第46話 美食の女王
◇◇◇
ゴルドー生還の報せが騎士団内に伝達され、第一大隊から歓声が上がる。続けて《指揮通信》で繋がった騎士団内に、各大隊長から続々と念話による戦況報告が為された。
『こちら第二大隊長ラッシュ。ゴルドー殿、生還お見事。また武勇伝を重ねられましたな。現時点で第二大隊の被害はゼロ、応急陣地もほぼ無傷だ。引き続き翼壁の防御任務を継続する』
『こちらミルダ、ゴルドー老!! 生きてて嬉しいよ。第三大隊も被害なしだ。壁外の蟲達はまだ動いちゃいるけど、壁をよじ登ってくるのは一匹も見当たんないね。言葉どおり
それにしても《黒門》の威力には恐れ入ったよ、手下どもったらさっきから怯えちまって……まるで産まれたての子牛みたいになってやがるよ。こらッ手前等!! もっとシャキッとしな!!』
「「「お、おう!!!!」」」
ミルダの激に第三大隊の面々が応える。黒門の生み出した光景に言葉を失っていた団員達は、ゴルドー生還の報に続けて次々と伝えられる戦況を聞きながら徐々に我を取り戻していった。
『こちら第四大隊長ギュスタフ、被害なし。
『第五大隊、被害なし。同じく防空任務を継続する。ゴルドー殿、ご無事で何より』
全大隊、被害なし。
まだ蟲の殲滅が為されたわけではない。それに、女王の生死はまだ確認できていない。だが、地上を埋め尽くす程に溢れかえっていた敵影は既に殆どなく、団員達は目前に迫る勝利を感じずにはいられなかった。
数百年と続く城塞都市の歴史上でも稀に見る程の危機を、騎士団の誰一人として落命することなく乗り越えたのだ。
先程各大隊に警戒を解かぬように指示したキースさえも、何処か心の内で勝利を確信していた。
「……いや、まだ終わっちゃいない。……だが、何処にいる??」
騎士団全体に戦勝ムードが拡がっていく中で、フィンだけが額から嫌な汗を流していた。
彼は知っている。ワールドクエストが、《災厄》の討伐が為された時に即座に起こる現象を。そして、その声がまだ響いていないという事実が
「ミレッタ、魔力感知はうまく働いてるか?」
フィンは傍らの大魔女に問いかけた。
「うう〜ん、少し難しいわね。辺りの魔力場がめちゃめちゃになっているの。この黒い炎、あまり綺麗な編み方じゃないのよ。読むのにはちょっとコツが要るわね。でも、大きな魔力が一つ、此方に近づいているのを感じるわ。間違いなく……」
ミレッタの答えを待つことなくフィンは声を上げた。
「キース!! 女王は生きている!! もう近くまで迫っているぞ!!」
フィンの言葉を受け、キースがハッとした顔で遠見台に声をかける。
「ッ遠見台、女王が近づいています!! 確認を!!」
「まさかッ!? 近寄る蟲など何処にも見えません!!」
遠見台の兵士は目を凝らすが、眼前に広がるのは煉獄の炎に焼かれる蟲ばかりである。
そのやりとりを聞いていた壁上の兵士達は、急迫するはずの女王を見つけるべく、一斉に戦場へと目を向ける。
…………
この戦いが始まって以降、初めて訪れる長い静寂
「……おかしいですわね」
異常をいち早く感じ取ったのはセリエだった。
「セリエ、何か感じたのか?」
フィンが問いかける。
「ええ、あれだけ騒がしかった蟲の声が……もう聴こえませんわ」
確かに、いつの間にかギシギシと蠢いていた蟲の声が止んでいる
身体を燃やし尽くされた訳ではないのに、蟲達の眼は既に命の炎を灯してはいなかった。
「空を見ろ!!蟲どもが!!」
続けて、遠見台からも声が上がった。
未だ空を覆い尽くす程に飛び回っていた飛行型の蟲達が、バタバタと地面に向かって墜落していく。
糸が切れたように落下する蟲達の眼は既に光を失っており、それはまるで、命を吸い出されたようだった。
《同族喰い》──それは魔物を食べる魔物が持つ特殊な能力
喰うモノと喰われるモノの間に圧倒的な力量差が存在する時、ソレはいわゆる物理的な《食事》を必要としない
つまり……女王は食べる事にしたのだ
地面を覆い尽くしていた蟲達が全て
「……ッ来るぞ!!」
フィンが声をあげる。
刹那、地面がぐわんと揺れた。続いて、城壁の真下──第二大隊のいる陣地一帯の地面が一挙に盛り上がる。
「地下だ!! 障壁展開!!」
フィンは叫ぶと同時に応急の魔法障壁を張るが、それは地面の膨張をほんの一瞬押し留めたに過ぎなかった。
第二大隊陣地は足元から吹き飛び、地面の裂け目から高温の蒸気が大量に噴き出した。
────爆音、そして悲鳴────
◇◇◇
──────超過条件を達成しました。
ワールドクエスト《始まりの災厄》は、ワールドクエスト──《美食の女王》へと更新されます。
天の声が、不吉な情報を告げていた。
◇◇◇
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