみ袋に全部捨てる。


着ていた服も入れて持ってきた塩水をかけて、あら塩も撒いてからゴミ袋の口を閉じた。


「これで大丈夫やろ!お香は置いてくわ、あとこれやな」


そう言ってコーナンのレシートを渡した。


「4000円ちょいすか、だいぶリーズナブルな徐霊っすね」


すっかり余裕が戻っている。


「せめて今度焼き肉ぐらいおごれよ」


「そんなんでいーんすか?」


「かまへんよ。 あー疲れた、喉も痛いし汗だくやしシャワー浴びたいし。 俺帰るわ」


片付けが終わったところでどっと疲れが来た。


ごみ捨ては恒樹に任せて


「んじゃっ」


っと家を出た。


車に乗り時計を見たら5時を少しまわっていた。


帰ってシャワーを浴び泥のように眠りたい所だったが今日も仕事である。


ため息をつきながら帰宅した。


朝日が眩しかった。

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