第53話 茶番劇 終幕
「使徒様、平におゆr「認めん、認めん!、私は認めんぞー!!」」
渾身の力を込め王がその口から詫びを紡ごうとした瞬間、それを遮る声が響いた。
「貴様などが使徒であるはずがない!そんなことはあってはならんのだー!!」
そう叫ぶ司教の体に変化が現れる。
纏った僧服がはじけ飛び、その下から現れた体は肌が赤黒く変色しながら膨張していく中、その口からは苦痛とも喜びともつかぬ叫びが吐き出される。
『グロロロロロ!!!』
破壊された壁の間から魔力が流れ込み、黒い靄へと変わり司教を覆い隠す。
靄が消えたその場所に立っていたのは嘗て司教であったであろうもの。
蛙のような頭を持つ暗い土色のヌメる肌をした巨大な化け物だった。
「ゲロゲーロ!」
どこの師匠だよ!
魔物へと変貌を遂げた司教が襲い掛かろうとした瞬間、俺は右手に集めた力を躊躇なく魔物目掛けて放った。
光の槍と化した力が魔物の腹を貫き風穴を開けるが勢いは止まらず、腹からドブ水のような体液をまき散らしながら俺に向かって飛び掛かってくる。
しかしそんな執念の攻撃さえも
『グシャ』
そうして魔物は動きを止めた。叩きつけた場所から広がる白い大理石の床のヒビが衝撃の激しさを物語る。
やっぱりピョン吉は平面じゃなきゃね。
『フン、使えない』
悪意の波動を伴ったその呟きは何故か聞こえるはずのない俺の耳に響いた。
声のした方を振り向くと、壊れた壁のはるか先の塔の上に立つ人影が見える。
その金色の双眸で俺を射抜くように見つめると黒い翼を広げ飛び去っていった。
新たな魔族。
一瞬、追いかけるべきかとも考えたが今は無理だ。
何故なら恐らく奴の力は精神支配系の能力だから。
司教は欲に溺れた隙を突かれ既に操り人形となっていたのだろう。
それならば司教の強引とも思えるやり口にも納得できる。
まったくの自業自得だから同情はしないけど。
残念な事に俺の精神支配系魔法への耐性が試せていない。
物理攻撃であれば武器だろうが魔法だろうが区別なく防げているが、精神に干渉する類の攻撃はどうなんだろう。
単純に今まで周りに使い手がいなかったからなのだが、不明のまま対峙するにはリスクが高すぎる。
早目に確認して対策を講じておかないと痛い目をみそうだ。
あっ、でもそれじゃ魔法関係なく鼻の下が伸びそうだな。(エロボケ)
今回の事で判明したことが一つある。
悪意のこもった魔力により人間が魔物化するという事実。
全ての人類が可能という訳ではないのであろうが司教は間違いなく魔物となった。
今も砂に変わらないところをみると魔族とは違うようだ。
きっかけは恐らく黒く歪んだ怨讐とでも呼ぶべき情念。
人間の心の負の部分が魔族に利用された結果だろう。
醜い外見の魔物が元は自分と同じ人間かもしれない。
肩を並べる隣の人間が突如として魔物に変わるかもしれない。
そんな不安の中で人は互いに信頼し、協力して魔族と戦っていけるのだろうか。
これこそ神の与えたもうた試練ではないのか。
いや、
「さて王様。邪魔が入って司教さんはこんなことになっちゃったけどどうします?」
ほとんどが呆然と声を上げる事もできない謁見の間に俺の声だけが響く。
「は、はい。直ちに不届き者共を排除し、このような使徒様への無礼が再び起こらぬよう努めさせていただきます」
俺の問いかけで現実に引き戻された王様は玉座を降り跪いて謝罪の言葉を口にした。
「ですので、これからもこの国の為に是非ともお力をお貸しいただきたい」
「使徒様云々はどうでもいいけど、魔族がここまで入り込んでるんだから大変だよね。だが断る!!!」
「何故!今回の事は伏して謝罪いたしますので」
「みんな勘違いしてるよ。俺は確かにスクラから使徒になれって言われてるけど、その時に頼まれたのは、この世界を救ってくれって事だよ。
この国、ましてや王様や貴族を救ってくれって言われた訳じゃないんだから」
「なっ……」
「大体、今みたいに周りの目を気にして肯くだけの王様とか、好き勝手やって威張り散らすだけの教会や貴族が幅を効かせて民衆を顧みる事もない様な国、魔族が攻めてこなくても滅びるでしょ」
圧倒的な力を見せつけた使徒からの衝撃的なダメ出しに言葉を失う王を尻目に言葉を続ける。
「民衆だって馬鹿じゃない。
王様たちは国があっての民だと思ってるんだろうけど、俺は民があっての国だと思ってる。
民は生きようと思えばどこでも生きられるけど、ここに居る人達は民がいなけりゃ生きて行けないでしょ?
だから権力闘争に明け暮れるだけで、民の幸せを願わない、努力しない国や貴族なんか護る気はないからね。
もう一度言うけど俺が頼まれたのは世界を護る事。
世界のためにならないなら力を貸すことは無いし敵にもなるからね」
「……黙って聞いていれば好き放題言いおって。お前のような若造に何が分かる!」
おっ、地雷踏んだか?
変なスイッチ入れちゃったかも。
「分かりません。でもこの惨状が一つの結果で事実でしょ?」
「私が今までどれだけ民の事を思い心を痛め、この身を削って来たと思っている!
言いたいことも我慢して必死に国が乱れるのを防いできた苦労などわからんだろうに」
「それ民衆に伝わってないんだから意味ないでしょ。仮にそうだったとしても教会や貴族に好き勝手させていい理由にはならないんじゃない?ならやり方変えなきゃ」
「全てを民衆の意志に迎合しては政などできん!」
「それこそバランスでしょ。民衆は馬鹿じゃないけど滅茶苦茶賢い訳でもないんだよ。時には分かりやすく示す事も必要だと思うけどな。それが出来ないならせっかくの苦労も王様の自己満足だけで終わっちゃうよ」
王様とのやり取りを無言で聞いている貴族たちを見回す。
「女神が決めたのなら俺は戦う事になるんだと思います。女神の望む世界の敵と。ですから皆さんが女神の望む道を歩む正しき者であることを祈ります。できれば人とは戦いたくありませんから」
宰相と居並ぶ貴族の何人かが前触れもなくいきなり後ろに吹っ飛んだ。
念動で飛ばしただけだから死んではいないだろう。
「王様は知ってるのかもしれないけど、こいつらはクロだよ。こんな人たちが中枢でのさばる事を許すのはいい事じゃないね。そのうち司教みたくなっちゃうかもよ。処理は任せるよ。がんばってね」
そうして俺は瞬間移動でその場を後にした。
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