第33話 聖女
俺が立ち上がるとその気配で二人も立ち上がる。アレックスがバランさんを見て首を横に振っているが何かあったのか?
「今日はありがとうございました。せっかく機会を頂いたのに誇れる結果が出なかったのは残念ですけど、神父様の言われた通りこれからも冒険者で頑張ってみます。侯爵様にも宜しくお伝えください」
「適性については気にする事はないよ。冒険者についてはマックスから話があるだろうからこの後にでもギルドに寄りなさい。今日はギルドに居ると言っていたから」
「はい、早速行ってみます」
「アレックスはこのまま付いていてもいいかな?何かしらの手伝いはできるだろうから」
「できればお願いします。まだ街には知り合いが少ないですから、一緒に食事ができる相手がいるだけでもありがたいです」
「そうか。ならばアレックス、今まで通りジン君の補助を頼む」
「畏まりました」
そんな話をしながら教会の外に出た途端だった。
『ガッシャーン、ドッシャーン、……バーン』
隣の建物からの凄い破壊音に目を向けると、脂ぎったハゲオヤジが扉が壊れそうな勢いで飛び出してきた。
そのまま街中へと駆け去って行くオヤジの背中に罵声があびせらる。
「二度と来んじゃねーぞ!このエロオヤジ!!!」
頭から湯気が出そうな剣幕で建物から出てきた声の主は、控えめに言って美少女だった。
修道服のベールに包まれ頭髪が見えないからなのか、その顔の造りの美しさが際立っている。中でも金色とも見えるヘーゼルの大きな瞳を称えた眼は印象的だ。
「こ、これ、ミラ。一体何を」
慌てて出てきた神父が問いかける。
「神父様、あの男が私の尻を撫でたんです。あのオヤジ、前からスケベな目で人の事ジロジロ見やがって。もう許せませんから蹴り出してやりました!」
「お前は聖女なのだぞ。相応しい振る舞いというものがあるだろうに」
ん?今、聖女って言ったか?聖女ってもっとこう優しく包み込むようなイメージなんだが。あの言動はどう見ても下町の跳ねっ返り娘だぞ。
「そんな事言われてもー」
モジモジしながら辺りを見回し、呆然と眺める俺たちに気付いた様だ。
「!ア、アレックス様!い、今の見ちゃいました?」
コクンと頷くアレックス。
「ヒィ〜〜〜」
聖女は顔を両手で覆ってしゃがみこんだ。
「ミラ様は相変わらずお元気そうで何よりですね」
「そ、そうです。私は元気なのが取り柄ですから」
どんな取り柄の聖女だよ。そこは普通、強い癒しの力とかじゃないのかよ。
「今日はどうなさったんですか」
ソッコーで復活したようだ。回復が得意なんだな。さすが聖女なのか?
「こちらのジン様の鑑定に寄らせて貰いました」
ジト目で頭の天辺からつま先まで眺められてから挨拶された。
「初めまして、ミラです。教会では一応聖女と呼ばれています。アレックス様が付き添うなんてきっと凄い方なんですね」
一応ってなんだ。一応って。
「ジンです。こちらこそ。力が強いと評判の聖女様にお会いできて光栄です」
果樹園の爺さんが言ってたから間違いじゃないだろう。
「いやだー恥ずかしい。でもさっき見たことは忘れて下さいね、ゼッタイ!」
一見笑顔だけど絶対笑ってないよね。その目、脅してるよね。
女、怖っ。この聖女、怖っ!
「怪我したらいつでもいらして下さいね。アレックス様と一緒に」
「ハハハ、その時はよろしくお願いします」
乾いた笑いと共にそう答えるしかなかった。どんだけアレックス推しなんだよ。
後でアレックスに聞いたところ、ミラがこの街に来た時にバランさんに付いて挨拶に訪れたら何故か気に入られたそうだ。
「私も困ってしまって」
俺も言ってみたいわ!いーなーイケメン。
「それで適性はどうだったんですか?」
「何も出ませんでした。だからこれから冒険者として頑張るつもりです。怪我したらお世話になるかもしれませんから宜しくお願いします」
(何もないの?何か変わった雰囲気あるんだけどなぁ)
聖女の力のせいなのかミラの目には普通ではない何かが映ったようだ。
「そうなんですか。でも冒険者頑張ってくださいね。また来てください、アレックス様と一緒に」
結局それかい!
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