Was it all a dream?

 ……Alymereが目を覚ますと、そこはいつもの寝室だった。最低限の調度品と、立て掛けらたままの武具。月明かりの差し込む小窓には、中性的な顔立ちをした、一人の騎士が立っていた。

「……ようやく、目が覚めたか。Sir Alymere」

 氷色の髪をした彼は、Alymereが体を起こしたのを確認すると、少なからずも安堵した。馴染の背丈と水色の瞳が、Alymereの方へと近づいて来る。

「貴方は悪い魔女に騙されて、二十四日もの間、ずっと眠り続けていたのだ。このまま年が明けてしまうかと思ったが……、魔法が解けて、本当に良かった」

 Alymereは未だ判然としない視界で、ちらりと彼の顔を見た。彼の名前はBedivere。Alymereと同じ王に仕える、円卓の騎士の一人だ。あまりに寝すぎたからだろうか、何だか妙に懐かしい。

「……実におかしな夢を見た」

 Alymereは自分の頭を押さえながら、ぽつりぽつりと語り始めた。夢の欠片を拾い集めるように、ぽつりぽつりと。

「夢の中の私は、まるで幼子のようだった。知らない兄を持ち、知らない街を歩き、知らない友人と戯れた。知らない食べ物を作り、知らない飲み物を口にし、知らない書物を嗜んだ……」

 Bedivereは口を挟むことなく、彼の話をじっと聞いている。部屋を覆うろうそくの明かりだけが、ちらちらと色を揺らした。

「……全ては魔女の見せた、ただの幻想にすぎない。だがたった一つだけ、私の知る真実があった。私の夢の中に、Merlinが出てきたのだ」

 彼がそう言うと、Bedivereは思わず目を見開いた。Merlinは彼らの王に仕える魔術師だったが、数年前に城を去って以来、全くの行方知らずになっていたのだ。

「それは本当か、Sir Alymere? 彼はまさか、夢の世界に閉じ込められているのか?」

「いや、それは違うな……。私が思うに、彼はここではない、どこか別の世界にいるのだ」

 Bedivereは首をかしげていたが、Alymereにははっきりと分かった。Merlinは二度と、王の下へ帰って来ることはない。しかし、皆が彼を信じる限り、彼は必ず姿を現す。ここではない、どこか別の世界に。

「ふむ、そうか……。私にはよく分からないが、貴方の気持ちに整理がついたのなら、それで良い」

 Bedivereはそう言うと、Alymereを起こして身支度をさせた。時はクリスマスを終えた大晦日。宮廷内の人々は、年越しに向けた宴の準備に大忙しだった。

「厨房を任されたSir Kayが、先ほどから騒がしくてな。盛りつけを済ませたはずのうさぎ肉のソテーが、いつの間にか消えてしまったらしい」

「そういうこともあるだろう。全く、この世は不思議なことだらけだ」

 支度を終えたAlymereは、Bedivereの先導の下、大広間へと歩き出した。彼の目覚めを待ちわびた、偉大な王に会うために。

 ……もうすぐ新しい年が来る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

Futile questions and their answers by a legendary British wizard 中田もな @Nakata-Mona

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ