第36話 盗賊

「ジン、右の木の上に弓持ちがいる。注意しろ」


 並んで剣を構えるマットがこっそりと耳打ちしてくる。


 旅路は比較的順調だったと言っていいだろう。

 途中で小鬼や森林狼フォレストウルフボアといった獣は出てきたが問題なく処理できていた。


 そして明日には目的地のファジールに着けるかという所で盗賊が出てきた。

 今は馬車の前後を押さえられ盗賊の頭目と先頭にいるラントが話をしている最中だ。


「荷物と有り金を置いて行きゃあ殺しはしねぇ。命が惜しけりゃ無駄な抵抗しねぇで消えな」


「ふん、こちらも仕事なんでね。好き勝手させる訳にはいかないな」


「おいおい、それっぽっちの人数で20人以上の俺たちと遣り合おうってのか?死にたいなら止めはせんけどな。ギャハハハハ」


「さあ、どうかな。カーシャ!」


火炎球ファイヤーボール


 盗賊目掛けて飛んだ火の玉が二人ほど吹き飛ばした。


「野郎ども皆殺しだ!やっちまえ!」


「サティ、前へ!行くぞ!」


 あーあ、始まっちゃったよ。


 当然、後ろを囲んでた奴らも襲ってくる。

 まずはマットの言っていた射手を『ドン』と押して木から落とす。

 えっ、もう三人斬ったの!マット強ッ!丸坊主なのに(関係ない)


 ベルントもチャージで吹っ飛ばしてから容赦なくハルバートを振り回す。


 じゃあ俺も残りの連中を。

『ゴキ、ボキ、バキ、ベキ、ポキ』っと、はい終了。

 最後の奴、粗鬆症か?軟すぎる。

 ちゃんとカルシウムは摂ろうな。もう無理だけど。


「だからお前の魔法は何なんだよホントに」


 マットに文句を言われた。ちゃんと敵を倒したのに納得いかん。


 前の方も片付いたかな。

 二人ほど逃げ出したけど一人はサティの矢に首を射抜かれ、もう一人はカーシャに燃やされた。南無〜。


 頭領らしい大男が目を剥いて睨んでいる。生首だけど。


 所詮、図体がデカくて力が強いだけの田舎の乱暴者だ。三つ星くらいじゃ危ないかもしれないが、技術と経験のある五つ星冒険者に敵う訳がない。人数だけの烏合の衆なんてこんなもんだろう。


 盗賊は引き渡しても死刑だ。

 だから連行する手間を省くためにあっさり殺して首領の首と人数確認のための右手首だけ取れれば十分なんだとさ。それでも盗賊はいなくならないんだから酷い世界だ。どこの世紀末だよ。モヒカンはいなかったけど。


 死体を叢のちょっと深いとこに纏めて魔法で燃やして終了。そのままにしとくと獣が集まってくるから面倒だけど後始末は必要らしい。


 カーシャに疲れたと言ってリ〇Dせがまれたのはオマケだ。


 その日は日暮れまで移動して街道沿いの村の空き地で野営する事になった。

 60人ほどの小さな村だから宿屋なんてありません。


 場所の交渉をするときに盗賊の話をしたら大層喜ばれたそうだ。奴らは時々村に来ては乱暴狼藉を繰り返すので村でも困ってファジールに討伐を頼んでいたのだが、魔物の対応に手を取られ放置されていたらしい。


 お礼として振舞われた貴重な肉は美味かった。


「なあ、兄ちゃん。冒険者なんだろう?」


 焚火を囲んで飯を食っていると、村の少年に話しかけられた。


「ああ、そうだな」


「盗賊共をやっつけたんだから強いんだろ?」


「俺は大したことないよ。まだ三つ星だからな。あっちの坊主頭のおっちゃんは五つ星だからあっちの方が強い」


「五つ星かー、すげーなー。俺も冒険者になりたいんだ。なれるかな?」


「やる気があればなれるだろうけど危ないぞ」


「そんなの当たり前だろ。でも強くなって妹を護ってやるんだ。あんな盗賊共に負けないくらいに」


 10歳にも満たないであろうその少年の瞳は希望に溢れ輝いていた。


「お前、名前は?」


「ロキ」


「そうか、じゃあロキ。まず食え。大きくならなきゃ強くなれないぞ」


 村長が振舞ってくれた肉を差し出す。


「えっ、いいの?」


「俺たちは明日ファジールに着けばまた食べられる。だからこれはお前が食え。そして大きくなるんだ」


「うん、ありがとう」


 肉を美味そうに頬張るロキを見ながら最後の野営の夜は更けていった。







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