第45話 渡り人

 優秀な馬たちのお陰で8日もかかった往路を3日でローバーまで帰って来た。


 休憩を挟みながらの速足だけど徒歩とは雲泥の差だ。


 疾走する馬を襲う魔物もいない。うろちょろしてたハグレの小鬼は三匹ほど轢かれてたというか轢いたけど。道にゴミが落ちてたら片付けなくちゃね。


 街の入り口の検問はもちろん伯爵様の御威光でスルーでした。いや、キースさんが先に入って事情説明してるからかな。


 街中は騎乗は許されているものの並足以上のスピードは出せない。金魚のフン状態で進んでいくと辿り着いたのは宮殿のような建物。


 侯爵邸らしいがこれが家なの?貴族すげー!

 爺さん何者だよ!あっ、侯爵か。


「エリュシオン王国第三軍団長ロベルト・ソーンバーグだ。キース殿が先に来ていると思うがルカ・サルバトーリ侯爵に目通り願いたい」


「はい、申し遣っております。どうぞお通り下さい」


 敷地の入り口にいる衛兵に伯爵が名前を告げると、一人がすっ飛んで中に入っていき、もう一人が玄関まで先導してくれた。


 馬を預けているうちに中からthe バトラーな髭の紳士が現れ応接室まで通してくれた。


「ジン様とマッテオ様はこちらで暫時お待ちください。ソーンバーグ様はこちらへお願いいたします」


 伯爵が執事さんといなくなると可愛いメイドさんがすかさずお茶を淹れてくれる。


 VIP待遇とはこんなに気持ちいいものだったのか。癖になりそう。




 ロベルトが一人案内された部屋には館の主人が待っていた。


「ロベルト久しいな。息災なようで何よりだ。砦はどうだ?」


「ルカ様、ご無沙汰しております。厳しい現場で先行きも見えずと言いたいところなのですが何と言いますか…」


「よいよい、みなまで言うな。卿が砦を空けてまで態々出向いてくれたのだ。要らぬ仕事を頼んで済まなかったな。用件はジンだな?」


「はい。一体彼は何者なのですか?」


「それを私も知りたいのだよ。ジンは砦で何をした?」


「砦に攻め寄せる魔物を焼き払ったうえでザルタンと名乗る魔族を討ち倒しました」


「……ふふふ、ハハハハハ」


「ルカ様、笑い事では…。信じ難い事ですが私がこの目で見届けた事実ですので」


「いや、すまん。なるほど、そこまでであったか。信じぬどころかこれで納得できた」


「納得?何にですかな?」


「ジンは女神様の使徒様だということにだ」


「女神様の使徒!」


「そうだ。卿には話さねばなるまい」


 そうしてルカが語った神託からの一連の話にロベルトは頷く事しかできなかった。


「なるほど。それでジンに自由にさせろと仰ったのですね」


「そうだ。本人が何と言おうとその力が示すものは使徒様以外ではありえん。たとえ信徒でなく、適性鑑定で何も出なくてもだ」


「確かにその通りですがそれを教会が認めますか?」


「既に教会が認める認めないの話は問題にならん。使徒様以外の誰が魔族を討てるというのだ。西の森の実績をもって全てを認めさせるのが我らの仕事であろう?」


「しかし教会を無視する訳には」


「渡り人」


「え?」


 突然の老侯爵の呟きにロベルトは思わず聞き返してしまった。


「時折現れ未知の知識や技術を齎す者。それらの者は強力な魔法の使い手であったとも言われておる。ジンが渡り人であるなら鑑定に何も出ない理由としては十分ではないか」


「私も知ってはおりますが、しかしそれは単なる伝承ではありませんか」


「いるのだよ。王家がその詳細を公表していないだけでな。古くは王家にその血を残した者もいる。王家の側近同様に教会でも大司教には伝えられているはずだ」


「何と!」


「近辺の村でジンの足跡を当たったが何も出てきておらん。なら彼はどこから来たのだ?これだけの力を持ちながらその足跡を一切見つけられぬなど考えられん。ならば突然現れたと考えるのが自然ではないのか?それこそが正に渡り人の証左であろうよ」


「……」


「今、我らが成さねばならんのは使徒様と共に魔族の侵攻に備える事だ。そのためにソーンバーグ伯爵、卿にも協力してほしい」


「はっ」

(良かった〜、丸投げしても問題なさそ)


 ロベルトは一旦立ち上がると膝をつき頭を垂れた。


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