第30話 流れ
ジンたちが去ったローデリア商会の一室。
「彼を返してしまってよろしかったのですか?」
「こちらに対して害意がある訳ではなさそうだ。危険はなかろう。強引に拘束したところで転移魔法が使えるのであれば意味も無い事だ」
「確かに仰る通りではありますが、何もしないとういうのも何といいますか…」
「下手な事をすればそれこそ藪をつついて蛇を出すことになりかねんぞ。少なくとも一緒に遠征した冒険者を仲間と呼んでいたのだから、そこは信じるしかあるまいて」
「私としても彼を信用しないという訳ではないのですが…」
「それもだがせっかくマクシミリアンもいる事だし、お前達には話をしておこう。これから協力してもらう事になるしな」
室内の空気が変わりバランとマックスの表情が引き締まる。
「ワシが王都にまで出向いていたのは知っての通りだが、その目的は王に神託を告げるためだ。女神の使徒様が降臨したそうだ」
「「使徒様の降臨!」」
「そうだ。しかし、降臨した場所は告げられておらん。その外見もな。これから国中を探さねばならんのだ。しかも教会に覚られずに。その為には商人の情報もギルドの情報も必ず必要となるからそのつもりでいて欲しい」
「勿論です。ローデリア商会の総力を挙げて情報を集めます。まさかルカ様はジン君の事を…」
「そうだな、一つの可能性だとは思っている。しかし神託の直後にいきなり当人が目の前に現れるなど都合が良すぎるのも事実だ。神託の情報を知り得た者の罠と言われた方が納得できるかもしれんタイミングだからな」
「しかし彼は信徒ではないと言っていました」
「スクラ教の信徒ではないとしても使徒様と見紛う力を振るっておれば確認しない訳にはいくまい。まずは適性鑑定だ。明日は私も立ち会いたいが、私が行っては話が大きくなるだろう。バラン、頼めるか?」
「はっ。承りました」
「結果が使徒様に相応しい適性ならばジンに事情を説明する事になろう。そうでなければ何か別の手を考えるしかあるまい」
「別の手と言っても何かいい策がありますか?」
「無いわけでもないが、まずは明日だ。それから決めても遅くはなかろう」
本人の与り知らぬ所で話は進んで行く。
「ふぅ、あのメンツだとさすがに肩が凝るね」
表に出てようやく一息つけた。
「同行して頂きありがとうございました」
「いいのいいの。それよりお咎めなしでよかったね」
「それもジン様のおかげです」
「いや、そこはバランさんの度量でしょ。さすがジェントルマンだな」
「ジェントルマン?」
「紳士だよシ・ン・シ。それよりも、宿に戻る前に寄りたいとこがあるんだけどいいかな」
「はい。どちらへ?」
「貸し馬屋。急に遠征に出ちゃったからオルフェほったらかしにしちゃっただろ。絶対ヘソ曲げてそうなんだよな」
二度の乗馬練習に付き合っているアレックスは驚きの光景を思い出す。
初めてといっていた乗馬は二回目で既に完璧と言えるまでに馬を御していたのだ。
アレックスが馬屋のオヤジに話をしに行ってる間に馬場に行ってみるとオルフェが暇そうにしてた。
俺に気が付いても近寄ってこない。やっぱりヘソ曲げてますな。
仕方がないので人参で餌桶叩くとようやく近寄ってきた。
ふふ、所詮馬だな。
『ちょっとアンタ、来るって言っておいて何やってたのよ』
「ごめん、ごめん。急に討伐遠征に行く事になっちゃってさ」
『遠征?じゃあ仕方ないわね。あんたも仕事なんだろうから』
「そうそう。今日は陽が暮れるまで付き合うから勘弁してくれ」
『しょうがないわね。今回だけだからね。次からはちゃんと連絡しなさいよ』
「はーい、気を付けまーす」
何でデートすっぽかした彼氏みたいな事になってんだと思いながら一つの考えが浮かぶ。
こいつひょっとしてツンデレヒロイン枠なの?
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