第5話 夢物語を編んでいく04



 キサキ達は賑やかな日々を送っていく。

 ミシバがいて、カオルがいて、クラスメイト達がいて。


 成長途中だけれど、向かうべき目標がある。


 そんなに日常が。


 しかしそこに一つの変化が訪れる。


 翌日、彼等の教室に、一人の女性がやってきた。


「初めまして、未来の退魔士の皆さん、私の名前は……」







 そこまで聞いたところで、恵子は隣の少年の異常に気付いた。


「妃君?」


 意識がもうろうとしているのか。


 呼吸のリズムが崩れ始めていた。


 肩をゆすると、少年が反応する。


「あ……大丈夫だ、姉さん。悪いな、続き話すぞ」

「でも、これ以上は……」

「平気だって、俺美人の姉さんと話してる方が頑張れるから。ほら、もっとお話しようぜ」








 メグミ・ウェストナー。


 それがキサキ達のクラスにやってきた女性の名前だった。


 自分達より少し上の年上の女性。

 白衣を着こんで、寒がりなのかその下には厚手の服を着こんでいる。スカートは控えめな薄緑色。


 薄く化粧のほどこされている表情は美女と評するまではいかなくともそれなりに整った顔つきだった。


 彼女は凛とした表情で、子供であるキサキ達を見つめて自己紹介。


 一人一人の顔を確かめた後、自身の目的を話す。


 メグミは、魔物と戦う為の道具『滅具』のチューニングをするために各地のデータを収集する必要があった。

 なので、そのデータ採集中の護衛をキサキ達に頼もうというのだ。


 危険度は少ない。

 彼女の述べた地域は、魔物が少ない場所だから。

 そうでなければ、プロでもない学校の生徒……ヒヨッ子の中のヒヨッ子であるキサキ達にこのような依頼はこないだろう。


 メグミ・ウェストナーという女性は、自己紹介をした後も教室に残って後ろの方で作業していた。

 自前のノートパソコンのキーボードを打ちながら、時折り授業を受ける者達に視線をなげかける。


 キサキが茶々をいれれば、


「私は私の安全を任せる人達のことを知りたいんです。武器の研究と開発をすることが私の仕事ですけど、それだけのつきあいなんてさみしいですから」


 と、彼女はそう言った。


 それがメグミのやり方なのだろう。


 メグミはその一日を、自分の命を預ける……キサキ達がいるこの教室で過ごすというのだ。


 放課になるとメグミは手を止めて妃達と同じタイミングで休憩を取る。


 そんな彼女へ一番に話しかけたのはミシバだった。


「メグミさんはなんで滅具の研究してるの?」

「私がそれをやりたいと思ったからよ」

「なるほど! 私も退魔士になりたいからなったんだよ」


 年上に躊躇なくため口を聞くミシバ。

 親しみやすいといえば聞こえはいいが、悪く言えば礼儀がない。


「ミシバ、姉さんには敬語使えよ、仮にもクライアントなんだぜ」

「えーっ、いいじゃん。メグミさんも良いって言ってくれたよ」

「良いって言ってくれたからって何でもかんでも良くなる世の中じゃねーよ」

「そうなの?」


 ミシバは心の底からそう思っているかのような表情で、きょとんとする。


 キサキは頭痛をこらえた。


 そして、ついでに哀れみの視線を注いだ。


「これからの人生大変だろうけど、強く生きろよ」

「何だかよく分からないけど、私は強いもん」

「だろうな」


 その精神性は、ある意味最強だった。


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