第5話 第三話

父の死から一ヶ月が過ぎた。


4月の終わりだと言うのに、今日は暑い。もう真夏日になっている。


これまでの一ヶ月間。

おじさんや、おばさん達と俺は話し合いを続けた。その内容は「父さんがいなくなって俺一人だけの家をどーするか?」

そして、俺の住む家は、おじさん達の家になるのか?それとも、父と暮らしたこの家になるのか?ーーそんな会議が日常的に繰り返された。

その結果俺にとって最善の方法で決まった。


父と暮らした家は維持してくれると言う。

しかし、俺が仕事をし始めるまでは、おばさんの家で暮らす事になりそうだ。


ゴールデンウィークには、必要な物だけをもって、おばさんの家に行かなければならないだろう。

俺は荷造りを手伝わなければ行けない。

なぜなら、父の遺品だけは俺が大事にしておきたいからだ。


まず、俺は父の遺品を整理することにした。


個人的に、父さんが大切にしていたものに興味があった。


ーー父さんの宝箱には、一体何が入っているんだろう?


始めに目についたのは、父さんと見知らぬ女性、そして幼き日の俺がいる写真だった。

写真はそれ一枚だけの様だ。

「これーー俺だ」

思わず俺は笑ってしまった。

だって、家族、皆がとても幸せそうだったから。


ここに一枚の写真がある。

もう戻れない過去を写した写真。


感傷に浸りながら、俺は父さんの宝箱の整理を続けると、次に出てきたのは、母さんとの婚姻届だった。


ーーそーいえば、今まで父と二人の生活が当たり前のもののように思えてたけど、、母は一体どこにいるんだろ?

なぜ、今まで母の存在を気にする事なく生きてこれたんだろう?


ーー今、母は一体何をして、どこで暮らしているんだろうか?


その日。

俺は母が一体どんな顔で、どんな体格の人だったのか?

考えてみた。


物心着いた時に母はもういなかったのだろうか?いくら考えてみても、思い出そうとしても、母の姿は記憶の片隅にも出てこない。


一枚の写真ーーここに写っている黒髪で細身の女性。

この人が母なのだろうか?


市役所に出すはずの婚姻届を、父はなぜ大事そうにしまっていたんだろう?


父の宝箱には、到底、理解出来ない物が入っている。


その他にあったのは小さな箱だ。

蓋を開けて見てみる。

そこには指輪がしまわれていた。

誰のものなのか?誰に届けたものなのか?ーー

不思議でしかない。


更に調べていくと、今度は灰皿が出てきた。

父は、もーずっとタバコなんて辞めていたはずなのに。


そして次には「健吾へ」と書かれた封筒。

差出人の欄には何も書かれていない。


恐る恐る俺はその封筒から、中身を抜き出した。

そこには、、。


「山崎 太郎。出版社勤務」

「沢田 昌平(しょうへい)。教員」

「藤田 しげる。プログラマー」

「中山 謙(けん)。公務員」


それだけが書かれていた。その紙切れに一体何の意味があるのか?ーー俺は不思議だったが、よくわからなかった。


調べてみよう。

父の死の真相をーー。

多分、あの四人の名前が書かれた手紙。

それはきっと、父からのメッセージ。


もう言葉すら出せない父からの手紙なんだと俺は思った。


父の宝箱には、それだけがカラカラと音を立てている。


ーーそれらすべてに、一体どんな意味があるのか?父の人生を辿ってみたい気がした。

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