全てが反転したあの日の悪夢……。

「カラード大陸」

 そこは、魔物という異形の種族が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしている大陸で、とても人が住めるような場所ではなかった。


 しかし、約1000年前に、人間たちのほとんどが「女神エリス」を信仰していたため、女神エリスは、人間に加護を与えた。

その加護のおかげで魔物と対抗することができ、カラード大陸を開発することができた。


 そんな女神エリスがくれた加護が「魔法」だ。


 その魔法は「火、水、土、光、闇」の五つの属性があり、ほとんどの人間はこれを使うことができる。


 魔法を使うには「魔力」というあらゆる生物が持つ力と「術式」が必要である。

 魔力というのは、人間の内側にある力のことで、個人差が大きく、何にもしていないのに魔力量が平均の2倍あったり、はたまた、どれだけ努力しても平均にすら辿り着けない人もいる。


 一方、術式と言うのは魔法陣の形をしている。

 その魔法陣に魔力を流すとそこに決められた方式で書かれている魔法と同じ魔法が発動する。


 いわば、魔法を発動させるための媒介みたいなものである。

 ただし、複雑な魔法ほど消費する魔力は大きくなる。


 最初は紙などに術式を書かないと魔法を発動させることができないが、練習すれば術式無しで魔法を発動させることができる。


 これは、そんな世界に生まれた1人の少女の復讐の物語……。

            

       ⋄◇数日前◇⋄


 そんなカラード大陸の隅。

 「レペンス帝国」に属する何にもないド田舎の辺境の村「セラス村」

 そこに住む「フォールン家」の3人兄弟の1番下の子として生まれたのが私、「カトレア・フォールン」だ。

 私には4つ上の姉と6つ上の兄がいた。


 6つ上の兄は、医療に関してはとてつもない天才で、よく「貴族の病を治して大金をもらった。けど、俺だけじゃ使いきれない」とか言って実家にお金を置いていってくれる。


 そして、4つ上の姉は、どういうわけか他の星には興味が全くないのに月にだけ興味を持ち、ひたすら勉強していた。

 今はレペンス帝国の帝都「プラムド」の名門「プラムド国立大学」で勉強している。


 一方、私はと言うと……特に兄や姉のように目立った才能は無い。

 強いて言えば貴族から声がかかるほどに腕が立つ、ってくらい。


 あとは、これは才能ってわけじゃないけど、どういうわけか魔力消費なしで「闇の魔法っぽいもの」が使える。


 「闇の魔法っぽいもの」って曖昧な言い方をしているのは、魔力消費がないことと、術式がいらないからである。


 私も不思議に思ってお父さんにこのことを聞いてみたんだけど、「いいかカトレア。そのことは絶ッッ対に誰にも話しちゃだめだからな」と言われた。


 よくわからないが、いくら聞いてもそのことについて教えてくれなかったし、何より顔が本気だったので今まで一回もこのことを話したことはない。


 そして今、私は念願だった村の自衛団で働いている。


 自衛団で働きたいと思ったきっかけは、この村は田舎すぎるがゆえに村人同士の助け合いが多く、とにかくみんな愛想がよかったからだ。

 そんな故郷を、私はいつの間にか守りたいと思うようになってた。


――村の自衛団は大変だった。


 セラス村は隣村とあまり仲が良くないので、余程のことがない限りすべて村の自衛団がやっていた。


 仕事は主に、街道の見回り、盗賊の退治、あと、手が付けられなくならないように定期的に森の魔物退治を行っていた。


 魔物退治を専門に行う冒険者という人たちがいるらしいけど、こんな小さな村にはいない。


 どうやら私は、村の自衛団の中でもかなり強かったようで、あっという間に出世してみんなからは「団長」と呼ばれている。


最初は抵抗があったが、今ではそれが当たり前になっている。


 自分の夢が叶って、そこそこに出世して、十分すぎるほど充実した毎日を送っていた。


 そんなある日のこと、私は久々の休暇だとはしゃいで趣味の狩りをしに村の近くの山に出かけた。


 夕方になって、とれた野兎4匹が入ったかごを背負って村へ帰ると村から煙が立ち上っているのが見えた。


 辺境の村だから何かを処分するために火を使うが、立ち上っている煙の数が明らかにいつもとは違かった。


「……っ‼」

 その途端、急に寒気がして私は背負ったかごも捨てて、ただ、夢中で走った。



――結果は最悪だった。


 いつも目にしている光景が炎に包まれていた。


 私に優しくしてくれている近所の人たちの家も燃えていた。


「お父さん! お母さん!」

 気づいたら私は、自分が村を襲った何者かに見つかる危険性も忘れて、そう叫んでいた。

 両親のもとへと行くために、私は実家に向かって走り出した。



――そして、ついにお母さんを見つけた……。


 家に向かう道中に背中から血を流した遺体が倒れていた。


 お母さんだ……。


 背後から一刺しだろう。


 信じられなかった。

いつもニコニコ笑ってくれているあんなに明るいお母さんが血を流して動かなくなっているなんて。


 私はその場で膝から崩れ落ちた。


 すると、左の方で何かがバタンと倒れる音がした。


 警戒しながら腰に携えた狩猟用の剣に手をかけて、ゆっくり音のした方に行く。


 私が見たのは白色の鎧に身を包んだ兵隊らしき人が私のお父さんを地面に押し付けている姿だった……。


「お父さん!」

 わけがわからなくなって言った言葉がそれだった。

「逃げろ! カトレア!」

 お父さんは押さえつけられながらも一言で、わかりやすく私に言いたいことを伝えた。


 その後、兵士が腰に携えている剣を鞘から抜き出して振りかざした。


「いやああぁぁぁぁ‼」

 言葉にならない声を発していた。


 お父さんは、そのまま刺し殺された。


 私はまだ、目の前で起こった出来事がわからなかった。


 当然だが、お父さんが突然兵士に襲われるようなことをするわけがない。

 それに、被害者はお父さんだけではなく、セラス村に住んでいた村人全員だ。


 現実を受け入れられずに困惑していると、「今度はお前がターゲットだ」と言わんばかりに兵士がこちらを向いてきた。



──その瞬間、私は理解した。

その兵士が何者なのかを。


 兵士が持っていた剣の柄の部分に何やら模様が刻んである。

私は、その模様を知っている。


レペンス帝国の帝都、プラムド直属の兵士の模様だ。


 プラムドの兵士からは何度か「この国の軍人にならないか?」と勧誘されていたから模様を知っていた。


もちろん、私の夢は「故郷を守りたい」なので断ってきましたが……。


 私は、こいつを親の仇だと思って剣に手をかけたが、周りには同じ兵士がたくさんいると察して、すぐに来た道を戻った。


 兵士も途中まで追ってきたが、

「追うな!山に関しては村人のほうが詳しい! 追ったら逃げられるだけでなく迷子になって山から出られなくなるぞ!」と、上司っぽい男が、よく通る声で私を追ってきた兵士を止めた。


 すると、

「チッ……」

 という声とともに後ろで聞こえていた足音が聞こえなくなった。

  

    ⋄◇────────◇⋄


 私は、その日、すべてを失った。

 自分の財産も、培った人間関係も、叶ったはずの夢も、すべて失った。


 その時、私は、できるはずもない「国」への復讐をすると、高望みしてしまった。

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