第1話「令和元年の涙雨」⑥

※場所は佐賀県武雄市朝日町たけおしあさひちょうにあるエスカンパニー本社(兼、緒妻おつま家自宅)。避難所から翌日の朝。(※)内は演出指示です。<>はセリフ以外の演出ほかシュチュエーションです。傍点は佐賀弁。




<ペチャペチャという水たまりを歩く音が聞こえる>




ゆう:「何とか、水は引いたけど…。中はどうなってるんやろう」




哲人てつと:「玄関を開けるよ…(※しばらく間を空けて力をこめて)う~~~~ん」




志織しおり:「ど、どうされたんですか?」




哲人てつと:「玄関の扉が膨張して…あ、開かない…」




ゆう:「てつちゃん、私が変わるよ。」




哲人てつとゆうが入れ替わる>




ゆう:「う~~~ん。確かに膨張してるわね。思い切り開けられないこともないけど、ここはゆっくり丁寧に…」




ゆうが玄関の扉をゆっくりと開く>




まさるいつき:「ひ、開いた!」




哲人てつと:「(※驚き声で)わ~~~っ!なんじゃあこりゃ?」




<床一面、泥水でまみれた家の中を見て>




明来あき:「く、くさい…」




ゆう:「明来あき!家中、泥水まみれだから仕方ないよ。我慢して!はい、マスク着用」




ゆうがマスクを家族と志織しおりへ1枚づつ渡す。そして、ペチャペチャという水たまりを歩く音…>




ゆう:「(※テンション低めに)事務所の機材はほぼ全滅ね…。PC関係全滅、プリンター関係全滅(※しばらく間を空け嘆き声で)。わあああああ…ウチの商品パッケージ箱も全部ダメ。父の介護の為に本社を佐賀市から武雄に戻したのが、ここで仇になったね。平屋だし、機材はほぼ床の上…。」




志織しおり:「(※泣きそうな声で)台所も、トイレも、お子さんの部屋もみんな…、電気も付きません…」




哲人てつと:「風呂場は床までは浸水してるけど…水道は出るよ。」




ゆう:「ガスは?」




ゆう、ガス湯沸かし器のボタンを押す。ボワっという点火したあとに水が流れる音>




明来あき:「今、ガス屋さんが来て、点検しにきたよ。ガスは問題ないって。」




ゆう:「お風呂は…(※しばらく間を空け嘆き声で)。わあああああ…出ることは出るけど、お湯の出入り口が壊れてる…」




ゆう、風呂の水を止める。ポタリポタリと水が滴る音…>




ゆう:「漏水してる…。もうどこから手をつけていいのかも分からない…。(※しばらく間を空ける)て、てつちゃん?」




哲人てつと:「(※焦燥した声色で)これは本当にダメだな…。」




ゆう:「てつちゃん、とりあえずダメになってるものは全部外にだして。避難所にいた市役所の人が、外にダメになったものを置いておけば"災害ごみ"として回収してくれるって…。」




哲人てつと:「わ、分かった。」




ゆう:「まさるいつきは危ないから逆に何もしなくていい。手袋を貰っておいてたから…明来あき!」




明来あき:「な、何?」




ゆう:「あなたはまさるいつきと一緒に、ダメになってる学校の教科書や教材や物をチェックしてから外に捨てて…。あと、スマホで写真も撮ること。これも市役所の方が言ってたから…。まずは片づける前に写真を撮ってくださいって。」




志織しおり:「写真ですか?」




ゆう:「そう。"罹災証明りさいしょうめい"なんちゃらを貰うために必要だから…。必ず、建物の外と中の写真。あとは浸水した車とかは全部写真で撮って保管してほしいと強く念をおされたわ!」




志織しおり:「しゃ、社長…私は?」




ゆう:「志織しおりちゃんは、まず寮の様子を見に行ってきて。あそこも1階は完全に浸かってるでしょ?」




志織しおり:「はい、分かりました。見てきます。」




ゆう:「2階のおばさんも多分、行ってると思うから、宜しく伝えておいてね。あと、寮の写真や部屋の中の写真も必ず撮ること!スマホのバッテリーは大丈夫?」




志織しおり:「大丈夫です。避難所に"臨時のスマートフォンの充電所"が置かれてたので、そこで…。」




ゆう:「上出来!流石、志織しおりちゃん!」




志織しおり:「社長、寮に行ってきます…。」




志織しおりが寮へ向かうペチャペチャという水たまりを歩く音が続く…>


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