第21話 攻略法を探せ


 ◇◇狭間の空間(観測者の間)───



『そういえば、始まりの災厄の攻略法は、何か掴めたかい?』


 ルシフェルは、フィンに向けてそう問いかけた。



「ああ……完全にってわけにはいかないが……とりあえず、仮説は立てたんだ。意見もらえるか?」


 フィンは、ニヤリと笑ってルシフェルへ問い返す。



『ああ、いいとも。どうやら何か糸口を見つけたようだね?聞こうか』



 そう言ってルシフェルが何もない所へ向けて手を振ると、そこからソファセットが現れる。彼は腰掛けると大仰に脚を組み、ちょいちょいとフィンに手招きをした。


 フィンは、なんでもアリだなこの空間は、などと呟きながら、出された椅子に腰をおろす。


 流石は神的な存在が座る椅子だけあって座り心地はかなりよかった。



「ごほん。えーと、まずあいつの出現する条件についてだが、これはほとんど予想が立っている。初回の転生時には、あいつは俺たちが向こうの世界に転生するやすぐさま、俺たちの⦅目の前に⦆現れた」



『そうだったね』


 ルシフェルはニコニコしながら相槌をうつ。



「そして二回目の周回だが、今度は転生してから約1ヶ月後に、またも俺達の⦅目の前⦆に現れた。そしてそのタイミングは、ミレッタが目の前に現れたのと同時だった」



『その通りだね』




「それで、ここからは俺の仮説だが……始まりの災厄やつは、プレイヤーを含むメインNPCが⦅同じエリア⦆内に一定数以上、今のところ、それは4人だと思うが……集まった時にその登場条件を満たして現れるんじゃないかと思っている」



『へぇ……』



「最初の転生の時、俺たちは森に飛ばされたわけだが、今思えばあの森は、俺が知っているダンジョンに植生がよく似ていた」



『なるほど、つまり……』



「ああ、あのタイミングで、あのダンジョンには他のメインNPCがいたんじゃないか?


 あの時俺たちは気がつかなかったが、近くにいたはずだ。少なくとも、2人以上が、ダンジョン内に」



『おお、ご明察』


 ルシフェルは思わず唸った。どうやら当たっていたようだ。



「ビンゴか。因みにどんなやつだった?」



『ラミーちゃんは君と別れてから間もなく青髪の男性冒険者と森の中で出会って、一緒に君の下へ駆けつけていたよ。さすがに人虎ワータイガーは鼻が効くね。まあ、間に合わなかったわけだけれど……


 その他にも彼の仲間が複数人いたね。多分その内の何人かはメインNPCだったはずだよ』




 その情報を聞き、フィンは少しだけ考えを巡らせるが、すぐに新たな予想を立てる。どうやら思い当たる所があったようだ。




「青髪……?そいつは多分……ジェラールだな。そして、あのダンジョンは、獣人大陸にある樹海ダンジョン⦅ゾアマング⦆──その第一階層だ。獣人好きのあいつのことだから、ラミーの頼みは快諾したろうな」




『へぇ。たったアレだけの情報で、そこまで予想を立てられていたとは驚きだよ』




「まあ、あそこにはし、青髪の男性NPCは少ないからな──で、合ってるか?」




『はは、流石だね。まあ、今述べた君の予想はだいたい合ってたんじゃないかな?少なくとも、⦅シミュラクル⦆においては。まあ、これで⦅災厄⦆ってもののが確定した──とは、考えない方がいいと思うけどね』



 ルシフェルはフィンが想像以上に正解に近い答えへと近づいたことに感心していたが、まだ災厄そのものの出現条件が確定したわけではないと伝えることも忘れなかった。




「そうか。なら、ひとまずは奴の出現する条件はそれで考えておこう。今の情報からじゃ判断できないからな」



 フィンも、自らの予想がひとまずの解を得たことで少し安心したようである。



『じゃあ、奴の倒し方、というより彼を君が倒せなかった原因はなんだと思う?どちらかと言えば、こちらの方に対策を立てないといけないわけだけど……』



 ルシフェルは脚を組み替えて再びフィンに問いかける。

 彼の言う通り、災厄を避けて通れない以上、その対処こそにはできない。フィンは、そんな当たり前のことを考えながらも、現在の予想を続けて述べる。



「うーん。そっちは今のところ、思い当たるのは3つかな」



 フィンは、指を3本立てると1本ずつ折り曲げながら予想を述べる。



「1つ目は、単純な俺の力不足。だがこれは、1周目のラミーが問題なく奴を倒しているということから可能性は他に比べて低いんじゃないかと思っている。


 2つ目は、魔法でしか倒せないんじゃないか……ってことだが、可能性としてはこれが一番高いな。


 最後は、奴の出現条件から考えてみたことだが……もしかすると奴は俺一人の攻撃では倒れないように設計されているんじゃないかってことだ──まぁ、こんなところかな」



 フィンはそこまでルシフェルに告げると、どうだ?とでも言う様に彼を見つめる。



『1つ目はまだしも、残り2つは興味深いね。観測者として見てきた他の世界でも、確かには強力な魔法による撃破や大規模なパーティによる討伐成功が見られているよ』



 ルシフェルは他の⦅シミュラクル⦆から得た情報を踏まえ、フィンの予想に対して概ね肯定の意を示した。




「……そうか。まあ、どちらにせよ次の周回で試してみるさ。ミレッタという過剰な戦力が参戦した結果ではあったが、一度は倒せたんだ。そして、攻略不可能なゲームのボスなんていない」



 フィンは、次こそはの力で倒してみせると意気込んでいる。

 一方でその言葉を聞き、ルシフェルは少し悲しそうな……困ったような表情をした。




『まだ、ゲーム感覚が抜けきってないのかな?……とはいえ、死を直視するのは今の君には難しいか。魂の入れ物の一つが壊れたって程度にしか感じないのも無理はないけれど。』



「はは、わかっている。ここはゲームじゃないし、現実なんだよな……わかってるよ。ただ事実として、災厄は⦅シミュラクル⦆にとっての異物イレギュラーじゃない。必ず攻略法はある。そう言いたかっただけだ。」




 ルシフェルは何か言い足りない顔をしてしばらくフィンを見つめていたが、ついにはフィンに悪気がないことを認め、仕方なく話題を切り替えることにした。



『……ふ。まあ、あまり意地悪は言わないでおくよ。それで、次の転生先は決まったかい?』



 ルシフェルはそう言うと、フィンの前に時間凍結されたいくつもの世界を映し出す。




「ああ、もう決めている」




 フィンは、その中から迷わず一つを指差して答える。




「今度はここに転生させてくれ」




 そこに映っていたのは────



 ◇◇◇

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