晩飯作ってくれた幼馴染が風呂に入ってくる話

月之影心

晩飯作ってくれた幼馴染が風呂に入ってくる話

 ここは俺、綾川あやがわ慎之介しんのすけの住む家のキッチン。

 俺は一人っ子……つまり家には、平日は夕方以降、両親のどちらかが帰宅するまでは俺だけしか居ない。




 のだが……




「何やってんだ?」

「あっ!おかえりなっさぁ~い!ア・ナ・タッ!きゃー!!!」

「うるせぇ。」


 帰宅すると、何故か我が家のキッチンでTシャツとホットパンツに少し大きめのエプロンを着た幼馴染兼半強制的に彼女になった多度津たどつ美彩みさが右へ左へと忙しそうに動き回っていた。

 誰もが振り返る美貌とパーフェクトボディに可愛らしいピンクのエプロンが映える。


「今日は慎之介の大好物!鶏の唐揚げだよぉっ!」

「だから何でうちで美彩が飯作ってんだよ?」

「美味しくなぁれっ!萌えm……」

「しなくていい!あと話を聞け!」


 美彩は満面の笑みを浮かべながら、鍋の中の油に衣を付けた鶏肉を投入していく。


お義母さん慎之介の母から『今晩遅くなるから慎之介の晩御飯よろしく♪』ってLINE来たの。」

「だから誰がお義母さんか。」


 てか何で美彩がお袋とLINEしてんだよ。

 無駄に若作りなんだよな……うちのお袋ってやつは。


「今日の唐揚げもお義母さんにレシピ教えてもらった、名付けて『慎ちゃんの大好物鶏唐』なんだよっ!」

「なんつーネーミングセンスの無さ……」

「まだもう少し時間掛かるから先にお風呂入ってきたらぁん♪」


 こんな時間から風呂なんか入れるか。

 俺はキッチンに溜息を残してから、階段を昇って自室へと向かった。


 まぁ予想通りだよね。

 いつも制服掛けてるハンガーには美彩の制服掛かってる。

 上着もスカートも。

 その真下には美彩の鞄も。

 さっき着てたTシャツとホットパンツは学校に持って行ってたのかよ。

 てか家隣なんだから帰って着替えて来ればいいのにって思うの。


 考えても仕方ない。

 俺は制服を脱いでスウェットに着替え、パソコンを立ち上げた。


 因みに言っておくが、以来ソッチエ○系の画像や動画は保存しないようにしている。

 どれだけ手間を掛けて収集し、どれだけ厳重に隠しても、どういうわけか美彩はそれらをあっさり見付けて削除してしまう。


(美彩はひょっとしたら世界的に有名なハッカーかもしれんね……)


 んなわけあるか。

 全教科俺より成績下のハッカーなんか嫌だわ。


『ご飯出来たよぉ~!』


 とか言ってる間に下から美彩の呼ぶ声がしたので降りて行くことにした。

 勿論、念には念をでパソコンはシャットダウンしてからだ。




「美味い。」

「ヤッタ!」

「お袋の味完コピ出来てる。」

「褒め過ぎだよぉ~!」


 何か体クネクネさせて照れてるけど、普通に可愛いなおい。

 美彩を褒めながら食べ進めていると、唐揚げの山の中に一際大きな唐揚げが姿を現した。


「このご褒美的に1つだけあるデカい唐揚げは何だ?」

「ふふふっ。男の子ってそういうの好きでしょ?そう思って作ってみたの。」

「こんなデカいのちゃんと火は通ってるのか?」

「あぁ、それは一口サイズで揚げてビッグライトで大きくしたやつだから大丈夫よ。」

「ビッグライト持ってんのか!?」

「持ってるわけないでしょ。」


 殴っていい?

 しかし、確かに美彩の料理は美味かった。

 それもその筈、うちに来てはうちのお袋に料理を教わっていたのだから、俺の舌に合う味付けになっているのも当然だろう。

 『男を掴むなら胃袋から』とはよく言ったものだ。

 ご飯3杯と溢れんばかりに盛り付けられた唐揚げの山はあっという間に俺の胃袋に収まっていた。


「ごちそうさま。」

「お粗末様でしたっ。」

「いやいや、マジで美味かった。」

「もぉ~、慎之介褒め過ぎだよぉ~……そんなに褒めて私をどうするつもりぃ~?」

「酔わせてどうするみたいに言うな。」


 俺は食器を重ねてシンクへと運ぶ。


「食器は俺が洗うから持って来てくれ。」

「あぁ~ん♪もぉ慎之介ったら理想の旦那様じゃないのぉ~♪」

「理想の旦那様は黙って食器洗い乾燥機買って来るんだぞ。」

「それは愛の巣に移ってからにしましょっ。」


 表現が古いな。

 『愛の巣』って何だよ。

 蜂かおめぇは。

 分蜂でもすんのか?


「こっちはいいから美彩は宿題でもやってろ。」

「いゃぁん♪『こっちはいいからオマエはゆっくりしてろ』だなんてぇ~もぉ~慎之介カッコよすぎでしょぉ~♪」

「ゆっくりするんじゃなくて宿題しろって言ったんだよ。」

「でも慎之介にだけお仕事させるの悪いからぁ私お風呂洗ってくるねっ。」

「聞けや。」


 美彩は少し大きめのスリッパをパタパタいわせながらバスルームの方へと行ってしまった。

 あれだからいつまで経っても成績が伸びないんだ。


 成績と言えば、俺たちもそろそろ進路の事を考えないといけない時期になってきた。

 俺が目指しているのは地元の国立大で先日の模試でもB判定を取っている。

 普通にこのままいけば安全圏だ。

 しかし美彩はと言うと、あの成績では『大卒というレッテルを貰いに行くだけの大学』ですら怪しい。




「美彩は高校卒業したらどうしたいんだ?」


 風呂を洗い終わってキッチンに戻って来た美彩に尋ねてみた。


「どう……って何が?」

「進路だよ。大学行くとか就職するとかあるだろ?」

「勿論、慎之介のお嫁さんになるよ。」


 小学生かよ。


「……と言ってもまだ色々と身に付けないといけない事あるからねぇ。」

「何を?」

「そりゃあ慎之介のお嫁さんになる為のスキルだよ。」

「スキル?例えば?」

「お料理でしょ。お裁縫でしょ。お華にお茶、お習字も必要かなぁ。」

「どこの良家に嫁ぐつもりだ。」

「あっ!あとパソコン!」


 人のパソコンのセキュリティ潜り抜けて俺の汗と涙の結晶エ○画像&動画をあっさり見付けて削除出来るスキル持ってるのにか?


「まぁ、ちゃんと考えてるならいいけど。」


 食器を洗い終えると同時に、バスタブにお湯が張り終えたのを教えるアラームが鳴った。


「あ、お風呂の準備出来たね。慎之介入ってきたら?」

「そうだな。美彩はちょっとでもいいから宿題片付けとけよ。」

「はぁい。」


 そう言うと美彩はまた大きめのスリッパをパタパタいわせながら2階へと上がって行った。

 俺はバスルームへ向かうとさっさと服を脱いで風呂に入った。


 昔は『一番風呂は家長』なんてのがあったらしい。

 一家の大黒柱には誰も使っていない最も綺麗な状態で風呂に入って貰う、というのが主旨らしいが、冬場は暖かい部屋から冷えた脱衣所、そしてまだ誰も入っておらず温まっていないバスルームへと、移る場所の温度差が大きいのもあってヒートショックを起こしやすいとか聞いた事がある。

 まぁそれでも風呂は気持ちいいもんだ。


『湯加減如何かしらぁ?』


 バスルームの磨りガラス越しに美彩が声を掛けてきた。

 宿題しろと言って妙に素直だと思ったらこれか。

 Tシャツってベージュじゃなかったよな?

 ホットパンツもベージュじゃなかったよな?


「んぉっ!?あっあぁ!ちょっちょうどいいぞ!」

『そう。良かった。』


 ガチャッ


「だぁっ!何開けてんだよっ!?」


 少し空けた扉の隙間から美彩が顔を覗かせた。


「なっなに覗いてんだっ!」


 慌てた俺は湯船に口まで浸かってワニかカバのように目だけで美彩のニヨニヨする顔を睨んだ。


「お背中流しに来ましたぁ~。」

「誰も頼んでねぇよ!」

「まぁまぁ遠慮なさらずに。前はよく一緒に入ったじゃん。」


 扉がゆっくり開かれていくが俺の所からは相変わらず美彩のニヨニヨ笑顔しか見えない。


「遠慮とかじゃねぇし前って15年も前の話じゃねぇかっ!」

「よく覚えてるねぇ。」


 完全に開かれた扉から、美彩の真っ白つるつるの足がにょきっと出てきた。


「じゃーんっ!」


 と、美彩がバスルームの中にぴょんっと飛び込んで来た。

 ベージュ色のバスタオルを体に巻いて……。


「びっくりした?ねぇびっくりした?」


 きゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ美彩。

 俺はほっとすると同時に少しだけがっかりしていた。

 ホントに少しだけだからな。


「折角だし久し振りに一緒に入ろうよ。」


 俺は湯船の中で美彩の方を向かないように体の向きを変えた。

 だが、狭い我が家のバスタブ……向きを変えると言っても微妙なもので、首の角度を変えなければ視界の隅に美彩の白い肌が映り込むこと必至。

 じゃあ首の角度を変えろって?

 勿体無いこと言うな。


「お、俺は先に出るから、ゆ、ゆっくり入ってろ。」

「そんな冷たい事言わずに。ささ、背中流してあげるから出ておいでよ。」

「出られるか。」

「どうして?」

「どうしてもだ。」


 美彩はバスタブの縁に手を掛け、俺の方に体をぐっと寄せてきた。


「いいじゃんたまには。裸の付き合いって大事でしょ?」

「それは同性同士で言うもんだよ。」

「もぉ!固いんだからっ!」


 言って美彩は俺の肩に手を置いて体を美彩の方へ向かせようと引っ張ってきた。


「ちょっ!?」


 水の浮力って凄いな。

 美彩がちょっと力入れただけで俺の体がぐるんって回っちまうんだぜ?


「んぉっ!?」


 目の前に広がる二つの真っ白な山と間の深い渓谷。

 んなもん見せられたら余計出られなくなるじゃないか。


「あ~、慎之介、顔赤くなってるよぉ?」

「の、のぼせたんだ……」


 顔を背ける俺の横顔に美彩が顔を近付けてくる。


「えっち。」

「ばっ!?なっ!?おっオマエが入って来るからだろがっ!健全な青年男子なら当然の反応だっ!」


 美彩は相変わらずニヨニヨとした笑顔で俺の目をじっと見ていた。


「そうだねぇ。慎之介も高校男子。健全な男の子だもんね。」

「もっ勿論だ……」


 少しずつ顔を近付けてくる美彩の吐息が耳に掛かってきた。












「でも……スマホの画像フォルダ内にも『REKISHI』ってフォルダ作って画像保存するのはどうかと思うよぉ?」












「えっ?」




 俺はバスタブで勢いよく立ち上がった。


「きゃっ!!」


 美彩が短く悲鳴を上げたがお構いなしにバスタブから飛び出しバスルームを出て、タオルドライすらせず自室に駆け上がった。

 いくら美彩でも指紋認証にしてあるスマホのロックは外せる筈がない。








 スマホに作った筈の『REKISHI』フォルダはどこにも無かった。




「なぜだぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は風呂のお湯が滴るまま、全裸で叫んでいた。

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