第23話 誓い

 暗い森の中でパチパチと薪が爆ぜる音が響く。焚火の周りには6人の男女がいた。


 小鬼の集落で魔石の回収が終わるころには全員が何とか自分で移動できる状態まで回復したので、仲良く手を繋いで纏まってもらってから、昨夜の野営地まで転移した。


 しかし血と埃まみれのオッサンが集まって手を繋いでる絵面は酷いもんだ。マットは髪型チリチリアフロだし。あっ、俺のせいか。


 食事は誰もが疲れ、作る元気がなかったのでサンドイッチとおにぎりと弁当を配った。


 ん?この世界にない物配っていいのかって?


 ふん、細けぇ事ぁいいんだよ。文句があるならヴェルドに言ってくれ。女神さまのくれた能力だ。お墨付きなんだから大丈夫、大丈夫。ポンコツだけど。


 ついでとばかりに小屋で鍛えた技を披露してみた。


 その名も『超絶秘技 レンジ』


 弁当に掌を向け『2450MHzの電波よ出ろ』と念じるだけだ。弁当を温めたくてダメ元でやってみたらできた。1分少々で温まったから業務用の1500wより出力は強いようだ。これも念力なのかな。


 何しろ分子を1秒間に24億5千万回も振動させるんだから「超絶」を名乗ってもいいはずだ。


 くっだらねーと思ったそこの君。温かい食事の有難さをもう一度噛み締めるべきだ。


 弁当を選んだ人にはちゃんと宿で仕入れたフォークもあげたよ。小枝の箸は直ぐ折れるからもう嫌だ。ちょっとトラウマ。ウマシカじゃないぞ。


 食事をしながら聞いた話で発見が一つ。ファイトイパーツのドリンクはホントにポーションだった。


 飲んだリンとクラーラはかなりの数の回復を熟したはずなのに元気一杯で、全く疲れが無いそうだ。シェリルとコンラートもすっかり回復した。魔力が溢れてくるそうで、余りの好評に怪我人もリ〇Dで済ませてしまったので、黄〇液は出番が無くなった。


 タウリンとかカフェインて魔力に関係するの?単なるドーピングで、この後の疲労感が凄そうだな。キマッてるのとの判断が難しい気もする。危険薬物なのか?


 ポンコツが遊んでる気がする。魔力って何だ?


 赤い牛は気持ち元気になる程度だそうだ。翼は生えなかったようだ。成分は殆ど変わらないはずなのに不思議だ。やっぱり元祖だからなのだろうか。赤い牛は所詮リ〇Dをパクったパチモンなんだな。



 今いるのは月影のラント、赤き地平のクラーラ、剣の舞のコンラート、マット、と俺とアレックスの計6人。他の連中は怪我は問題ないくらいには回復しているけど念のため早目に休ませた。ラント、腕折れてなかったっけ?


「しっかし全滅しててもおかしくない状況だったんだぜ。こうして全員揃って無事なのが不思議でしかねえ」


「マットの言うとおりだな。今回はギルドの探索サーチの情報と違い過ぎた。戻ったらリーダーとして抗議しておく。それよりも問題なのはジン、お前だ」


「俺?みんなを危ない目に遭わせたのは謝るよ。でもマットが余計な事するなって言ってたし、アレックスにも止められたけど頑張ったつもりなんだけどな」


「えっ、俺?俺のせいなの?」


 マットがきょろきょと周りを見る。


「いや、そうじゃない。責めてる訳じゃないんだ。それどころかジンには感謝しかない。今俺たちが生きてるのはジンのお陰だ。俺が問題だと言ったのはジンの能力の事だ。まずは転移魔法。どうしてあんな魔法が使える?」


「他にも使える人がいるってアレックスに聞いたぞ。そんなに珍しくないだろ?」


「確かに王都の魔法士団には使い手がいると聞くが、複雑な魔法陣を構築して自分一人が転移できるだけのはずだ。20人も纏めて転移できるなんて聞いたこともない。しかも無詠唱なんだから、珍しいどころかあり得ないだろ」


 いや、転移魔法じゃなくて瞬間移動テレポートですから。


「それならあんなに何回も続けて使える事もね。普通なら一回で魔力切れを起こしてもおかしくないはずよ。あのポーションを飲みながらだとしても普通はあり得ないわ」


 クラーラが乗っかった。ポーションてリ〇Dの事か?魔力使ってないからね。


「あり得ないのはあの呪術師シャーマン魔法障壁マジックシールドを貫いた光の槍もだな。あれだけ強力な障壁をどうやれば貫ける?魔石回収の時に気付いたんだがもう一人は何故か首の骨が折れていた。あれも意味が分からない」


 コンラート、お前もか。魔法じゃないからだと思います。


「そういやお前、戦士ウォリアーの斬撃を片手で止めてたな。あれどうやるんだ?」


 マット、余計な事は言わないで。急募、俺の味方。


「アレックスはこいつにくっ付いてんだろ。魔法の事は知ってたのか?」


 マットがアレックスに問いかける。


「いえ、私はバラン様の指示でジンの街での暮らしを助ける様にいいつかっただけですので、魔法の事は何も。ああ、冒険者登録の時に火魔法が使えるのは知りましたが、あの数の小鬼を燃やし尽くすほどの力とは思いませんでした」


「げっ、お前らバランさんのとこの人間だったのか。やっぱりタダ者じゃねえな」


「えっ?バランさんてそんなにヤバイ人?」


「ローデリア商会のバランさんて言えば、領主様ともツーカーな大商会の商会主にして元六つ星冒険者じゃねえか。つまりは領主様の懐刀だ。ローバーの冒険者で知らないのはお前くらいだぞ」


「へぇー、カッコイイ金持ちだとしか思わんかった」


「カッコイイ金持ちって、お前…」


 マットに呆れられた。


「そんな事よりジンの魔法だ。ギルドにも申請してないって事はジンはこの力を隠したいのか?」


「特に隠したいとも思ってないけど、そのせいで周りがめんどくさくなるのは嫌かな。隠した方が平穏に暮らせるのならそれがいい」


「なるほど。元々、他の冒険者の技や力を言いふらしたり探ったりするするのは禁忌だからジンが望むのなら魔法の話はこの場限りにしよう。これは誓いだ。みんなもそれでいいな?」


「ああ」「はい」「うん」「だな」


「ただ、ギルマスには報告する必要があるかもしれない。それは了承して欲しい」


「ああ、ラントに任せるよ」


 ラントがリーダーらしく上手く纏めてくれた。ふぅ、助かった。


「俺たちは今回の成り行きを一切口外しない。ギルドへの報告も基本討伐成果だけだ。ジンの功績としては何も残らないがそれでいいか?」


「うん。平穏で自由な生活優先で行くから、ぜひそれでお願いします」


「わかった。だからここだけの話で教えて欲しいんだが、あの魔法は…」


 やっぱり聞くんかーい!





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