第4話 夢物語を編んでいく03



「もぉーっ! キサキってば、ひどいよぉ」

「いやー、大変だったなぁ」


 数分後敵をしっかりと片付けて、キサキ達の元へ戻ってきたミシバ。

 文句があるとでも言う様な顔で口を開くのだが……。

 キサキは、頬を膨らませるそんな彼女の肩に手を置いた。


「でもお前ならやってくれると思ってたよ、俺はお前の力を信じてたからな」

「えっ、そ……そう?」

「ああ、ばっちりだたぜ! すげぇすげぇ」

「そ、そうかな……」


 それはキサキの手だったが、のせられているとも知らずに、ミシバは素直に喜び続ける。


「ああ、そうだよ。超期待通り、超天才、まじすごい」

「えへへ……」

「だからその調子で残りの敵も頑張ってくれよ」


 そのような会話を経て、残りの敵の始末もさらりと押し付けようとするのだが……、


「う、うん、分かった。まかせ――……」

「ストッーーープ」


 ……そうする前に制止が入った。

 先程助太刀に入った少女、カオルが二人の間に割って入る。


「キサキてめぇ、押し付けてんじゃねぇよ」

「えっ、あたしおしつけられてた!?」


 驚愕するミシバは気づいていなかったらしい。

 彼女は天然だったが、今に始まった事ではなかったので誰の話題にも上らなかった。


 キサキは気まずげに頭をかく。


「あー、まあな。でも本気じゃねぇよ。ミシバの奴、打ち合わせと違って、一人で戦っちゃってたし」


 そして、ミシバへ会話の矛を向けた。


「うっ」

「あれ、俺頼んでないよな?」

「ううっ……」


 二の句を告げられないミシバの顔をじっとキサキは見つめ続ける。

 数秒もしない内に、ミシバは耐えかねたように、頭を抱えてその場に座り込んだ。


「うわぁぁぁん、ごめんなさぁぁぁい!!」


 頭を振りながら己の行動をもう反省しはじめる兎の様な少女。

 橋から見れば、イジメている様にも見えなくない光景だったが、他の面々はそんな景色に慣れていて、これといった手出しなどはしなかった。


 だが、そんな中で一人だけその空気に割って入る人間がいた。


 カオルだ。


「キサキ! 今度はアタシに囮やらせろ!」

「い・や・だ」

「何でだよ!」

「何でだよってお前なぁ……」


 キサキはため息をつく。


「ふ、二人ともぉあたしを挟んでケンカしないでよぉ」


 このまま巻き込まれてはたまらないと退散しようとするミシバだが。

 カオルの拳がミシバの横を通り過ぎてった。


「ひぃっ!」


 キサキへ殴りかかったのだ。

 ぱしっ。

 キサキはそれを手で受け止めている。


「ひぇぇぇぇ」


 ミシバは反転、反対側からにげだそうとするが。


「理由を言えっ!」


 びゅん。

 ぱしっ。


「ぎゃあっ!」


 その反対側も拳がとおりすぎていった。

 結果、キサキとカオルの二人が取っ組み合うようになった姿勢の中に、囲いこまれてしまう。


「あわわわわ」


 キサキとカオルは

 両手を使って互いを押し合ってる状態だ。


 火花を散らしながら互いににらみ合い続ける。


「馬鹿キサキ」

「カオル馬鹿」

「っ、ファミリーネームみたいにつけんなこのキサキ馬鹿」

「言ったな、だったらこっちも言うぞ、薫・馬鹿。アホーヌ」

「あんだとぉ」


 事の発端となったミシバは涙目で見つめるものの、解決策が思いつかないでいた。


「ふ、二人ともぉ……」


 挟まれた状態で無視されるミシバは思いつく。

 これは、しゃがんで逃げ出せばいいのでは、と。


 そう思って彼女は姿勢を低くするのだが、遠くからやってくる大量の何かが視線に入った。


「んん?」


 ミシバは、じーっとそれに目を凝らす。


「んーーーー?」


 そして、やや時間を費やしてから、その正体に気付いた。


「んんんっ!!」


 それは、ここに来る前にミシバが途中でうっかりまいてしまった魔物の軍勢だった。


「たたっ、大変だよ二人とも! あっちあっち魔物!」


 結果だけ言うと、キサキ達はその軍勢をかたづけるのに、一時間もかかってしまった。







 その結果を遠くから観察していた人物は、当然お冠だ。


「この馬鹿どもがっ! 新米でももっとマシな結果をだせるわ!」

「あでっ」


 キサキ達は、赤点をもらったついでに担当教官のゲイルに拳骨を落とされた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る