第10話 教会

「アレックスさん、却ってお世話になっちゃったみたいですいません」


「気になさらないで下さい。私はバラン様の指示に従ったに過ぎませんので。それよりもそろそろ昼になりますが、この後はいかがなさいますか」


「どこかで昼飯でも食べましょうか。せっかく準備は整ったけど今から依頼を受けるのも半端だし」


「何か希望はありますか?」


「希望する程知らないからなぁ。あれ、あの煮込み美味そうじゃないですか?」


「パロですね。この辺の人たちには人気の料理ですね。安くて量もあるので私もたまに食べますよ。この先にいい店があります」


 連れてこられたのは、いかにもな大衆食堂だった。店の名は ”ふるさと亭” 。


「いらっしゃいませ。アレックス、珍しいね。こんな時間にどうしたの?」


「お客さんを案内してきたのに珍しいはないだろうサーシャ。パロを二つ頼むよ」


「あら、ごめんなさい。好きなとこに座って」


 昼前でテーブルはいくつか空いていたので一番奥のテーブルに就く。


「はい、お待たせ。熱いから気を付けてね。こちらの方はお友達?」


「いや、バラン様のお客様だ。失礼のないようにしてくれよ」


「私がいつ失礼な事をしたのよ。また子ども扱いして。初めまして、私はサーシャです。パロはウチの自慢料理ですから安心して召し上がってくださいね」


「ありがとう。私はジン。アレックスさんのお薦めだから心配なんてしてないさ」


 うん、可愛い。サーシャと名乗った女の子はきっと看板娘だな。年のころは俺より下だな。16、7ってとこかな。エプロンでは隠しきれない豊かなお胸と、零れる様な笑顔が魅力的な女の子だ。アレックス、やっぱりリア充か。


「私は子供の頃、この辺りで育ったんですよ。店のオジサンにも世話になって。だからサーシャは小さい頃から知っていて。騒がしくてすいません」


「気にしない、気にしない。私もこういう雰囲気の方が好きですから。さあ、食べましょ」


 料理は美味かった。ホロホロになるまで煮込まれた肉が口の中で解ける。肉の脂と野菜の旨味が溶けあったスープも絶品だ。塩味が効いたパンを浸すとなおいい。


「うまっ」


「でしょう。良かった」


 アレックスの表情が少し和らいだような気がする。安心できる場所なんだろう。


 アレックスが付いてくるのは決して便宜を図る事だけが目的ではないのは、能天気な俺でも分かる。それが行動監視の為だとしたら尚更いい関係を築くべきだろうとも。俺だってちゃんと考えてるんだぞ。うん、サーシャちゃん可愛い。


「そうだ、この近くに教会はありますか?」


「ええ、ここからなら5分程歩けばスクラ教の教会があります。街では一番大きな教会ですね。信徒なのですか?」


「信徒じゃありませんけど、今回の巡り合わせに感謝を捧げるのも悪くないかと思って。こんな美味しい物も食べられてるし」


「では、この後にご案内しますね」




「また来てくださいね〜」


 食事を堪能して、ゆっくりお茶を飲んでから、サーシャちゃんに見送られて店を出た。


 辿り着いた協会は立派な建物だった。入口を入った身廊は広く、三百人は入れそうだ。内陣の一番奥には両手を胸の前で組んで心持ち上を向いた美しい女神を象った見事な白亜の像がある。


 これがあのポンコツなのか?女神スクラらしいが、ポンコツの名前は知らない。


 信仰心など1ミリも持ち合わせない俺がここに来た理由は、最後に聞こえた『教会にくれば少しはフォローできますから』の言葉を確認するためだ。


 どれ、とりあえず祈ってみるか。袖廊との交差部に立ってる神父の持つ箱に銅貨を一枚入れて内陣の手前まで進む。内陣には聖職者しか立ち入れないのが一般的だろう。そこで片膝を付き、両手を組んで頭を垂れた。


 すると意識が白く光ったと感じた瞬間に、あの白い空間に立っていた。今度は身体がある。


「良く来ました、我が僕よ。私はスクラ。貴方が悠木仁ですね」




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