第43話 諦める
『ゴゥン〜〜〜』
突然響いた音にロベルトが歩みを早めジンの部屋に向かうと丁度ミラが部屋から出てくるところだった。
「聖女様、何かありましたか?」
「あっ伯爵様。いえ、護衛の冒険者がこちらにいると伺ったので様子を見に来ただけですわ」
「そうでしたか。怪我人達の具合はどうですか」
「ええ、大きな怪我の方もいらっしゃらないので聖堂は落ち着いています」
「それは良かった。既に戦いは収まりましたから以後も宜しくお願いします」
「お任せ下さい。それでは失礼いたします。おほほほほ」
そんな部屋の前の廊下でのやり取りを聞いていたジンは思った。
(ネコの被り方パネェ。女、怖っ!やっぱりこの聖女怖っ!)
聖女との立ち話を終えたロベルトは部屋に入ってきた。
うん、熊感マシマシの黒鎧姿のままだ。
「どうだジン、少しは休めたか」
「ええ、おかげさまで。外はどうですか?」
「見える範囲で魔物の姿は無い。斥候部隊を出したからそれの報告待ちだな」
「じゃあ一安心ですね」
「そうなるな。お前のお陰、でいいんだよな?」
「そこは兵士の皆さんの頑張りでしょう。伯爵もミノの首落としてたし」
「マット、お前はジンのあの力知っていたのか?」
「こいつが以前にやらかした時に一度見てますから少しは知ってるつもりだったんですけど、あんなとんでもねえ魔法はもちろん知りません」
だからやらかしたとかイメージ悪すぎです。
もう少しオブラートにグルグル巻きにした表現を希望します。
「うむ。ジン、あの魔法は何だ?この砦にも魔法士はいるし魔法士団長の術も見たことがあるがあの魔法は全く分からん」
「私も聖属性の魔法であること以外はよく分かりません(ウソではない)」
「聖属性か。治癒回復以外の使い手は少なく謎が多い分野ではあるが…。そうだ、あの最後の化け物は何だったんだ?」
「にょr、ゴホン、ザルタンとかいう魔族だと名乗ってました」
「ザルタン!帝国が討伐に賞金を懸けている魔族と同じ名なのか」
魔族の侵攻を受けているのは我が国だけではない。多くの国で魔族は現れており、中でも帝国での戦いは有名だ。
多くの戦場はここと同じく攻め寄せる魔物を食い止める受け身な戦闘に終始しているのだが、その中で強力な軍事力を誇る帝国は皇族である第一皇子の指揮の下、大軍をもって攻め込んだのだ。
その結果は戦力の6割を失うという大惨敗。その戦いの中心で帝国兵をいたぶるように殺し尽くしたのがザルタンという名の魔族だった。正に藪をつついて蛇を出してしまった形だ。
その場景は余りにも壮絶であり、生き残った兵士は今も悪夢にうなされる夜を過ごすと聞く。
しかしその後の防衛戦ではザルタンは姿を現すことなく、今もこの西の森同様に膠着状態が続いているのだ。
攻め込めば化け物が出てくる。
この結果により他国でも積極的な作戦行動がとられなくなり、防戦に徹するようになったと言っていいだろう。
「それを倒したのか?」
「砂山になったんで多分…。あっ、これ多分魔石じゃないかと」
これくらいはいいだろうとザルタンであった砂山から拾った石を取り出す。
取り出されたテニスボールほどの大きさがある紫色の珠は通常の魔石がゴツゴツと割れた石のように角がある形なのに対して綺麗な球形をしていた。
その大きさはホブゴブリンと比較しても遥かに大きい。
(この魔石の形、色、大きさ。こんな魔石は見た事もない。やはりこれは無理だな)
魔族が出てきたただけでも大事なのに、その魔族が帝国の仇敵であり、更に倒したとなれば事は既に国としての対応が必須な状況だ。軍団長の職権などとっくに超えてしまっている。
(うん、潔く諦めよう。元々この非常識を寄越したのはルカ殿だ。この事態を丸投げしても文句は言われんだろう。…多分)
「よし、分かった。偵察の結果にもよるが、ジンとマット、後はキースか。二、三日中に私と一緒に王都へ向かうからそのつもりで準備をしておいてくれ。まずは途中のローバーのサルバトーリ侯爵のとこだがな」
「王都!何しに行くんですか?」
「報告する為に決まってるだろう」
「それ伯爵だけで何とかなりませんかね?」
「無理だな。王に謁見するかもしれんのだぞ。当事者がいなくてどうする。何だ嫌なのか?」
「嫌というかあまり目立つことはしたくないんですよ」
((あんな派手な事やらかしといて今更何言ってんだコイツ))
視線を交わすだけでマットとロベルトは通じ合えた。
(ハゲと熊なんでBLじゃありません)
「ミラやアレックス達はどうするんですか?」
「軍の護衛を付けるから心配しなくていい。とにかくこれは命令だ。従ってもらう」
「…はーい⤵」
「返事が遅い!返事は短く。ハッキリと!」
「はい!」
「よろしい。では私は指揮に戻る。頼んだぞ」
そう言うと伯爵は部屋を出て行った。
あれ?何かデジャヴュ。
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