第29話 侯爵

「なるほどのぅ。それ程の力だったか。ワシが見た力など、ほんの一部に過ぎなかったという訳か。やはり、バランに頼んだのは間違いではなかったということだな。ジンよ、その力どうやって手にした?」


「いやー、どうやってと言われても、いつの間にか使えるようになってたとしか…」


 嘘ではない。


「天賦の才という事か。確かに魔法士の中には努力せずとも魔法が使える者も居るからな」


 ほぼ勘違いです。


「が、それと比べてもその才が大きすぎるな。まるで女神スクラに愛されているようではないか。ジンは信徒なのか?」


「違います。断固として違います。教会にはこの前行きましたけど」


 本当の事である。


 あんなワガママの信徒になんか誰がなるか。あっ、そろそろまた教会行った方がいいのかな?確か来週とか言ってたけど一週間以上経ってる気がする。あの性格だからチョットヤバイかも。


「その魔法ちから、今までは秘してきたのだろう?使えば噂にならない訳はない。何故、今使ったのだ?」


「秘するというか使う時がなかっただけですね。それに今回、マットには余計な事をするなって言われてたけど、さすがに今回は相手も結構強くて手を出さないとみんな死んじゃいそうだったからかな。勝手に動いたことは反省してます。でも他に超能力ちからが使える人がいても同じ事したと思うな」


 反省の姿勢を示して情状酌量を狙ってみた。


 そんなジンの子供騙しとは別にルカは少し悩んでいた。


 この青年は己の力を理解していない。気軽に振るったその魔法ちからは類を見ないものであり、他と比して圧倒的であると思っていないのだ。それこそ女神の使徒といってもいい程の力なのだが。


 しかし、使徒様の降臨の神託を王に伝えるための旅路で、偶々出会った青年が使徒様などという偶然はあるのか。そして信徒ではない者が神の使徒になるなどという事があり得るのか。過去の記録からも敬虔な信徒であることが使徒となり得る必須条件のはずなのだ。


「ジンは適正鑑定を受けたことはあるのか?」


「いいえ、ないですね」


 適性鑑定。それは任意ではあるが教会で適性の高い職業を見てもらう事ができるのだ。因みに結構いいお値段なので一般人はあまり受けていない。親の仕事を継ぐのが普通だからね。貴族は別として一般人なら余程周りから特異な才能を認められた人じゃなきゃ金払ってまで適正なんか調べません。


 女神の使徒であるならばその適性は「剣聖」「大賢者」「大魔導師」「大聖者」、そして「勇者」といった歴史に名を残す極めて希少なものとなるはずだ。ならば確認してみるべきだろう。


「そうか、ならば一度見てもらうのがいいだろう。明日にでも教会を訪ねるがいい。手配はしておく」


 鑑定キターーー!


 やっぱりこの世界にもあったか。知る必要もなかったから確認もしてなかったよ。ステータス画面はどうやっても出ないもんだからその辺は諦めてたんだけどね。


 楽しみだけど教会か。仕方ない、スクラあいつのとこにも寄っておくか。


 女神との邂逅がついで扱いである。こんな奴が信徒の訳はない。


「はい。ぜひお願いします」


「そしてこの件の秘匿扱いは継続だな。何か問題が起きるようならワシの方で処理しよう。それでいいかマクシミリアン」


「はい、問題ありません」


「という事だ、ジン。お前は街中で無暗に魔法を使うな。騒ぎになっていい事などないからな。暮らしは今まで通りバランが面倒をみる。何かするときにはバランかマクシミリアンに必ず相談してからにするんじゃぞ。取り敢えずは明日の適性鑑定じゃな。今日はもう宿に戻っていいぞ。アレックスも。遠征の疲れもあるだろうから、まずはゆっくりと休め」


「分かりました。それでは失礼させて頂きます」


 俺はアレックスと共に一礼して部屋を出た。



  

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