第4話:もう二度と

 行為が終わると、彼女は私の目隠しを外して、私を抱き寄せた。ごめんねと優しく頭を撫でられて、恋人から暴力を振るわれても離れられない人の気持ちがなんとなくわかったような気がした。


「莇はさ、好きな人に好きって言われたくないんだよね」


「うん」


「何かトラウマとかあるの?」


「よく聞かれるけど、ないよ。なんというか……画面の中のキャラが急に自分に話しかけてくるような感じ?」


「あー……あれ私も嫌だわ。世界観が壊れるっていうか……」


「……私のこれは、やっぱり恋愛感情とは違うものなのかな」


「さぁ……どうだろうね。恋愛感情なんて定義が曖昧なものだし、莇が決めればいいんじゃない?」


 彼女は違うとはっきり言わなかった。否定も肯定もしなかった。そういうところが好きだと思った。それを伝えると彼女は「ああそう」と複雑そうな顔をした。




 彼女との、いわゆるセフレのような関係は高校を卒業しても続いたけれど、卒業する前と後では会う頻度は格段に減った。

 そして、終わりは突然にやってきた。彼女から好きな人が出来たと告げられたのだ。


「そっか」


 寂しくないわけではなかった。けれど「君が幸せになってくれれば私も嬉しい」私の口から出たその言葉は、嘘ではなかった。すると彼女は泣きそうな顔をして、私を抱きしめた。そして私の肩でぽつりと呟く。「君だよ」と。意味がわからなくて聞き返すと「君が好き」と彼女は言う。そして「ごめん」と謝ってから、私の唇を奪った。私は反射的に彼女を突き飛ばしてしまった。「どうして?」と彼女は悲しそうな顔をする。それはこっちの台詞だった。

 好きにならないって言ったのに。君は私を理解してくれると思ったのに。出かけた言葉は引っ込んで消えた。代わりに出たのは謝罪の言葉だけだった。

 彼女とはそれきり、話すことも無くなった。初恋の時と同じだった。どうして私はこうなんだろうと自分を責め、次に恋をした時は誰にも言わずに内に秘めようと心に決めた。

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